目的:周術期におけるサルコペニア予防プログラムを検討するために,食道がん患者における術前補助化学療法(NAC)前・後,術前・後のサルコペニア関連指標および影響要因の推移と,術後骨格筋量指数(SMI)の影響要因を明らかにする.
方法:対象は食道がんでNAC・右開胸開腹食道切除術予定患者27名.NAC前・後,術前・術後(術後第6病日)にSMI,握力,歩行速度,舌口唇運動機能等を測定し,統計解析を行った.
結果:対象は男性23名,平均年齢64.5歳.術後のサルコペニアの発症率は33.3%,NAC前・後,術前と比較し術後の両下肢の筋肉量が有意に低下し,NAC前・後と比較して術後の/pa/,/ta/,/ka/の回数/秒が有意に減少した.術後のSMIを従属変数とした重回帰分析の結果,NAC前のSMI,レジメン,性が有意に影響した.
結論:NAC前から下肢や口唇・舌の運動等の必要性が示唆された.
Purpose: The aim of the study was to examine the sarcopenia prevention programs in the perioperative period. We examined changes in sarcopenia-related indices and associated factors before and after neoadjuvant chemotherapy (NAC) and surgery, as well as factors that affect postoperative skeletal muscle mass index (SMI) in esophageal cancer patients.
Methods: The subjects were 27 patients with esophageal cancer expected to undergo subtotal thoracic esophagectomy by right thoracolaparotomy following NAC. SMI, grip strength, walking speed, and oral diadochokinesis were evaluated before and after NAC, before surgery, and on the 6th postoperative day. Changes in the data and factors that affect SMI after surgery were statistically analyzed.
Results: The subjects included 23 males with a mean age of 64.5 years, the incidence of postoperative sarcopenia was 33.3%. Muscle mass was significantly reduced in the bilateral lower limbs after surgery compared with before and after NAC and before surgery. The number of pa/ ta/ ka/ times/second was significantly reduced after surgery compared with before and after NAC. Multiple regression analysis using the postoperative SMI as the dependent variable showed that SMI before NAC, regimen of chemotherapy (docetaxel, CDDP, 5FU), and male sex significantly affected SMI after surgery.
Conclusion: The necessity of exercising the lower limbs, lips, and tongue from before NAC was suggested.
食道がんは,がん罹患者数の2.6%(国立がん研究センター,2019)を占め,stage II・IIIの標準治療は,術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)後に食道切除,再建術および3領域リンパ節郭清である(日本食道学会,2022).手術適応となる患者は,麻酔や術後管理等の医療技術の進歩により高齢化が進み,周術期看護では,加齢に伴う骨格筋量と筋力,身体機能の低下を示すサルコペニアを考慮する必要がある.サルコペニアは,加齢の影響のみの一次性サルコペニアと,低活動,低栄養,疾患による二次性サルコペニアに分類される(Cruz-Jentoft et al., 2010).
食道がん患者は,手術前にはがんによる炎症・蛋白異化亢進に加えて,腫瘍による通過障害やNACの有害事象である悪心・嘔吐等によって食事摂取量が低下し,低栄養に陥り,筋肉量が減少する.そこに易疲労性等のNACの有害事象によって活動が低下すると筋肉量の減少が助長され,二次性サルコペニアに陥りやすい.このことは,NAC前と比較してNAC後にサルコペニアの発症率が増加する研究報告(Elliott et al., 2017;Miyata et al., 2017)からも窺える.また,術前には約45%がサルコペニアを有し(Grotenhuis et al., 2016;Ida et al., 2015),術前のサルコペニアは,術後合併症の危険因子である.術前のサルコペニア群は,非サルコペニア群と比較して術後呼吸器合併症(Chen et al., 2022;Nishigori et al., 2016;Papaconstantinou et al., 2020)や縫合不全の発症率が有意に高いこと(Chen et al., 2022;Nakashima et al., 2018;Papaconstantinou et al., 2020)が報告され,術前のサルコペニアを早期に発見,予防することは,術後呼吸器合併症や縫合不全の発症の減少につながると考える.
食道がん手術は,近年,開胸術に代わって鏡視下やロボット支援下での低侵襲手術が普及してきた(Kakeji et al., 2020)が,手術侵襲が頸部・胸部・腹部におよび,侵襲が大きいため,侵襲による骨格筋蛋白分解は,全身のみならず嚥下関連筋にも影響すると考える.食道がんを含む術後患者では,術前と比較して術後第7病日に舌骨筋に萎縮が生じ(Shimizu et al., 2016),食道切除後の肺炎発症群では,手術前・後の舌圧の変化量が有意に大きく(Yokoi et al., 2019),舌圧変化量が誤嚥と関連している(Kojima et al., 2023)報告からも窺える.さらに食道がん患者では,リンパ節郭清時の反回神経損傷等による反回神経麻痺のリスクがあり,嚥下関連筋力の低下は摂食嚥下障害のリスクを助長し,誤嚥性肺炎の発症に影響する.
