日本看護科学会誌
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原著
統合失調症をもちながら地域で暮らす当事者に対して訪問看護師が行うレジリエンス支援の有用性評価
大平 幸子
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2024 年 44 巻 p. 317-327

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Abstract

目的:本研究の目的は,地域で暮らす統合失調症をもつ当事者に対して訪問看護師が行うレジリエンス支援の有用性を評価することである.

方法:訪問看護ステーションおよびデイケアを利用している統合失調症をもつ当事者を対象に,本支援を実施した23名を介入群,通常の支援のみを実施した21名を対照群として,3時点(介入前,介入開始2か月後,介入開始3か月後)において自記式質問紙調査をおこなった.

結果:精神障害者のレジリエンスの帰結である治療への取り組み,主観的幸福感,病気の予防と悪化の防止,健康状態の改善は,介入前より介入開始2か月後および介入開始3か月後において介入群が有意に改善を認めた.

結論:本支援は地域で暮らす統合失調症をもつ当事者の服薬意識や薬に対する構え,主観的幸福感,地域生活に対する自己効力感,精神機能の改善を促すための一つの支援になり得る可能性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To evaluate the effectiveness of resilience support for community-dwelling patients with schizophrenia by visiting nurses.

Methods: We conducted a self-administered questionnaire survey before and 2 and 3 months after the initiation of intervention. The patients were divided into an intervention group using home-visit nursing facility and daycare services (23: regular support provided in psychiatric home-visit nursing + resilience support) and a control group (21: regular support only).

Results: The intervention group showed improvement in terms of attitudes toward treatment, subjective well-being, and disease and deterioration prevention as consequences of resilience support for people with mental disorders, and the health status was markedly improved at 2 and 3 months after the initiation of intervention than before it.

Conclusion: Resilience support by visiting nurses may be effective in helping community-dwelling patients with schizophrenia by improving attitudes (e.g. readiness, awareness) toward treatment, subjective well-being, self-efficacy within the community, and mental function.

Ⅰ. 緒言

わが国の精神医療施策は,「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づき改革を進め(厚生労働省,2004),近年では新規に入院した精神障害者の88%が1年未満に退院を果たすようになった(厚生労働省,2022).ところが,退院後3か月以内の再入院率は漸増傾向にあり(厚生労働省,2011, 2018),その背景には早期退院を重視するあまり在宅医療の条件が整わないうちに退院する事例がある(平田,2012)と指摘されている.このような状況を踏まえ厚生労働省(2017)は,精神障害の有無や程度にかかわらず,誰もが安心して自分らしく暮らすために,地域の中で日常的かつ継続的な医療の提供機能をもつ訪問看護のさらなる充実と強化が必要だとしている.

厚生労働省(2023b)によると,精神科訪問看護利用者の49.2%は統合失調症をもつ当事者である.統合失調症をもつ当事者は,疾患に伴う認知機能の低下(Parlar & Heinrichs, 2021),社会的スティグマやセルフスティグマ(Link, 1987),社会参加の阻害(Singh et al., 2016)などにより,生活習慣や整容行動の乱れ,あるいは居室の整理整頓といった日常生活において必要な行為を行うことが困難となり(小高,2007),いわゆる社会生活の障害という生きづらさを経験する(池淵,2019).よって,統合失調症をもつ当事者が地域の中で安心して自分らしく暮らすには,生きづらさの要因となる種々の逆境を克服するための力,すなわちレジリエンスを高める必要がある(Yeo et al., 2022)と考えられる.このレジリエンスという概念は,精神科領域において,病気の原因に働きかけるアプローチとしてではなく,当事者が本来もつ力を最大限発揮できるようなアプローチに有用(中村,2015;樫原,2017)として注目されている.

