2024 年 44 巻 p. 239-248
目的:看護学生のセルフ・コンパッションを高めるプログラムを開発し,バーンアウト予防に対する効果を検討した.
方法:総合病院附属の看護学生2年生157名に対し,計3セッションの集団授業形式のプログラムを実施した.測定項目は属性,バーンアウト,セルフ・コンパッションとし,介入前後の各変数の平均値の比較検討,各変数の変化量の関連性の検討を行った.
結果:有効回答126名を分析対象とした.介入後にセルフ・コンパッションが有意に向上し,下位因子のうち「共通の人間性」が増加し,「過剰同一化」が低減した.バーンアウトは介入前後で合計得点に有意差は見られなかったが,下位因子のうち「個人的達成感の減退」が有意に改善し,「脱人格化」が有意に増加した.
結論:本プログラムにおける看護学生のセルフ・コンパッションを高める可能性と,バーンアウトの予防に対するセルフ・コンパッションの有用性および課題が示された.
Aim: The purpose of this study was to develop a program to enhance self-compassion in nursing students and to determine its effectiveness in preventing burnout.
Methods: A three-session group class program was conducted for 157 second-year nursing students at a general hospital. The program measured attributes, burnout, and self-compassion, and the mean values of each variable before and after the intervention were compared, and the relationship between the amount of change in each variable was examined.
Results: The 126 respondents who provided valid responses were included in the analysis. Self-compassion significantly increased after the intervention, and “common humanity” and “over-identification” among the sub-factors increased and decreased, respectively. Regarding burnout, although there was no significant difference in the total score before and after the intervention, the subfactor “decreased sense of personal accomplishment” was significantly improved, while “depersonalization” was significantly increased.
Conclusion: Based on these results, this program is potentially effective in increasing self-compassion among nursing students. We further discuss the usefulness of self-compassion in preventing burnout, along with related future directions.
近年,看護師のバーンアウトが問題となっており,特に経験年数1年未満の新人看護師の6~7割がバーンアウト状態やうつ状態にあることが指摘されている(高岡・香月,2013).バーンアウトとは,「長期間にわたり人に援助する過程で,心的エネルギーが絶えず過度に要求された結果,極度の心身の疲労と感情の枯渇を主とする症候群であり,自己卑下,仕事への嫌悪,無関心,思いやりの喪失などを伴う症状」と定義され(Maslach & Jackson, 1981),職業性ストレスに伴う持続的で否定的な心理的反応である.バーンアウト状態は医療事故の発生に繋がりやすいこと(北岡(東口),2005),さらにバーンアウトの高さが新人看護師の離職要因となっていることが明らかとなっており(Suzuki et al., 2010),新人看護師のバーンアウトは,医療現場におけるケアの質の低下だけでなく,マンパワーの喪失に影響する看過できない問題である.
また,新人看護師のバーンアウト・抑うつ反応は,看護学生の実習時のバーンアウト・抑うつ反応と関連し,実習時と同様の不適応性を示すことが指摘されており(岡本・岩永,2016),看護学生におけるバーンアウトの問題も注目されている.看護学生のバーンアウトについては,国内外の研究において明確な定義はないが例えば国内においては,岡ら(1989)により「勉強・実習・生活をしていく過程で心的エネルギーが過度に要求された結果,心身の疲労を招き,勉強・実習をはじめ,日常生活行動に対する意欲が低下した状態」と定義されている.看護学生におけるバーンアウトの割合は研究により差がみられるものの,メタ分析におけるプールされた有病率は23.0%であり(Kong et al., 2023),我が国においても15~30%の看護学生がバーンアウト状態にあると報告されている(井奈波・井上,2011;渡辺・木村,2001).看護学生の教育課程においては,専門的な講義や演習に加え,専門職として必要となる知識や技術,態度を養うための臨地実習もあり,学年が進むにしたがって過密な学習スケジュールとなる.その中で,疲労,学習に対する否定的でシニカルな態度,学生としての不適格感を含む学習に関連した症候群である「学習上のバーンアウト」(Salmela-Aro et al., 2009;Salmela-Aro & Read, 2017)が生じ,入学年次から学年が進むにしたがってその割合が高くなること,さらに学生時の学習上のバーンアウトが就職後にも影響し,早期離職の予測因子となることが指摘されている(Rudman & Gustavsson, 2012).したがって,看護学生の時期からのバーンアウト予防が,看護学生のメンタルヘルスのみならず,新人看護師のバーンアウト予防,さらには早期離職予防においても重要であることが考えられる.なお,バーンアウトは,「情緒的消耗感」,「脱人格化」,「個人的達成感の減退」の3つの症状で定義されている(Maslach & Jackson, 1986).看護学生の場合,学生としての役割と医療専門職としての役割の両方を同時に維持するという役割の二重性を有しており(Rudman & Gustavsson, 2012),学習上のバーンアウトと職業性のバーンアウトの両者を体験する可能性があると考えられるため,看護学生のバーンアウトにおける各症状については,学習上のバーンアウトの定義も踏まえた上で,「情緒的消耗感」は,学業や実習を通じて情緒的に力を出し尽くし消耗・疲弊してしまった状態,「脱人格化」は,学業や他者を含めた対象に対する無情で非人間的な対応,「個人的達成感の減退」は,学業や対人援助に関わる有能感,達成感の低下を意味する(久保,2007;Salmela-Aro & Read, 2017).