術後呼吸器合併症や摂食嚥下障害を予防するには,術前や術後早期の舌筋や口輪筋を含む骨格筋量の推移や影響要因を明らかにすることが必要であると考える.しかし,術前・術後の骨格筋量やサルコペニアの推移は,コンピュータ断層撮影(Computed Tomography: CT)画像を用いて術前と術後6か月を比較する報告(Boshier et al., 2021;Nakashima et al., 2020)はあるが,簡便に測定できる生体電気インピーダンス法(Bioelectrical impedance analysis: BIA)を用いたNAC前から異化期である術後1週間までの推移の報告はほとんどない.
サルコペニアを予防するには,運動療法と栄養療法が推奨されている(サルコペニア診療ガイドライン作成委員会,2020).近年,術後回復力強化プログラムEnhanced Recovery After Surgery(ERAS)の概念が提唱され(Fearon et al., 2005),術後の早期離床,早期経腸栄養等がなされている.また,2010年にがんリハビリテーション料の診療報酬算定が開始され,入院中には積極的に運動療法がなされている.しかし,ERASプロトコルである術前プレリハビリテーション(Gustafsson et al., 2019)については,術前の運動療法と栄養療法の併用療法が,術後の歩行速度の維持等に有用と報告されているが(Minnella et al., 2018),標準化までは至っていない.
以上から,食道がんでNAC後に手術を受ける患者に対して,NAC前・NAC後・術前・術後早期における舌筋や口輪筋を含む骨格筋量減少や筋力低下の推移を把握し,二次性サルコペニアを予防するプログラムを検討する必要があると考える.
そこで,本研究では,周術期における二次性サルコペニア予防プログラムを検討するために,食道がんで手術を受ける患者におけるNAC前・NAC後・術前・術後早期のサルコペニアに関連する指標および影響要因の推移と,術後早期の骨格筋量指数(Skeletal Muscle mass Index: SMI)に影響する要因を明らかにすることを目的とする.
前向き観察研究
2. 対象と治療対象の適格基準は,がん診療連携拠点病院1施設に2017年12月から2019年12月に食道がんstage II・IIIでNAC,右開胸開腹胸部食道亜全摘(胸腔鏡・腹腔鏡下補助),胸骨後胃管挙上再建,リンパ節郭清予定患者とした.主要評価項目としたSMI・骨格筋量の推移を対応のある一元配置分散分析するのに必要な人数は,G*Power(ver.3.1.9.6 Franz Faul, Universität Kiel, Germany)で効果量0.25,有意水準0.05,検出力0.8として算出し24名となった.対象者数は,研究参加の中止等の追跡不能人数を考慮し40名以上とした.
NACのレジメンは,FP(5フルオロウラシル(5FU)とシスプラチン(CDDP))を3週間ごと2コース,またはDCF(ドセタキセル,CDDP,5FU)を3週間ごと3コースであり,すべてのコースで制吐剤が投与された.手術2週間前からコーチ2®を用いた呼吸訓練・腹式呼吸の実施や歩行数/日の記録が開始され,手術5日前から免疫調整栄養剤インパクト®を4パック/日とglutamine・fiber・oligosaccharide(GFO®)を3パック/日を用いた免疫栄養療法が開始された.手術2日前に入院し,予定術式で手術がなされ,手術直後に抜管された.術後はICUに入室し術後第6病日まで管理された.術後1日目に立位から病室内歩行,2日目以降にはICU内で歩行練習(1周60 m)が行われ,3日目以降には,患者の状態に応じ歩行練習の周数を2~3回にして歩行練習がなされた.早期経腸栄養として術後1日目から空腸瘻からインパクト®とGFO®が投与された.
3. 調査項目・調査方法図1に本研究の概念図を示す.NAC前の加齢による一次性サルコペニアが,嚥下関連筋力に影響するとともに,食道がん・NAC・手術療法の侵襲ならびに治療中の低栄養や低活動によって影響され,二次性サルコペニアの発症や肺炎などに起因する関係を示した.

本図は,レジメンがFP(5フルオロウラシル(5FU)とシスプラチン(CDDP))の場合を示す.
レジメンがDCF(ドセタキセル,CDDP,5FU)の場合は3コースとなる.
白抜き矢印は影響を示し,①~⑧は測定指標である.黒色矢印と<1>~<4>は指標の測定時期を示す.
<1>:NAC前,<2>:NAC後,<3>:術前,<4>:術後早期(術後第6病日)を示す.
NAC:術前補助化学療法(neo adjuvant chemotherapy)
SMI:骨格筋量指数(skeletal muscle mass index)
BMI:Body Mass Index
PNI:予後推定栄養指数(prognostic nutritional index)
Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)のサルコペニア診断基準(Chen et al., 2020)は,SMIが男性7.0 kg/m2,女性5.7 kg/m2未満(低骨格筋量)と歩行速度が1.0 m/sec未満,または低骨格筋量と握力が男性28 kg未満,女性18 kg未満である.SMIは,四肢の筋肉量を身長(m)の二乗で割った値を示す.サルコペニア診断基準の指標のうちSMI・骨格筋量を主要評価項目とし,握力,歩行速度および舌口唇運動機能(Oral Diadochokinesis: OD)を副次評価項目とした.NAC1コース入院初日(以下:NAC前),2コース入院初日(以下:NAC後),術前および術後第6病日(以下:術後早期)に,①SMI・骨格筋量,②握力,③歩行速度,④ODを測定した.