精神科領域におけるレジリエンスに関する既存の文献には,解釈学的な研究(田中・長谷川,2016;Shalanski & Ewashen, 2018)や関連要因を解明する研究(城谷ら,2013;Perlman et al., 2018;Kim & Jang, 2019)のほか,介入研究も散見される.介入研究の中には,うつ症状をもつ成人に対してインターネットを使用した認知行動療法を実施することにより,うつ症状や不安症状,仕事や社会的機能,レジリエンスが改善すると報告したもの(Schure et al., 2019)や,統合失調症をもつ当事者に対して健康生成論に基づくインタビューを実施することにより,首尾一貫感覚およびレジリエンスが改善すると報告したもの(Aci & Kutlu,2022),さらにはうつ病をもつ医療者に対してマインドフルネスを基盤としたレジリエンス・トレーニングプログラムを実施することにより,うつ症状,ストレス,不安が改善すると報告したもの(Johnson et al., 2015)がある.このうち,前二者はうつ症状や対処能力の改善を目的とした介入の成果をレジリエンス尺度で測定したものであり,後者はレジリエンスを高めるための介入成果を臨床症状に焦点を当てて測定したものであって,いずれも帰結に含まれる心理社会的な側面から評価したものではない.本研究において,統合失調症をもちながら地域で暮らす当事者への訪問看護師によるレジリエンス支援の有用性を明らかにすることができれば,当事者は地域において安定した暮らしを送ることが可能となり,ひいては精神科訪問看護の質の向上に寄与できると考えた.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,統合失調症をもちながら地域で暮らす当事者(以下,当事者)に対して,訪問看護師が行うレジリエンス支援の有用性を評価することである.

Ⅲ. 研究方法

1. 用語の定義

本研究におけるレジリエンス支援とは,「統合失調症をもちながら地域で暮らす当事者に,地域生活への適応に関する情報提供,状況理解の促進,当事者の尊重と関係性の構築,強みへの焦点化を主軸として働きかけることによって,当事者個人に内在する力の発動,回復を支える個人的要素,多側面からのエンパワーの間の相互作用の結果生じる力によって,再び自己コントロール感を高め社会に適応できるようにする援助」とした.

2. 研究デザイン

本研究デザインは,2群を比較する非ランダム化前後比較デザインである.

3. 対象者

研究対象者は,機縁法により選定した訪問看護ステーションを利用している当事者とした.研究対象者の選定基準は,①20歳以上である者,②訪問看護を週1回以上利用している者,③デイケアを週1回以上利用している者,④日本語での言語的コミュニケーションおよび自記式調査用紙への回答ができる者とした.承諾の得られた訪問看護ステーションについては,実施者となる訪問看護師が研究者の設定した期間にレジリエンス支援のトレーニングを受講できるか否かにより,介入群と対照群に割付した.介入群には精神科訪問看護で提供される通常の支援に加えてレジリエンス支援を実施し,対照群には通常の支援のみを実施した.サンプルサイズは中程度の効果量0.06,検出力0.8,有意水準5%として算出し,4割程度の脱落者を考慮し,40名(各群20名ずつ)とした(G*Power3.1).

4. レジリエンス支援の概要

本研究に用いたレジリエンス支援は,精神障害者のレジリエンスの概念分析(大平ら,2020)に基づいて作成した.概念分析の結果によると,精神障害者のレジリエンスは【個人に内在する力の発動】を中核として,全ての人がもつ【回復を支える個人的要素】と支援者の姿勢を含む【多側面からのエンパワー】との間の相互作用を通して状況を克服するために奮い立たせる力という属性をもち,【自己コントロール感の再獲得】【社会への再適応】【人間的な成長】という帰結をもたらす概念であった.また,属性の【個人に内在する力の発動】は,全ての人が本来もつ回復力や内発的な動き等の“立ち直る力”,認知の柔軟性や適応力等の“柔軟な適応力”,病的体験への対処行動等の“対処する力”,逆境に反発する力等の“跳ね返す力”で構成された概念であり,これらの力は当事者の内部から自然に発生するという特性をもつものであった.このことから,本研究におけるレジリエンス支援の内容は,〈ポジティブな個性〉,〈健康的な生活習慣〉,〈成功体験〉,〈夢中になれる楽しい経験〉,そして〈自己・他者・状況の意識化〉で構成される【回復を支える個人的要素】と,〈ポジティブな行動への焦点化〉,〈心理社会的アプローチ〉,〈ソーシャルサポート〉,そして〈回復促進因子の活性化〉で構成される【多側面からのエンパワー】への働きかけを介して,【個人に内在する力の発動】と相互作用し,状況を克服するための力を奮い立たせることを意図した.