近年,バーンアウトに対する介入要素としてセルフ・コンパッションが注目されている.セルフ・コンパッションとは,ネガティブな状況に陥っても,自分を非難するのではなく,自分自身に思いやりの気持ちを持って接することである(Neff, 2003).セルフ・コンパッションは,「自分への優しさ(self-kindness)」といった情緒的反応,「共通の人間性(common humanity)」といった認知的な理解の仕方,「マインドフルネス(mindfulness)」といった注意の向け方の三つの構成要素から成り立っており,その三要素を説明する際,「自己批判(self-judgement)」,「孤独感(isolation)」,「過剰同一化(over-identification)」がそれぞれ対のものとして表現されている.セルフ・コンパッションとバーンアウトの関連を調べた研究はいくつかあり,看護師を対象とした調査では,セルフ・コンパッションと共感疲労,バーンアウトは負の相関がある(Duarte et al., 2016;Durkin et al., 2016)ことや,セルフ・コンパッションの肯定的な面を高めることによりバーンアウトが回避できる可能性(Montero-Martin et al., 2020)が明らかにされていることから,セルフ・コンパッションを高めることで,バーンアウトの低減に繋がる可能性が考えられる.一般的にセルフ・コンパッションを高める介入技法には,代表的なものとして,Mindful Self-Compassion program(MSC; Neff & Germer, 2013),Self-Compassion Healthcare Communities program(SCHC; Neff et al., 2020)などのプログラムがあり,医療従事者などを対象とした効果検討において,セルフ・コンパッションを向上させ,バーンアウトや抑うつなどの精神症状を低減できることが示されている(有光,2021;Neff et al., 2020).しかし,看護学生のバーンアウトに対して,セルフ・コンパッションを高める介入研究はなく,効果的な方法は明らかとなっていない.また,セルフ・コンパッションへの介入を行った際に,セルフ・コンパッションの各要素の変化が,バーンアウトの3つの症状である情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の変化に対してどのように関連するかについても明らかとなっていない.セルフ・コンパッションの各要素の変化とバーンアウトの各症状の変化の関連について検討することで,各症状を有する看護学生に有効な要素が明らかになり,よりバーンアウト予防に特化した効果的な介入の開発につながると考える.
したがって本研究では,看護学生のセルフ・コンパッションに対する介入プログラムを作成・実施し,看護学生のバーンアウト予防に対するセルフ・コンパッションの有効性を検証する.具体的には,介入プログラムを実施することによって,セルフ・コンパッションが向上することを検証する(仮説1).また,介入プログラムによって,セルフ・コンパッションが高まるのであれば,バーンアウトが低減することを検証する(仮説2).加えて,医療従事者に対する先行研究(Neff et al., 2020)ではセルフ・コンパッションの向上とバーンアウトの低減との関連性が示されているため,介入後に得点の向上が示されたセルフ・コンパッションの要素については,その得点の変化量とバーンアウトの各症状の得点の変化量との間に有意な相関関係が示されることが考えられる(仮説3).したがって,要因間の関連性について探索的に検討する.