SMI・骨格筋量(全身,上肢・下肢)は,BIA法による体成分分析装置InBody770®(株式会社インボディ・ジャパン)を用いて測定した.握力は,デジタル握力計®(竹井機器工業株式会社)を用いて左右各々2回測定し,輸液時のみ非輸液側を測定した.歩行速度は,スタートから減速せずに通常のペースで4 m歩くのにかかる時間(サルコペニア診療ガイドライン作成委員会,2020)を2回測定した.ODは,口唇,舌の巧緻性および速度を評価する方法であり,高齢者のSMIと有意に関連し(Kobuchi et al., 2020),要介護高齢者の口腔機能の評価に有効(要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン作成委員会,2018)とされている.ODは,健口くん®(竹井機器工業株式会社)を用いて,口唇音(pa)・舌尖音(ta)・奥舌音(ka)の5秒間における回数を各2回測定した.歩行速度,ODは2回測定した平均値を算出し分析に用いた.握力は2回測定した最大値を分析に使用した.
二次性サルコペニアに影響する要因として⑤NACによる有害事象,⑥栄養状態,⑦歩行数,⑧体液分布(細胞外水分量・細胞内水分量)を測定した.NACによる有害事象の症状は,国際的に癌領域で汎用されているがん特異的QOL尺度である European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)のQuality of Life Questionnaire(QLQ-C30)を用いてNAC前・NAC後・術前に調査した.EORTC QLQ-C30の9つ症状スコアのうち倦怠感,嘔気・嘔吐,食欲低下,下痢の4つの症状スコアを用いて分析した.スコア化は,EORTCのスコアリングマニュアルに従い,0~100となるように変換し,スコアが高値ほど不良な状態を示す.栄養状態は,Body Mass Index(BMI)と小野寺(1986)の予後推定栄養指数Prognostic Nutritional Index(PNI)を用いた.PNI(10 × 血清アルブミン(Alb)(g/dl)+ 0.005 × 総リンパ球数(/mm3))を算出するために,NAC前・NAC後・術前・術後第1病日・術後第6病日のAlb,白血球数,リンパ球(%)の測定値を電子カルテから収集した.歩行数は,NAC1コース開始日から術前日まで毎日,200日間のメモリー機能がある生活習慣記録機ライフコーダGS®(株式会社スズケン)を用いた測定を対象者に依頼した.BMI,細胞外水分量・細胞内水分量は,InBody770®にて測定した.
さらに二次性サルコペニアが誘因となる術後合併症(Clavien-Dindo分類)の有無や,属性とした年齢,性別,呼吸機能,診断名,病期,NACのレジメン,NACの治療効果判定,NAC開始から手術までの期間,手術療法,麻酔時間,手術時間,出血量,栄養療法(経口・経腸栄養)を電子カルテから収集した.
4. 分析方法 1) 分析対象適格基準を満たす患者132名のうち治療前に治療方針を把握できた52名に対して研究参加の説明を行い,43名から同意を得た.追跡不明者10名(途中辞退5名,治療変更5名)および主要評価項目であるSMI・骨格筋量の欠損値がある6名を除外し,分析対象は27名とした.主要評価項目以外では欠損値があり,分析によって対象者数は異なった.
2) 統計解析方法対象者の属性,術後合併症の発症についてNACのレジメンによる差異を確認するために,データの尺度や正規性によってt検定,Mann-Whitney検定,χ2検定,Fisherの正確確率検定を行った.
各時期のサルコペニア発症率を検討するために,AWGSの診断基準でサルコペニアの有無を判断し,χ2検定を行った.また,術前・術後早期のサルコペニアの有無と術後合併症の発症の有無との関連をみるためにFisherの正確確率検定を行った.
主要評価項目,副次評価項目および影響要因の時間的推移を明らかにするために,まずSMI,骨格筋量,上肢・下肢の骨格筋量,細胞外水分量・細胞内水分量,握力,歩行速度,OD,BMIのデータは,NAC前・NAC後・術前・術後早期の値,有害事象を示す症状スコアはNAC前・NAC後・術前の値,PNIはNAC前・NAC後・術前・術後第1病日・術後第6病日の値について正規性に応じて反復測定一元配置分散分析またはフリードマン検定を行った.
歩行数は,約1週間の入院から退院後の推移を確認するためにNAC1コース・NAC 2コースのデータについて,コースごとにNAC開始から7日(入院中),8~14日(入院または退院),15~21日(退院後)の1週間ごとの平均値を求め,反復測定一元配置分散分析を行った.
正規性はShapiro-Wilk検定で確認し,反復測定一元配置分散分析とフリードマン検定の多重比較法には各々Bonferroni法,Bonferroniの補正を用いた.