そこで,本研究におけるレジリエンス支援は,当事者が自己コントロール感の再獲得と社会への再適応を実感できることをねらいとし,「地域生活への適応に関する情報提供」「状況理解の促進」「当事者の尊重と関係性の構築」「強みへの焦点化」を主軸に作成した.ただし,レジリエンスの帰結の一つである【人間的な成長】については,短期間の支援によって評価できるものではないことから,本支援のねらいに含めないこととした.「地域生活への適応に関する情報提供」では,3章構成で作成した当事者用パンフレットを用いて,第1章では病気や治療との向き合い方の改善を,第2章では様々な生活場面で必要となる対人関係の改善を,第3章では食事や睡眠などの基本的な生活習慣の改善を目指すための情報を提供した.各章の主な活用時期はそれぞれ介入1・2週目,介入3・4週目,介入5・6週目とし,主な活用時期以降はその時々で必要な内容を活用するよう設計した.また,当事者用パンフレットを活用する際は,当事者の理解状況を考慮して解説を行うスピードや表現上の工夫を行うほか,必要時に反復的な説明や前章の復習を行うこととした.「状況理解の促進」では,当事者用パンフレットの内容に対応させて作成したセルフモニタリングシートを活用して,当事者が自身に現れている薬の副作用や症状を観察したり,身だしなみ等の確認を行う習慣を身につけることができるように働きかけることとし,訪問看護師が当事者用パンフレットの内容に沿って当事者の状態観察を行ったり,当事者が自らの健康と暮らしに目を向けて確認したりすることができるように工夫した.さらに,当事者がデイケアでの出来事を訪問看護師とともに振り返って意味づけし,成功体験や楽しさを認識することを促すために振り返りシートを作成した.「当事者の尊重と関係性の構築」では,当事者が自身に起こっている状況を肯定的に認識したり,生活行動の改善に向けて取り組みを開始したりすることができるように,当事者と支援者との関係構築を重視することとした.また,「強みへの焦点化」では,当事者が自身の長所や好ましい行動に気づき自信をもつことができるように,肯定的なフィードバック等を用いて働きかけることとした.そのため,これらの支援の具現化においては,当事者と支援者との対話や協働活動を中心に据え,それらの支援方法を強化するために傾聴,共感,受容からなる基本的なカウンセリング技法と認知行動療法の技法を活用することとした.

加えて,このレジリエンス支援の展開においては,支援を促進するツールとして作成した当事者用パンフレット,セルフモニタリングシート,振り返りシートのほか,レジリエンス支援の意図,実施方法,当事者用パンフレットに示した内容の根拠を記載した訪問看護師用ガイドを一つのパッケージとして用いることとした.このパッケージは,個々の当事者に対して1週間に1回,1回あたり15分以上,合計8週間にわたり用いるものであり,支援を展開する際に段階的に情報を提供し,それらを復習し,汎化を目指すことを意図した(表1).なお,レジリエンス支援は,精神看護学を専門とする研究者からの助言を受けて作成した後,2カ所の訪問看護ステーション管理者による協力を得て内容妥当性の検討を行い完成させた.

表1  レジリエンス支援の概要

5. レジリエンス支援の実施者

実施者は,精神科臨床経験および3年以上の精神科訪問看護経験,並びに認知行動療法を含む心理社会的アプローチに関する研修受講経験を有する訪問看護師3名とした.また,それぞれの実施者には介入の質を担保する目的で,「当事者用パンフレット」と「訪問看護師用ガイド」をテキストとして,2時間程度のトレーニングを実施したほか,本研究におけるレジリエンス支援を実施するにあたり心がけて欲しいことを伝え共通理解を図った.トレーニングでは,レジリエンス支援の内容と展開方法について根拠に基づき具体的に解説したほか,基本的なカウンセリング技法および認知行動療法の技法については具体例を挙げた解説と演習を実施した.さらに,介入開始後は研究者が2週間に1度の頻度で訪問看護ステーションに出向き,実施状況の確認と相談への対応を行った.なお,協力施設に勤務する訪問看護師の精神科訪問看護経験年数は,介入群4.9 ± 3.2年,対照群5.0 ± 3.2年であった.また,精神科訪問看護基本療養費の届出要件を満たす研修(以下,届出要件を満たす研修)の受講者割合は介入群70%,対照群71%であった.