総合病院附属の3年制看護専門学校(以下,看護学校とする)に在籍する2年次生157名(1年度目の2年次生:82名,2年度目の2年次生:75名)のうち,研究参加の同意を得られた者を対象とした.そのうち質問紙調査において有効回答が得られた126名(男性10名,女性115名,無回答者1名)を分析対象とした.平均年齢は19.68 ± 1.62歳であった.
2. 実施手続き看護学校の2年次生に対し,約半年間(1年度目:2021年9月~2022年3月,2年度目:2022年9月~2023年3月)の介入プログラムを実施した.介入時期については,介入プログラムについての説明会を行った後,初回,2回目,3回目の各臨地実習終了後の期間にセッション1,2,3を実施した(図1).介入プログラムは,看護学校のホームルームの枠を用いて集団授業形式で行われ,プログラムの進行は臨床心理学を専攻する大学院生が行い,2~3名のサポートが進行の補助を行った.効果測定の時期については,初回臨地実習開始前かつ介入前の2021年9月および2022年9月,介入後の2022年3月および2023年3月に,オンラインによる質問紙調査を実施した.調査はGoogleフォームを使用し,アンケートフォームへのリンクを対象者に配布し,回答させた.調査時にオンラインにアクセスするデバイスがない対象者については,紙面による質問紙を配布して回答させた.

本研究で実施したプログラムは,Neff & Germer(2013)による,セルフ・コンパッションの涵養を促すトレーニングプログラムであるMindful Self-Compassion program(以下,MSCとする)を参考に,「自分への優しさ」,「共通の人間性」,「マインドフルネス」の3要素を組み込み作成した.セッションは全3回で構成され,各セッションは90分間とした.各セッションの内容は表1に示す.各回は,パワーポイントによる説明,個人ワーク,グループワーク,ホームワーク,振り返りアンケートから構成されている.
| セッションとテーマ | 概要 | 内容・ホームワーク |
|---|---|---|
| 1.セルフ・コンパッションについて知る |
・セルフ・コンパッションの概要について知る ・新人看護師における問題や苦痛,バーンアウトについて理解する |
●セルフ・コンパッションの心理教育 ●自分を思いやる体験 HW:スージングタッチのワーク |
| 2.実習で感じる困難に対してセルフ・コンパッションを実践する① |
・看護実習における困難や苦痛への気づきを受容する ・マインドフルネスを実践する(食べる瞑想,呼吸のマインドフルネス瞑想) |
●マインドフルネスの心理教育・実践 HW:呼吸のマインドフルネス瞑想のワーク |
| 3.実習で感じる困難に対してセルフ・コンパッションを実践する② | ・セルフ・コンパッションを実践し,看護実習や生活での困難に取り組む(慈悲の瞑想) |
●セルフ・コンパッションの実践 HW:セルフ・コンパッションのワーク,活動計画 |
心理教育の内容は,看護学生に特有の内容として,看護師の離職やバーンアウトの話題,看護師にセルフ・コンパッションが必要である理由などを取り入れた.介入で取り扱う困難場面については,看護学校教員の意見を取り入れ,看護学生が実習場面や学業場面を含む学校生活や日常で直面しやすく,理解しやすい場面を設定した.またホームワークについては,セッション中のワークで体験し学んだ内容を,セッション数が限られる中で継続的かつ習慣的に練習することを目的とし,ホームワークの内容や記録をよりシンプルで負荷が少なく継続しやすい形とした.
4. 指標質問票は基本属性および効果指標で構成し,基本属性は,性別,年齢,学年,将来希望する職種の選択とした.効果指標として,以下の尺度を使用した.