次に時期別のプログラムを検討するために,各時期のSMIに影響する筋力として握力と歩行速度,嚥下関連筋力としてOD,栄養状態としてPNIについてスピアマンの順位相関係数を求めた.さらに術後早期のSMIに影響する要因として年齢,性別,治療前のSMI,治療,低栄養,低活動の関係を明らかにするために,術後早期のSMIを従属変数とし,先行研究(Fukushima et al., 2023;Wang et al., 2020;Wang et al., 2022)でサルコペニアの危険要因として示された年齢・性別・病期と,NAC前のSMI,NACのレジメンおよびNAC前のPNIを独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.なお,活動を示す歩行数は,得られたデータ数が少なかったため,相関係数や重回帰分析の独立変数にはしなかった.
統計解析ソフトIBM SPSS Statistics ver.29を用い,有意水準は5%とした.
5. 倫理的手続き愛知県立大学研究倫理審査委員会および愛知県がんセンター倫理審査委員会の承認(各承認番号:29愛県大学情第6-17号,2017-1-204)を得て実施した.対象者には,書面と口頭で本研究の目的・方法,参加は自由意思であり,参加せずとも不利益はないこと,匿名性の確保等を説明し,同意が得られた者を研究対象者とした.EORTC QLQ-C30は,EORTCの承認を得て使用した.
対象は,男性23名(85.2%),平均年齢が64.5 ± 7.9歳,レジメンはFPが21名(77.8%)でNAC効果判定は部分寛解が25名(92.6%)であった.全員が,予定術式の手術を受け,その到達方法は,1名が縦隔鏡下非開胸腹腔鏡下補助,26名(96.3%)が胸腔鏡下補助右開胸開腹食道切除術(腹腔鏡下補助3名含む)であった.NAC前・後,術前で26名(96.3%)が経口摂取,1名が経腸栄養であった.レジメンと属性を比較した結果,%肺活量とNAC1コース開始から手術までの期間のみ有意差があった(p = .028, <.001).
| 全体(N = 27) | NACのレジメン※1 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| FP(n = 21) | DCF(n = 6) | ||||||
| 属性 | n | % | n | % | n | % | p値※2 |
| 性別 男性 | 23 | 85.2% | 18 | 85.7% | 5 | 83.3% | 0.659 d |
| 女性 | 4 | 14.8% | 3 | 14.3% | 1 | 16.7% | |
| mean | SD | mean | SD | mean | SD | p値※2 | |
| 年齢(歳) | 64.5 | 7.9 | 66.0 | 6.3 | 59.3 | 11.4 | .289 b |
| 術前BMI(Kg/m2) | 22.0 | 3.1 | 21.5 | 3.1 | 23.7 | 2.2 | .056 a |
| %VC(%肺活量)(%) | 100.5 | 12.5 | 102.9 | 12.7 | 92.0 | 7.2 | .028 a |
| FEV1.0%(一秒率)(%) | 75.5 | 5.7 | 75.3 | 5.7 | 76.2 | 6.0 | .372 a |
| 病期・治療 | |||||||
| 病期stage 0 | 3 | 11.1% | 3 | 14.3% | 0 | 0.0% | .145 c |
| stage I | 2 | 7.4% | 1 | 4.8% | 1 | 16.7% | |
| stage II | 9 | 33.3% | 9 | 42.9% | 0 | 0.0% | |
| stage III | 11 | 40.7% | 7 | 33.3% | 4 | 66.7% | |
| stage IV | 2 | 7.4% | 1 | 4.8% | 1 | 16.7% | |
| NAC(Neo Adjuvant Chemotherapy) | |||||||
| 治療効果判定PR※3 | 25 | 92.6% | 20 | 95.2% | 5 | 83.3% | .402 d |
| SD | 2 | 7.4% | 1 | 4.8% | 1 | 16.7% | |
| 手術療法 | |||||||
| 合併切除 あり | 5 | 18.5% | 4 | 19.0% | 1 | 16.7% | .697 d |
| リンパ節郭清の種類 1領域 | 1 | 3.7% | 1 | 4.8% | 0 | 0.0% | .617 c |
| 2領域 | 2 | 7.4% | 2 | 9.5% | 0 | 0.0% | |
| 3領域 | 24 | 88.9% | 18 | 85.7% | 6 | 100.0% | |
| リンパ節郭清の程度 D0 | 1 | 3.7% | 1 | 4.8% | 0 | 0.0% | .810 c |
| D1 | 1 | 3.7% | 1 | 4.8% | 0 | 0.0% | |
| D2 | 1 | 3.7% | 1 | 4.8% | 0 | 0.0% | |
| D3 | 24 | 88.9% | 18 | 85.7% | 6 | 100.0% | |
| NAC開始から手術までの期間(日) | 71.7 | 11.5 | 68.3 | 10.4 | 83.8 | 5.4 | <.001 b |
| 麻酔時間(分) | 546.7 | 69.2 | 550.4 | 73.4 | 533.8 | 55.9 | .307 a |
| 手術時間(分) | 461.3 | 63.1 | 462.8 | 67.6 | 456.3 | 48.6 | .415 a |
| 出血量(g) | 146.0 | 90.1 | 151.2 | 95.0 | 128.3 | 75.1 | .755 b |
| 術後合併症 | |||||||
| 反回神経麻痺 あり | 3 | 11.1% | 3 | 14.3% | 0 | 0.0% | .455 d |
| 肺炎 あり | 6 | 22.2% | 6 | 28.6% | 0 | 0.0% | .183 d |
| 創感染 あり | 2 | 7.4% | 2 | 9.5% | 0 | 0.0% | .598 d |
| 縫合不全 あり | 2 | 7.4% | 2 | 9.5% | 0 | 0.0% | .598 d |
| 乳び胸 あり | 5 | 18.5% | 3 | 14.3% | 2 | 33.3% | .303 d |
| 頸部リンパ瘻 あり | 3 | 11.1% | 1 | 4.8% | 2 | 33.3% | .115 d |
※1 FP:5フルオロウラシル(5FU),シスプラチン(CDDP),DCF:ドセタキセル,CDDP,5FU
※2 FPとDCFの属性を比較するために,a:t検定,b:Mann-Whitney検定,c:χ2検定,d:Fisherの正確確率検定を行い,そのp値を示す.