6. データ収集方法

介入群のデータ収集は,介入前と介入開始2か月後,介入開始3か月後の3時点で行った.また,対照群も介入群と同様の時期にデータ収集を行った.質問紙と密封可能な提出用封筒の配付および回収は,訪問看護師が行った.

7. 調査内容

調査内容は,基本属性と評価項目で構成し,評価項目はレジリエンス支援のねらいに沿って設定した.その際,先述の概念分析による帰結を基に,【自己コントロール感の再獲得】を構成する〈治療への取り組み〉は服薬意識尺度と薬に対する構えの調査票,〈主観的幸福感の改善〉は主観的幸福感尺度,〈病気の予防と悪化の防止〉は地域生活に対する自己効力感尺度で評価し,【社会への再適応】を構成する〈健康状態の改善〉は機能の全体的評定,〈地域社会との再結合〉は精神に病を持つ人の居場所感尺度により測定することとした.なお,全ての尺度は信頼性・妥当性が確認されている.

1) 基本属性

研究対象者の基本属性の内容は,①人口統計学的データ(年齢,性別,婚姻状況,同居者の有無),②臨床的データ(過去の精神科入院回数,訪問看護継続年数),③訪問看護サービスに関する情報(1週間あたりの訪問回数,1回あたりの訪問滞在時間,訪問看護およびデイケア以外に利用している社会資源)で構成した.

2) 評価項目

(1)服薬意識尺度(MPS: Medication Perception Scale)/13項目(松田ら,2012):この尺度は,統合失調症患者の服薬に対する意識を測定するものであり,「服薬の効用」「副作用の懸念」「服薬中断の恐怖」の3つの下位尺度からなる自記式尺度である.評定は4件法で求め,得点が高いほど服薬意識が高いと評価される.

(2)薬に対する構えの調査票(DAI-10: Drug attitude inventory-10 Questionnaire)/10項目(宮田ら,1996):この尺度は,薬物療法に対する態度を測定する自記式尺度である.評点は–10~+10の間で示され,高得点ほど服薬を好意的にとらえていることを意味する.

(3)主観的幸福感尺度(SWBS: Subjective Well-Being Scale)/12項目(伊藤ら,2003):この尺度は,主観的幸福感を測定するものであり,「人生に対する前向きな気持ち」「自信」「達成感」「人生に対する失望感のなさ」という4つの下位尺度からなる自記式尺度である.評定は4件法で求め,得点が高いほど幸福感が高いことを意味している.

(4)地域生活に対する自己効力感尺度(SECL: Self-Efficacy for Community Life Scale)/18項目(大川ら,2001):この尺度は,統合失調症患者の地域生活に対する主体性や自信の程度を測定する自記式尺度である.評定は11段階で求め,得点が高いほど自己効力感が高いことを示している.

(5)機能の全体的評定(GAF: Global Assessment of Functioning)尺度(APA, 2000/2003):この尺度は,精神障害者および知的障害者の社会的・職業的・心理的機能について,1~100のスケールで評価する他記式尺度であり,得点が高いほど機能の障害が軽いと評価される.

(6)精神に病を持つ人の居場所感尺度/8項目(國方ら,2009):この尺度は,精神に病をもつ人の居場所の感覚を測定するものであり,「他者と深い関わりを感じる場」「ありのままの自分でいられる場」「自己を作る場」という3つの下位尺度からなる自記式尺度である.評定は4 件法で求め,得点が高いほど良好と評価される.

8. 分析方法

研究対象者の属性および各尺度得点については記述統計を算出した.両群間のベースラインから2か月後および3か月後までの各得点の変化量の差は Mann-Whitney U検定および線形回帰モデルによって確認した.線形回帰モデルの目的変数はベースラインから2か月後および3か月後までの各得点の変化量とし,説明変数は群と介入前のGAF得点とした.群に対する回帰係数が0であるという帰無仮説に対するF検定を行い,帰無仮説が棄却された場合には該当の得点の変化に群間差があると結論付けた.結果には群の回帰係数の検定に対する両側p値を調整済み群間p値として報告した.群内比較はFriedman検定およびWilcoxon 符号付順位和検定を行った.なお,統計解析にはIBM SPSS Statistics ver. 28.0 を用い,有意水準は両側5%を用いた.