1) セルフ・コンパッションセルフ・コンパッション尺度日本語版短縮版12項目(Self-Compassion Scale-Japanese version-Short Form: SCS-J-SF: 有光ら,2016)を使用した.「苦労を経験しているとき,必要とする程度に自分自身をいたわり,やさしくする」,「自分自身の欠点や不十分なところについて,不満に思っているし,批判的である」などの質問があり,全12項目から構成され,1(いつもそうでない)から5(いつもそうである)の5件法とした.肯定的因子である「自分への優しさ」,「共通の人間性」,「マインドフルネス」と,セルフ・コンパッションの欠如を表す否定的因子である「自己批判」,「孤独感」,「過剰同一化」の6つの因子が測定され,セルフ・コンパッションの合計得点を算出する際は3つの否定的因子の得点は逆転して処理される.合計得点の範囲は12~60点で,得点が高いほどセルフ・コンパッションが高いことを示す.6つの下位因子のうち3つの肯定的因子は得点が高いほどセルフ・コンパッションが高いことを示し,3つの否定的因子は得点が低いほどセルフ・コンパッションが高いことを示す.なおこの尺度は,Neff(2003)によって開発されたSelf-Compassion Scale(以下,SCSとする)の日本語版(SCS-J: 有光,2014)をRaes et al.(2011)によるself-compassion scale short form(以下,SCS-SFとする)と同様の12項目に短縮したものであり,有光ら(2016)によって大学生を対象に信頼性と妥当性が確認されている.看護学生のセルフ・コンパッションを評価する先行研究(Alquwez et al., 2021;Luo et al., 2019)においては,SCSやSCS-SFが多く用いられており,本研究においても,これらの尺度と因子モデルが同等でありかつ信頼性と妥当性が確認されているSCS-J-SFを使用することとした.
2) バーンアウト日本版バーンアウト尺度(久保,2004)を使用した.「体も気持ちも疲れはてたと思うことがある」,「われを忘れるほど仕事に熱中することがある」などの質問があり,全17項目から構成され,1(ない)から5(いつもそうである)の5件法とした.本研究では臨地実習を経験する看護学生を研究対象としたため,実習時の体験を振り返り回答するよう提示した.「情緒的消耗感(5項目)」,「脱人格化(6項目)」,「個人的達成感の減退(6項目)」の3つの因子が測定される.合計得点の範囲は17~85点で,合計得点においても,3つ下位因子においても,得点が高いほどバーンアウトが高いことを示す.なおこの尺度は,田尾(1987)がMaslach Burnout Inventory(以下,MBIとする)初版を含む海外のバーンアウト尺度を参考に日本の看護師の労働環境に適合するよう新たに作成した20項目を下に,その後の研究(久保,1998;久保,1999)において項目の追加,削除を行い17項目にまとめられ,久保(2014)によって信頼性と妥当性が確認されている.メタ分析によると看護学生のバーンアウトの評価においてはほとんどの研究でMBIが用いられており(Kong et al., 2023),日本版バーンアウト尺度は,対人援助職を対象としたMBI-HSSの日本語版と中程度から高程度の類似性が認められており,また3因子モデルによる確認的因子分析により良好な適合度が認められ日本の対人援助を行う者にとって答えやすい内容であることが示唆されている(井川・中西,2019).したがって本研究においては,教育課程で対人援助について専門的に学びかつ,臨地実習を通して看護師としての業務を実践的に学ぶという特徴を持つ看護学生のバーンアウトを評価するために,日本版バーンアウト尺度を使用することとした.
5. 統計解析介入による評価項目の変化(仮説1・2)を検討するために,時期(介入前 / 介入後)を独立変数,セルフ・コンパッション合計得点,セルフ・コンパッション下位因子得点,バーンアウト合計得点,バーンアウト下位因子得点を従属変数として,対応のあるt検定(両側検定)を行った.次に,介入標的であるセルフ・コンパッションの各要素の変化とアウトカムであるバーンアウトの各症状の変化との関連性(仮説3)を検討するために,各変数の介入前から介入後にかけての変化量を算出し,Spearmanの順位相関分析を行った.有意水準は,すべて5%未満とした.
なお,事前に統計的なサンプルサイズの算出は行われなかったが,メタ分析(有光,2021)に基づき,介入によるセルフ・コンパッションの効果量の中央値(d = 0.56)を用い,α = .05,1 – β = .80の下,10%のドロップアウトを考慮してサンプルサイズを事後に算出したところ31名必要であることが推定されたため,十分なサンプルサイズであったと考えられる.
統計解析には,統計分析ソフトHADon17_206(清水,2016)およびG*Power 3.1.9.2(Faul et al., 2007)を使用した.