※3 PR:partial response 状態が改善した(部分寛解),SD:stable disease 変化が見られない(安定)
サルコペニアは,NAC前の5名(18.5%)に対し,NAC後は2名(7.4%),術前は3名(11.1%)と減少し,術後早期では9名(33.3%)と増加したが,有意差はなかった(p = .062).1名のみがNAC前から術後早期までサルコペニアを呈した.術前・術後早期のサルコペニアと術後合併症の発症との関連をみると,共に肺炎の発症のみが有意に関連していた(p = .007, .008)
| 全体(N = 27) | 術前 サルコペニア | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| なし(n = 24) | あり(n = 3) | |||||||
| 術後合併症 | n | % | n | % | n | % | p値※ | |
| 反回神経麻痺 | あり | 3 | 11.1% | 3 | 12.5% | 0 | 0.0% | .692 b |
| 肺炎 | あり | 6 | 22.2% | 3 | 12.5% | 3 | 100.0% | .007 b |
| 創感染 | あり | 2 | 7.4% | 2 | 8.3% | 0 | 0.0% | .786 b |
| 縫合不全 | あり | 2 | 7.4% | 2 | 8.3% | 0 | 0.0% | .786 b |
| 乳び胸 | あり | 5 | 18.5% | 5 | 20.8% | 0 | 0.0% | .526 b |
| 頸部リンパ瘻 | あり | 3 | 11.1% | 3 | 12.5% | 0 | 0.0% | .692 b |
| 全体(N = 27) | 術後早期 サルコペニア | |||||||
| なし(n = 18) | あり(n = 9) | |||||||
| 術後合併症 | n | % | n | % | n | % | p値※ | |
| 反回神経麻痺 | あり | 3 | 11.1% | 1 | 5.6% | 2 | 22.2% | .250 b |
| 肺炎 | あり | 6 | 22.2% | 1 | 5.6% | 5 | 55.6% | .008 b |
| 創感染 | あり | 2 | 7.4% | 2 | 11.1% | 0 | 0.0% | .436 b |
| 縫合不全 | あり | 2 | 7.4% | 1 | 5.6% | 1 | 11.1% | .564 b |
| 乳び胸 | あり | 5 | 18.5% | 3 | 16.7% | 2 | 22.2% | .553 b |
| 頸部リンパ瘻 | あり | 3 | 11.1% | 2 | 11.1% | 1 | 11.1% | .750 b |
※a:χ2検定,b:Fisherの正確確率検定を行い,そのp値を示す.
NAC:neo adjuvant chemotherapy(術前補助化学療法),NAC前はNAC1クール前,NAC後はNAC2クール前を示す.
NAC前・NAC後・術前・術後早期の時間的推移をみると,骨格筋量の測定に影響する細胞内・細胞外水分量は,時間経過では細胞外水分量に有意な差があり(p = .014),多重比較法の結果,NAC前と比較して術後早期には有意に多くなった(p = .048).SMIと骨格筋量は,有意差がなかった(各p = .078,.194).両下肢と左上肢の筋肉量では有意差があり(p = <.001),多重比較法の結果,NAC前・NAC後・術前と比較して術後早期では有意に低下した(p < .05).