Ⅵ. 倫理的配慮

対象施設の管理者とレジリエンス支援の実施者となる訪問看護師に対して,研究の趣旨,プライバシー保護,研究協力の辞退や同意撤回の自由,データ管理,結果の公表等について文書と口頭で説明し,署名を持って同意を得た.研究対象者には訪問看護師を通して,上記の内容を文書と口頭で説明してもらい,署名を持って同意を得た.なお,本研究は大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2022-101).

Ⅴ. 結果

1. 対象者の特徴

本研究は介入群2施設,対照群3施設の協力が得られた.介入群は23名が調査を開始し,脱落者2名と欠損値のあったものを除外し最終的に17名,対照群は21名が調査を開始し,脱落者5名と欠損値のあったものを除外し最終的に15名を分析対象とした.介入群の脱落理由は病状の悪化1名,引っ越し1名であり,対照群の脱落理由は病状の悪化3名,調査への回答なし2名であった(図1).対象者の基本属性は表2に示した通りであり,両群は1回あたりの訪問時間とGAF得点を除き,総じて特徴の分布が類似していた.

図1  研究対象者のフローチャート
表2 研究対象者の属性

介入群n = 17 対照群n = 15

群間比較

t値

p値
Mean(n) SD(%) Mean(n) SD(%)
年齢 59.6 12.6 55.1 10.9 1.077 .29
性別 男性 (16) (94.0) (10) (66.7) .06
女性 (1) (6.0) (5) (33.3)
結婚の有無 有 (2) (11.8) (2) (13.3) .90
無 (15) (88.2) (13) (86.7)
同居者の有無 有 (4) (23.5) (4) (26.7) .87
無 (13) (76.5) (11) (73.3)
訪問看護利用年数 5.5 3.24 7.4 3.75 –1.21 .24
1週間あたりの訪問回数 1.12 0.33 1.13 0.35 –0.13 .90
1回あたりの訪問時間(分) 33.5 5.8 44.7 17.7 –2.33 .03*
今までの入院回数 4.12 2.8 4 3.1 0.11 .91
デイケア以外の社会資源の利用 有 (9) (52.9) (6) (40) .48
無 (8) (47.1) (9) (60)
介入前のGAF得点 46.7 13.0 59.1 9.7 –3.09 .004**

Independent-samples t-test

* P < 0.05 ** P < 0.01

2. レジリエンス支援によるMPS,DAI-10,SWBS,SECL,GAF,精神に病を持つ人の居場所感尺度の変化(表3)

介入前から介入開始2か月後および3か月後の得点の変化量は,MPSの下位尺度である服薬中断の恐怖(p = .048),DAI-10(p = .002),SECLの下位尺度である社会生活(p = .013),GAF(p = .001)において介入群が対照群よりも有意に改善していた.また,介入前から介入開始2か月後および3か月後の得点を群内で比較した結果,MPSの下位尺度である服薬中断の恐怖では,介入群において介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善し(p = .004),介入前より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .008).DAI-10の総得点では,介入群において介入前より介入開始2か月後が有意に改善していた(p = .016).SWBSの総得点では,介入群において介入前より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .014).SECLの総得点では,介入群において介入前および介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .011, p = .002).また下位尺度である日常生活では,介入群において介入前および介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善した(p = .010, p = .014).下位尺度である症状対処行動では,介入群において介入前および介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .006, p = .001).下位尺度である社会生活では,介入群において介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .027).下位尺度である対人関係では,介入群において介入前および介入開始2か月後より介入開始3か月後が有意に改善していた(p = .026, p = .023).GAFでは,介入群において介入前より介入開始2か月後,3か月後になるにつれ有意に改善していた(いずれもp = <.001).しかし,精神に病を持つ人の居場所感尺度は,群間,群内ともに有意な差が認められなかった.