6. 倫理的配慮本研究は,独立行政法人国立病院機構呉医療センター倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2020-37).対象者に対する研究説明および介入は,看護学校に所属しない臨床心理学の研究者および介入のためのトレーニングを受けた臨床心理学を専攻する大学院生が行った.いずれの調査・プログラム実施時においても,研究の目的及び内容,研究への参加は強制ではなく自由意思によること,途中で参加を止める自由があること,本研究への参加の有無は学業成績評価とは無関係であること,質問紙調査により収集したデータは数値化し個人が特定されないようにすること,データは研究目的にのみ使用されることを口頭および文書で説明した.本研究の参加については,質問紙への回答をもって同意とみなした.また,質問紙調査で得られたデータは学籍番号による照合を行った後,匿名化された識別番号による記号割付を行い,縦断調査を行った.学籍番号と氏名に関しては学校内で厳重に管理され,介入およびデータ解析を行う研究者が入手することはなく,研究者は個人を特定することはできないこと,データは研究者により厳重に管理され回答の有無や回答内容が学校関係者に知られることはないことを口頭および文書で説明し,対象者の研究参加への自由意思を保障できるよう配慮した.
有効回答者126名における介入前と介入後のデータを用いて,各変数の基本統計量を算出した(表2).尺度の信頼性を検討するために尺度ごとにCronbachのα係数を算出したところ,全ての尺度において .70以上であり,許容範囲の信頼性を有することが示された.
| 変数名 | 得点範囲 | 介入前 | 介入後 | t値 | α | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均値 | 標準偏差 | 平均値 | 標準偏差 | |||||
| セルフ・コンパッション(SCS-J-SF) | ||||||||
| (合計得点) | 12~60 | 35.43 | 8.72 | 36.98 | 7.74 | –2.457* | .75 | |
| 自分への優しさ(self-kindness) | 2~10 | 6.44 | 1.75 | 6.55 | 1.67 | –.672 | .77 | |
| 共通の人間性(common humanity) | 2~10 | 5.94 | 2.20 | 6.34 | 1.95 | –1.986* | .86 | |
| マインドフルネス(mindfulness) | 2~10 | 6.45 | 1.87 | 6.60 | 1.79 | –.788 | .75 | |
| 自己批判(self-judgement) | 2~10 | 6.15 | 2.16 | 6.08 | 1.98 | .364 | .88 | |
| 孤独感(isolation) | 2~10 | 6.01 | 2.40 | 5.76 | 2.12 | 1.327 | .74 | |
| 過剰同一化(over-identification) | 2~10 | 7.24 | 2.34 | 6.67 | 2.36 | 3.050** | .87 | |
| バーンアウト(日本版バーンアウト尺度) | ||||||||
| (合計得点) | 17~85 | 49.41 | 9.96 | 49.70 | 9.54 | –.405 | .86 | |
| 情緒的消耗感 | 5~25 | 16.73 | 4.46 | 16.56 | 4.28 | .508 | .79 | |
| 脱人格化 | 6~30 | 11.31 | 4.64 | 12.82 | 4.66 | –4.048** | .88 | |
| 個人的達成感の減退 | 6~30 | 21.37 | 4.61 | 20.32 | 4.26 | 2.620* | .85 | |
注)SCS-J-SF = Self-Compassion Scale-Japanese version-Short Form
* p < .05, ** p < .01
なお,有効回答者126名におけるデータは,異なる年度の2年次生集団(1年度目:67名,2年度目:59名)に同じ介入を行い得られたデータであるため,2つの群のベースラインにおける等質性を確認するため,属性(性別,年齢)および介入前の各変数の得点についてt検定を行った.またカテゴリー変数についてはχ2検定を行った.分析の結果,いずれの属性,変数においても両群間に有意な差は認められなかった(性別:χ2 (2) = 1.603;年齢:t (124) = .825;セルフ・コンパッション合計得点:t (124) = –.157;自分への優しさ:t (124) = –1.245;共通の人間性:t (124) = –1.484;マインドフルネス:t (124) = .462;自己批判:t (124) = .491;孤独感:t (124) = –.850;過剰同一化:t (124) = –.936;バーンアウト合計得点:t (124) = –.406;情緒的消耗感:t (124) = –.032;脱人格化:t (124) = .285;個人的達成感の減退:t (124) = –1.138,全てns).