| n | mean | SD | p値注) | 多重比較 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| NAC前との比較 p値 |
NAC後との比較 p値 |
術前との比較 p値 |
||||||
| SMI骨格筋量指数(kg/m2) | NAC前 | 27 | 6.99 | 0.98 | .078 a | |||
| NAC後 | 27 | 7.07 | 1.03 | |||||
| 術前 | 27 | 7.08 | 1.00 | |||||
| 術後早期 | 27 | 6.94 | 0.99 | |||||
| 骨格筋量(kg) | NAC前 | 27 | 25.30 | 4.93 | .194 a | |||
| NAC後 | 27 | 25.36 | 5.00 | |||||
| 術前 | 27 | 25.21 | 4.70 | |||||
| 術後早期 | 27 | 25.65 | 4.88 | |||||
| 左下肢の筋肉量(kg) | NAC前 | 27 | 7.07 | 1.41 | <.001 a | |||
| NAC後 | 27 | 7.19 | 1.48 | .561 | ||||
| 術前 | 27 | 7.26 | 1.49 | .030 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 27 | 6.81 | 1.37 | .008 | <.001 | <.001 | ||
| 右下肢の筋肉量(kg) | NAC前 | 27 | 7.13 | 1.41 | <.001 a | |||
| NAC後 | 27 | 7.25 | 1.48 | .765 | ||||
| 術前 | 27 | 7.31 | 1.49 | .116 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 27 | 6.87 | 1.38 | .021 | <.001 | <.001 | ||
| 左上肢の筋肉量(kg) | NAC前 | 27 | 2.36 | 0.58 | <.001 a | |||
| NAC後 | 27 | 2.36 | 0.59 | 1.000 | ||||
| 術前 | 27 | 2.33 | 0.55 | 1.000 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 27 | 2.62 | 0.67 | .006 | <.001 | <.001 | ||
| 右上肢の筋肉量(kg) | NAC前 | 27 | 2.42 | 0.61 | .024 a | |||
| NAC後 | 27 | 2.43 | 0.62 | 1.000 | ||||
| 術前 | 27 | 2.38 | 0.56 | .725 | .431 | |||
| 術後早期 | 27 | 2.53 | 0.68 | .243 | .548 | .055 | ||
| 細胞外水分量(l) | NAC前 | 27 | 13.0 | 2.2 | .014 a | |||
| NAC後 | 27 | 13.3 | 2.3 | .139 | ||||
| 術前 | 27 | 13.2 | 2.2 | .445 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 27 | 13.5 | 2.3 | .048 | 1.000 | .154 | ||
| 細胞内水分量(l) | NAC前 | 27 | 20.9 | 3.8 | .207 a | |||
| NAC後 | 27 | 21.0 | 3.8 | |||||
| 術前 | 27 | 20.9 | 3.6 | |||||
| 術後早期 | 27 | 21.2 | 3.7 | |||||
| 握力(kg) | NAC前 | 27 | 35.3 | 7.6 | <.001 a | |||
| NAC後 | 27 | 33.4 | 6.8 | .005 | ||||
| 術前 | 27 | 34.0 | 7.6 | .036 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 27 | 32.8 | 7.6 | .005 | 1.000 | .110 | ||
| 歩行速度(m/sec) | NAC前 | 25 | 1.1 | 0.2 | <.001 b | |||
| NAC後 | 25 | 1.2 | 0.2 | 1.000 | ||||
| 術前 | 25 | 1.2 | 0.2 | 1.000 | 1.000 | |||
| 術後早期 | 25 | 0.8 | 0.2 | <.001 | <.001 | <.001 | ||
| OD「pa」(回/sec) | NAC前 | 24 | 6.1 | 0.9 | <.001 b | |||
| NAC後 | 24 | 6.2 | 0.8 | 1.000 | ||||
| 術前 | 24 | 5.7 | 0.7 | .265 | .026 | |||
| 術後早期 | 24 | 5.2 | 1.3 | <.001 | <.001 | .175 | ||
| OD「ta」(回/sec) | NAC前 | 24 | 5.9 | 0.8 | <.001 b | |||
| NAC後 | 24 | 6.2 | 0.8 | .630 | ||||
| 術前 | 24 | 5.6 | 0.6 | .561 | .006 | |||
| 術後早期 | 24 | 5.1 | 1.2 | .013 | <.001 | .974 | ||
| OD「ka」(回/sec) | NAC前 | 24 | 5.5 | 0.7 | <.001 b | |||
| NAC後 | 24 | 5.6 | 0.9 | .705 | ||||
| 術前 | 24 | 5.2 | 0.6 | .499 | .006 | |||
| 術後早期 | 24 | 4.8 | 1.2 | .037 | <.001 | 1.000 | ||
注)a:反復測定一元配置分散分析,b:フリードマン検定,多重比較法には各々Bonferroni法,Bonferroniの補正を用いた.
SMI:skeletal muscle mass index
OD:oral diadochokinesis(舌口唇運動機能)
NAC:neo adjuvant chemotherapy(術前補助化学療法),NAC前はNAC1クール前,NAC後はNAC2クール前を示す.
握力と歩行速度は,時間経過では有意差があった(各p = <.001,<.001).多重比較法の結果,握力は,NAC前と比較してNAC後・術前・術後早期は有意に低下した(p < .05).歩行速度はNAC前・NAC後・術前と比較して,術後早期で有意に遅くなっていた(p = <.001).pa/ta/kaの1秒間の発話回数は,時間経過では有意差があり(p = <.001),多重比較法の結果pa/ta/kaのすべての回数が,NAC後と比較して術前で有意に減少し(p < .05),NAC前・NAC後と比較して術後早期では有意に減少した(p < .05).