表3  レジリエンス支援の効果指標とした各尺度得点および変化量の群別比較
表3  レジリエンス支援の効果指標とした各尺度得点および変化量の群別比較

Ⅵ. 考察

1. 研究対象者の特性

本研究では1週間あたりの平均訪問回数が1回程度,訪問時間が30分から45分程度,GAF得点が40~60程度であり,本研究対象は報告書(厚生労働省,2023a)と同程度の訪問頻度および機能レベルであった.また,両群の訪問看護師の精神科訪問看護経験年数および届出要件を満たす研修受講割合は同程度であった.しかし,介入群と対照群の比較では,介入群において1回の訪問時間が短く,介入前のGAF得点が低かった.このことについて,人員の少ない訪問看護ステーションにおける介入研究では,レジリエンス支援の実施者に介入群の支援だけを実施すればよい状況をつくることが不可能であるため,介入群と対照群への割付を訪問看護ステーション単位で行ったことが影響したのではないかと考える.

2. レジリエンス支援による対象者の変化

本研究では,介入群のMPS下位尺度である服薬中断の恐怖およびDAI-10総得点が対照群よりも有意に改善していた.また,介入群内においては介入前から介入開始2か月後および3か月後の3時点で比較したところ,服薬中断の恐怖とDAI-10総得点において有意に改善傾向がみられた.統合失調症患者が精神的に安定した暮らしを送るには,症状をコントロールするための服薬継続が必要(山本・稲田,2022)だと考えられているが,当事者は薬の副作用を経験していることや治療効果が期待できないことから服薬の中断を招いている(梶川,2022).このことから,レジリエンス支援では当事者用パンフレットを通して少しずつ情報提供を行い,当事者が受けている内服治療と対峙し,訪問看護師と共に考える機会を与えたことで,当事者の服薬に対する認識が改善したのではないかと考える.一方,MPSの下位尺度である服薬の効用と副作用の懸念については,有意な改善がみられなかった.これは,当事者の約半数が体重増加や喉の渇き,疲労感などの服薬に伴う副作用を体験していることから(全国精神保健福祉会連合会,2011),当事者にとっては副作用の懸念が拭えず,服薬の効用を感じ取ることができなかったのではないかと考える.加えて,レジリエンス支援は,多くの心理教育やSST(Social Skills Training)などで主なねらいに設定される服薬アドヒアランスの改善だけに焦点を当てているわけではないため,服薬に対する認識の全体的な改善には繋がらなかったのではないかと考える.

SWBSについては,群間比較において有意な差を認めなかったが,介入群内のSWBS総得点に関しては介入前よりも介入3か月後に有意な改善傾向を示した.これは看護師が振り返りシートを活用する際に,当事者がデイケアでの出来事を振り返り肯定的な意味づけを行うことができるように,基本的なカウンセリング技法や認知行動療法の技法を用いて働きかけたことによると考えられる.特に,認知行動療法のように定期的な頻度で対話する場所を保証したり対話を重ねる機会は,治療関係を構築したり効果的に問題を解決したりする上で有用であり(耕野,2019),当事者のQOLの改善に貢献する(Matsushima et al., 2010)ことが報告されている.このことから,振り返りシートのみならず,レジリエンス支援の全過程において用いた基本的なカウンセリング技法や認知行動療法の技法は,当事者の主観的幸福感を高めたと考える.

さらに,介入群のSECL下位尺度である社会生活は,対照群よりも有意に改善したほか,介入群内のSECL得点は介入前よりも介入2か月後および3か月後に,総じて有意な改善傾向を示した.このことについても,当事者用パンフレットを用いて行った病気や内服治療に関する情報提供や,人付き合いを円滑にするためのマナーや身だしなみ,あるいは生活習慣の改善を促す働きかけ,さらにはセルフモニタリングシートを用いた支援が,当事者の自信の形成に繋がったのではないかと考える.自己効力感(Self-efficacy)とは,ある結果を生み出すための行動について自分がどの程度行えると思うかという個人の確信(Bandura, 1977)である.統合失調症をもつ当事者は,自身に向けられるスティグマを敏感に察知すると人間関係を避けてセルフスティグマに陥り(山口・大石,2023),セルフスティグマに陥ると自己効力感や自尊感情の低下とともに社会適応が阻害されることになる(下津,2007).統合失調症をもつ当事者の社会参加に対する自己効力感を促進する要因が,参考になりそうな情報や他者の行動,あるいは地域生活を送るコツや自己コントロールできる生活技能の獲得である(天谷ら,2008)ならば,本研究で使用した当事者用パンフレットに含まれた内容は,統合失調症をもちながら地域で暮らすことに対する当事者の自己効力感を高めるものであったと考える.