2. 介入前後の各指標の変化介入前後の各変数の平均値を比較するために対応のあるt検定(両側検定)を行った(表 2).その結果,セルフ・コンパッションについては,介入後に合計得点の有意な向上が認められた(t (125) = –2.457, p < .05).また,セルフ・コンパッションの6つの下位因子のうち,「共通の人間性」が有意に向上し(t (125) = –1.986, p < .05),「過剰同一化」が有意に低減した(t (125) = 3.050, p < .01).バーンアウトについては,合計得点は介入前後で有意な変化が見られなかったが,下位因子である「個人的達成感の減退」は有意に改善し(t (125) = 2.620, p < .05),一方で「脱人格化」は有意に上昇した(t (125) = –4.048, p < .01).
3. セルフ・コンパッションの各要素とバーンアウトの関連セルフ・コンパッションの各要素の変容とバーンアウトの各症状の低減との関連性を検討するために,各指標に関する介入前から介入後にかけての変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いた値)を求め,変化量の相関を算出した(表3).なお,変化量については,セルフ・コンパッションの合計得点および,「自分への優しさ」,「共通の人間性」,「マインドフルネス」はその差が正の値である場合に,「自己批判」,「孤独感」,「過剰同一化」はその差が負の値である場合に,セルフ・コンパッションの増加を示し,バーンアウトの合計得点および3つの症状はその差が正の値である場合にバーンアウトの増加を示す.相関分析の結果,セルフ・コンパッションの合計得点および,「自分への優しさ」,「共通の人間性」,「マインドフルネス」の変化量は,「個人的達成感の減退」の変化量と有意な負の相関が見られた(順にr = –.281, p < .01;r = –.333, p < .01;r = –.286, p < .01;r = –.208, p < .05).つまり,介入によるセルフ・コンパッション,および3つの肯定的因子の高まりは,個人的達成感の低下の緩和と関連することが示された.また,セルフ・コンパッション合計得点の変化量は,「情緒的消耗感」の変化量と有意な負の相関(r = –.258, p < .01)が見られ,「自己批判」,「過剰同一化」の変化量は,「情緒的消耗感」の変化量と有意な正の相関(順にr = .192, p < .05;r = .361, p < .01)が見られた.つまり,介入によるセルフ・コンパッションの向上および,否定的因子のうち「自己批判」,「過剰同一化」の低下は,情緒的消耗感の低減と関連することが示された.セルフ・コンパッションの各要素と「脱人格化」との間には有意な相関は見られなかった.
| n = 126 | バーンアウト(合計得点) | 情緒的消耗感 | 脱人格化 | 個人的達成感の減退 |
|---|---|---|---|---|
| セルフ・コンパッション | ||||
| (合計得点) | –.350** | –.258** | –.133 | –.281** |
| 自分への優しさ | –.326** | –.168 | –.108 | –.333** |
| 共通の人間性 | –.202* | –.001 | –.071 | –.286** |
| マインドフルネス | –.175* | –.020 | –.089 | –.208* |
| 自己批判 | .171 | .192* | .086 | .063 |
| 孤独感 | .080 | .140 | .003 | .022 |
| 過剰同一化 | .241** | .361** | .092 | .043 |
* p < .05, ** p < .01
本研究の目的は,看護学生を対象に,セルフ・コンパッションに着目したプログラム介入を行うことによりセルフ・コンパッションの向上および,バーンアウトの低減効果を確認することと,セルフ・コンパッションの各要素とバーンアウトの各症状の関連性について検証することであった.
プログラム介入の結果,介入前と比較し介入後のセルフ・コンパッションの合計得点が増加しており,介入後にセルフ・コンパッションが向上するという仮説1は支持された.またバーンアウトにおいては,介入前後において合計得点の有意な変化は示されず,介入後にバーンアウトが低減するという仮説2は支持されなかった.一方で,看護学生のバーンアウトは臨地実習の影響を受け高まることが指摘されているため(Kong et al., 2023;杉田ら,1993),実習前かつ介入前のバーンアウト合計得点と,実習後かつ介入後のバーンアウト合計得点において有意な差が見られなかったことは,時間経過による全体的なバーンアウトの悪化を抑制しているという可能性も示唆される.本プログラムの実施により,介入要素であるセルフ・コンパッションを高める可能性が示唆されたこと,またバーンアウトの直接的な低減には至らなかったものの,全体的なバーンアウトの変化が認められなかったことは,意義のある結果であると言える.