4. 二次性サルコペニアに影響する有害事象,栄養状態,歩行数の推移(表4)NACによる有害事象である倦怠感,嘔気・嘔吐,食欲低下,下痢を示す症状スコアは,NAC前・NAC後・術前・術後早期の時間的推移では有意差がなかった.栄養状態を示すBMIとPNIは,時間経過では有意差があり(p = .014, <.001),多重比較法の結果,BMIでは術前と比較して術後早期に有意に低下した(p = .027).PNIではNAC前・NAC後・術前と比較して術後第1病日,第6病日の値は有意に低下していた(p = <.001).
| n | mean | SD | p値注) | 多重比較 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| NAC前との比較 p値 |
NAC後との比較 p値 |
術前との比較 p値 |
||||||
| 【NACの有害事象:EORTCQLQ-C30症状スコア】 | ||||||||
Fatigue 倦怠感 |
NAC前 | 21 | 15.9 | 15.5 | .153 b | |||
| NAC後 | 21 | 21.2 | 14.4 | |||||
| 術前 | 21 | 16.4 | 14.3 | |||||
Nausea and Vomiting 嘔気・嘔吐 |
NAC前 | 21 | 4.8 | 13.1 | .949 b | |||
| NAC後 | 21 | 4.0 | 9.0 | |||||
| 術前 | 21 | 3.2 | 10.0 | |||||
Appetite loss 食欲低下 |
NAC前 | 20 | 16.7 | 25.4 | .867 | |||
| NAC後 | 20 | 18.3 | 25.3 | |||||
| 術前 | 20 | 13.3 | 19.9 | |||||
Diarrhoea 下痢 |
NAC前 | 21 | 7.9 | 14.5 | .584 b | |||
| NAC後 | 21 | 12.7 | 19.7 | |||||
| 術前 | 21 | 11.1 | 16.1 | |||||
| 【栄養状態】 | ||||||||
| BMI(kg/m2) | NAC前 | 27 | 22.0 | 3.1 | .014 b | |||
| NAC後 | 27 | 22.0 | 3.0 | 1.000 | ||||
| 術前 | 27 | 22.4 | 3.2 | .059 | .106 | |||
| 術後早期 | 27 | 22.0 | 3.0 | 1.000 | 1.000 | .027 | ||
PNI 予後推定栄養指数 |
NAC前 | 25 | 47.3 | 4.1 | <.001 b | |||
| NAC後 | 25 | 46.9 | 5.1 | 1.000 | ||||
| 術前 | 25 | 48.5 | 3.8 | 1.000 | 1.000 | |||
| 術後第1病日 | 25 | 33.2 | 5.0 | <.001 | <.001 | <.001 | ||
| 術後第6病日 | 25 | 33.1 | 4.5 | <.001 | <.001 | <.001 | ||
| n | mean | SD | p値注) | 開始から7日との比較p値 | 8~14日との比較p値 | |||
| 【歩行数】 | ||||||||
| NAC1コース | 開始から7日 | 11 | 2876.5 | 983.1 | .001 a | |||
| 8~14日 | 11 | 4089.1 | 1739.0 | .119 | ||||
| 15~21日 | 11 | 5340.4 | 1315.1 | .003 | .230 | |||
| NAC2コース | 開始から7日 | 10 | 2984.4 | 1262.5 | .008 a | |||
| 8~14日 | 10 | 4018.0 | 1031.1 | .427 | ||||
| 15~21日 | 10 | 5381.7 | 1808.5 | .064 | .052 | |||
注)a:反復測定一元配置分散分析,b:フリードマン検定,多重比較法には 各々Bonferroni法,Bonferroniの補正を用いた.
NAC:neo adjuvant chemotherapy(術前補助化学療法),NAC前はNAC1コース前,NAC後はNAC2コース前を示す.
EORTC QLQ-C30:European Organization for Research and Treatment of Cancer, Quality of Life Questionnaire
BMI:body mass index
PNI:prognostic nutritional index = 10 × Alb(g/dl)+ 0.005 × 総リンパ球数(/mm3)
歩行数は,NAC1コースでは11名,NAC2コースでは10名が継続して治療開始から3週間測定された.時間経過では有意差があり(p = <.01),多重比較の結果,NAC1コースでは治療開始から7日と比較して15~21日では有意に増加した(p = <.01).
5. SMIに影響する要因(表5)各時期におけるSMIとPNI,握力,歩行速度,ODとの関係をみると,全時期においてSMIと握力が中程度の正の相関であった(rs = .624~.764).NAC後ではSMIとpa/ta/kaの回数が,術前ではSMIと奥舌音の「ka」の回数が中程度の正の相関であった(rs = .410~.521).
| 非標準化係数 | 標準化係数β | t値 | p値 | 偏相関 | VIF | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| B | 標準誤差 | ||||||
| (定数) | .925 | .479 | 1.931 | .066 | |||
| NAC前SMI | .772 | .079 | .762 | 9.778 | <.001 | .898 | 1.435 |
| レジメン | .560 | .155 | .240 | 3.614 | .001 | .602 | 1.039 |
| 性別 | .579 | .211 | .211 | 2.743 | .012 | .496 | 1.405 |
ANOVA p < .001 R2 = .903 調整済みR2 = .890
術後早期のSMIを従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)の結果を示す.