ベースラインに違いがみられたGAF得点は,対照群よりも介入群の方が有意に改善し,介入群内におけるGAF得点の変化量は,介入期間が長くなるにつれて有意に改善していた.この結果は,全体的な症状や対処スキル,抑うつ感を軽減させる認知行動療法(Turkington et al., 2002)の基本的な技法を用いたことと関係すると考えられる.統合失調症をもつ当事者が安定した地域生活を送るには,ルーチン化した習慣が必要(古賀,2015)だと考えられている.このことは,本研究に用いた当事者用パンフレットとセルフモニタリングシートを活用したことにより,当事者が安定した日々の暮らしを送るために必要な行為を確認して実行するという汎化を繰り返し,それにより作り出されたものと考えられる.

一方,精神に病を持つ人の居場所感については,群間比較において有意な差を認めなかった.それだけでなく,下位尺度のありのままの自分でいられる場については,対照群内において介入前よりも2か月後および3か月後に有意に悪化していた.このことから,統合失調症をもつ当事者の居場所感は,短期間に形成されるものではないが,その形成を意図した働きかけを行わなければ低下する可能性があると考えられた.居場所とは,いつもの状況や他者との関係の中において存在し,その場にいて自分らしく在ることを他者からも承認され受け入れられる環境(北山,2001)を意味するならば,逆境を経験した,あるいは経験している当事者の居場所感が形成されるには一定の支援と期間が必要だと考えられた.

3. レジリエンス支援の有用性

本研究に使用したレジリエンス支援は,当事者用パンフレット,セルフモニタリングシート,振り返りシート,訪問看護師用ガイドが一つのパッケージにされたツールを,基本的なカウンセリング技法と認知行動療法の技法を活用して展開するものであり,段階的に少量の情報を提供し,それらを復習し,さらに汎化を促すものである.本研究結果によると,このレジリエンス支援は,統合失調症をもつ当事者の服薬意識や薬に対する構え,主観的幸福感,地域生活に対する自己効力感,そして精神機能の改善を促すものであり,限られた訪問時間の中で統合失調症をもつ当事者のレジリエンスを高めることに関与する一つの支援方法になり得る可能性があると考えられた.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の展望

本研究は,機縁法により対象施設を選定したことや,研究者の設定した期間にレジリエンス支援のトレーニングを受講できるか否かで対象施設を2群化したことに加え,両群間のベースラインにおいて若干の不均衡が認められたことを考慮すると,選択バイアスが生じた可能性は否めない.また,研究者が設定した期間にトレーニングを受講できるか否かで施設を2群化したことから,レジリエンス支援の実施者は仕事意欲や根拠に基づく実践(evidence-based practice: EBP)の志向性が高い集団であった可能性が否めない.しかしながら,精神疾患をもつ当事者を対象にした介入研究が稀有であるという現実を踏まえると,精神看護学の更なる発展に向けては,本研究のような結果を蓄積することに意義があると考える.今後は一定圏域にある訪問看護ステーションに協力を求め,対象者数を増やしてランダムサンプリングを行うことに加え,レジリエンスの帰結にある人間的な成長を指標とした長期的な効果検証を行うことにより,有用性の高いレジリエンス支援へと洗練させる必要がある.

Ⅷ. 結論

地域で暮らす統合失調症をもつ当事者への訪問看護師による8週間のレジリエンス支援を提供した結果,MPSの下位尺度である服薬中断の恐怖,DAI-10,SECLの下位尺度である社会生活,GAFにおいて有意な改善を認めた.本研究に用いたレジリエンス支援は,統合失調症をもちながら地域で暮らす当事者の服薬意識や薬に対する構え,主観的幸福感,地域生活に対する自己効力感,精神機能の改善を促すための一つの支援になり得る可能性が示唆された.

付記:本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科に提出した博士論文である.なお本論文の一部は第42回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました当事者の皆様,訪問看護師の方々ならびに,訪問看護管理者の方々には心より感謝申し上げます.また本研究を遂行するにあたりご指導いただきました松田光信先生に心より御礼申し上げます.なお,本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究 C,課題番号 23K10370)の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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