なお,バーンアウトの症状のうち,介入後に「個人的達成感の減退」が有意に改善しており,「脱人格化」が有意に増加していた.このことは,これまでの国内におけるバーンアウト予防のための介入研究において,「情緒的消耗感」,「脱人格化」については介入効果が認められなかった一方,「個人的達成感の減退」についてはいくつかの支援アプローチで介入効果が認められたという先行研究(上野ら,2016;吉田,2014)と同様の傾向である.この理由として,Brookings et al.(1985)は,「情緒的消耗感」,「脱人格化」は職場などの環境が原因となり生起する感情であり,「個人的達成感の減退」は被援助者との関係から喚起される感情であるといったように3つの症状の原因が異なることを挙げている.本プログラムは,自己に生じた苦痛をありのまま受け入れ自分自身に思いやりの気持ちを持って接するという自己との肯定的な関わり方であるセルフ・コンパッションに着目したものであるため,看護学生が臨地実習中に被援助者との関係で生じるネガティブな感情や葛藤と関連する「個人的達成感の減退」の改善に貢献した可能性が考えられる一方,看護学生において困難が生じやすい学習場面や実習場面といった環境面そのものに直接影響を与えることは難しく,「情緒的消耗感」,「脱人格化」に介入効果が得られなかったと推測される.
さらに,セルフ・コンパッションの各要素とバーンアウトの各症状の関連性の検証を行い,変化量の相関分析の結果から,セルフ・コンパッションの肯定的な3要素である「自分への優しさ」,「共通の人間性」,「マインドフルネス」の向上と個人的達成感の低下の緩和との関連,対の否定的要素である「自己批判」,「過剰同一化」の低減と情緒的消耗感の低減との関連が示唆され,仮説3は部分的に支持された.本プログラムにおいては,セルフ・コンパッションの要素のうち介入後に有意に変化していたものとして,「共通の人間性」の向上と,「過剰同一化」の低減が認められたことから,集団形式のプログラムにより集団での一体感を得られたことや,他者と共有するグループワークを行い困難や苦しみは自分だけが抱えている問題ではなく誰もが体験しうるものであるという共通体験を得られたことにより,「共通の人間性」が促進され,看護学生の個人的達成感の低下の緩和に寄与した可能性が考えられる.このことは,本プログラムそのものの効果であるとは一概には言えないが,個人への介入を行うよりも集団形式での介入プログラムが有効であるという一つの可能性が示唆される.また,本プログラムは,MSCを参考にマインドフルネスの心理教育と実践を取り入れているため,「過剰同一化」をやわらげ,それが看護学生の情緒的消耗感の低下に関連する可能性が考えられる.バーンアウトの各症状の生起プロセスや関連要因等については,これまで様々な議論があり一致した見解が得られていない面はあるが,バーンアウトの初期症状・主症状とされている情緒的消耗感が軽減することで看護学生のバーンアウトに対する早期介入に繋がる可能性がある点,また個人的達成感の低下が持続すると離職願望に結びつくという指摘(久保,2007)を踏まえると看護学生時期から個人的達成感の低下を防ぐことで看護学生のドロップアウト,さらには看護師として就職後の離職に対する早期予防・早期対策に繋がる可能性があるという点で,意義がある結果が得られたと考えられる.一方で,セルフ・コンパッションの各要素と「脱人格化」の変化との間に関連は見られず,このことから,「脱人格化」はセルフ・コンパッションへの介入のみでは変化し辛いことが推測された.また,バーンアウトの症状のうち,「脱人格化」が介入後に増加していた点については,先行研究(Babenko-Mould & Laschinger, 2014;Marta et al., 2020)では実習場面での看護職員や臨床指導者との人間関係や,多忙による睡眠の質の低下により,看護学生の「脱人格化」,「情緒的消耗感」を増加させることが指摘されており,臨地実習が開始され患者やスタッフとの関わりが増えることや,学業や実習で課される多くの課題によって負荷が増大することに対し,情緒的なエネルギーの消耗を防ぐ防衛反応として「脱人格化」が高まった可能性がある中で,本プログラムによる介入効果は乏しかったと言える.例えば岡本・岩永(2013)は,看護学生の実習時の「脱人格化」はソーシャルスキルの低さと関連していることを指摘しており,適切で十分なソーシャルスキルの獲得が,看護学生の「脱人格化」を低減させる際の介入ターゲットとして考慮すべき要因の一つであると考えられる.これらの結果を踏まえ,看護学生のバーンアウト予防においては,本プログラムのような自己との関わり方に働きかけるアプローチに加え,個々のソーシャルスキルを適切に高めるアプローチなど,バーンアウトの各症状に対し介入ターゲットを設定し,看護基礎教育課程に体系的に取り入れていくことが有用であると考える.
なお,本研究では,対象とする看護学生にプログラムを実施する際に,授業や実習スケジュールといった時間的制約があったため,MSCを含む先行研究のプログラムで設定されている介入期間を短縮し,短期間で実施可能なプログラム内容とした.これまでセルフ・コンパッションを高める介入研究で有効性が示唆されているMSCやSCHCといったプログラムは,1回2~2.5時間のセッションを8週間に渡って行うといった長期的で集中的な技法であり,本研究で開発した短期的で限定的な介入プログラムの実施により,セルフ・コンパッションを高める可能性が得られたことは,医療従事者や学生など介入期間や介入方法が制約されるような集団においても,セルフ・コンパッションをターゲットとした介入が可能であることを示唆しており,意義があると考える.
しかし本研究で考慮すべきこととして,相関係数の小ささからも本研究で得られた各要因の関連性を十分に結論づける結果とは言い難く,また各要因の因果関係や介入による効果が明確に示されたわけではない.本プログラムのような全対象者に対するユニバーサルタイプの予防プログラムにおいては,効果量が小さいという課題(Brunwasser et al., 2009)がある一方で,予防という観点からは効果量が小さくとも有意義な介入であることも指摘されており(Spence & Shortt, 2007),介入の効果や意義を明確にするために,看護学生のバーンアウト予防における関連要因に関する基礎的研究などさらなる詳細な検討が必要である.
1. 本研究の限界と課題本研究における限界点として,本研究は単一の教育機関で実施しているため一般化可能性の低さが挙げられる.今後は対象機関や対象者を増やし,研究結果の一般化を目指す必要がある.次に,統制群を設定し比較検討ができていない点が挙げられる.今後は統制群を設定した上で各要因の関連性や介入効果についてより詳細な検証を進めていく必要がある.また,介入後の継続的な調査やフォローアップ介入がなされていない点が挙げられる.本研究では介入後にセルフ・コンパッションの向上が見られプログラムの効果が部分的に示されたが,実際にバーンアウトの予防に役立ったかどうかについて,フォローアップおよび入職後も含めたより長期的な縦断調査を行い,確認していく作業が必要である.
以上の課題を考慮し,看護学生のバーンアウトに関連する作用機序やプログラムの介入効果をより詳細に検討していくことにより,本プログラムの有効性および応用可能性を高めることが期待される.
本研究において,看護学生のバーンアウトに対し,セルフ・コンパッションに着目した介入プログラムを作成・実施し,看護学生のセルフ・コンパッションを高める可能性が示された.バーンアウトの合計得点の低減は得られなかったが,個人的達成感の低下の緩和が見られ,それに対しセルフ・コンパッションの要素のうち,共通の人間性の変容が関連している可能性が考えられた.また,過剰同一化の変容が情緒的消耗感の変容に関連している可能性も考えられた.セルフ・コンパッションにおいて,マインドフルネスの十分な涵養,共通の人間性の認識と習得が,看護学生のバーンアウト予防において有用である可能性が示唆された.看護学生のバーンアウトとセルフ・コンパッションに関する研究はこれまで限られていたため,本研究は実証的な証拠を提供した.今後は,これらの要因の因果的推論についてのさらなる基礎的研究および介入プログラムの効果検討を行うことで,看護学生のバーンアウトの予防,さらには看護師として就職後のバーンアウトの予防,早期離職率の低下に寄与できる可能性があると考える.
謝辞:本研究の趣旨にご賛同くださり,快くご協力いただきました看護学校の教員の皆様および学生の皆様に,心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:JS,SH,MM,KK,AO,ST,AM,MTは研究の着想およびデザインに貢献した.JS,SH,MM,RMはデータの収集を行った.RM,SH,STは統計解析を行った.STは解釈,原稿の作成を行い,AOは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承認した.