重回帰分析時のダミー変数
レジメン 0 = FP(5フルオロウラシル(5FU),シスプラチン(CDDP)),1 = DCF(ドセタキセル,CDDP,5FU)
性別 0=女性 1=男性
NAC:neo adjuvant chemotherapy(術前補助化学療法),NAC前はNAC1コース前,NAC後はNAC2コース前を示す.
SMI:skeletal muscle mass index(骨格筋量指数)
術後早期のSMIに影響する要因を明らかにするために,術後早期のSMIを従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果,NAC前のSMI,レジメン,性が有意に影響していた(調整済みR2 = .890).
食道がんでNAC後に手術が予定された患者27名に前向きにサルコペニア関連指標を調査した結果,術後早期のサルコペニアの発症率は33.3%で,術前のサルコペニアは術後肺炎と関連があることが明らかとなった.サルコペニア関連指標の時間的推移をみると,下肢の骨格筋量,握力,歩行速度,ODおよびPNIでは,時間経過に伴い有意に低下した.二次性サルコペニアの関連指標である術後早期のSMIには,NAC前のSMI,レジメン,性が有意に影響することがわかった.
研究対象は27名と少ないが,NACの治療判定効果は25名(92.6%)が部分寛解であり,手術侵襲は食道以外に合併切除した者が5名いたが,到達方法,再建方法等は1名を除きほぼ同じであり,術前・術後の栄養療法・運動療法も同様になされたことからほぼ同一の侵襲,経過であったと考えられた.レジメンによる属性の差異は,%肺活量のみであり,その値は基準値内であったため,他のデータへの影響はないと考えられる.
まず,サルコペニアの発症率について考察する.BIAによるAWGSの診断基準による術後早期のサルコペニア発症率は33.3%で,NAC前・後・術前と比較して増加した.その発症に影響するNAC前の発症率が18.5%であったが,NAC1クール後に7.4%,2クール後の術前に11.1%と減少した.本研究と類似した年齢,性別,BMIである対象にBIAを用いた先行研究(Miyata et al., 2017)では,発症率がNAC前46.8%からNAC後53.2%に増加すると報告され,本結果と異なった.その理由として,サルコペニアの診断基準(標準値の90%未満)の違いが前提にあるが,先行研究ではNAC前は,stage III・IVの割合が69.1%と多いことが影響し,NAC後はレジメンがDCFの割合が96.6%であり,好中球減少症などの有害事象を呈し,各々発症率を増加させると考える.一方,本研究でNAC前と比較しNAC後に発症率が減少したのは,NACの有害事象示す症状スコア,BMI,PNIが,NAC前・NAC後・術前に有意な変化がなかったことや術前に免疫栄養療法がされている違いが影響していることが考えられた.また,術前の発症率が,本研究と類似した年齢・性別を対象とした先行研究(Grotenhuis et al., 2016;Ida et al., 2015)の約45%より低いのは,先行研究のサルコペニアの診断指標がCT画像の腰椎L3での腹筋総面積を用いた指標やBIAでの骨格筋量の標準値だけであることや,対象がNACのみならず化学放射線療法後の患者も含まれているためと考えられた.
また,術前のサルコペニアは先行研究(Chen et al., 2022;Nishigori et al., 2016;Papaconstantinou et al., 2020)と同様に肺炎の発症と関連し,術前にサルコペニアを予防する必要性が明らかになった.
次にサルコペニアの関連指標の治療経過に伴う推移について考察する.最初に骨格筋量測定に影響する細胞外水分量をみると,NAC前と比較して術後第6病日では有意に多かった.これは手術侵襲によって細胞外液がサードスペースに移行し,リフィリングとして戻ってきたことが影響していると考えられた.ただし,術後早期の細胞外水分量は,NAC後や術前と比較して有意差がないことから,術後第6病日における骨格筋量測定への影響が少ないと考えられた.また,術後第1病日,後第6病日に血清Alb値を用いて算出するPNIが,NAC前・NAC後・術前と比較して有意に低下していることから,術後の骨格筋の蛋白異化が窺える.しかし,SMIや骨格筋量は,NAC前・NAC後・術前と比較して術後早期では減少したが,有意差がなかった.ただし,部位別でみると両下肢の筋肉量は術後早期にNAC前と比較して有意に減少し,手術侵襲による骨格筋の蛋白異化が影響していると考えられた.術後早期では下肢の筋力を反映する歩行速度も有意に遅くなったが,疼痛やドレーン等による活動制限の影響もあると考えられた.一方,左右の上肢の筋肉量と握力は,時間経過で有意差があり,多重比較法の結果,術後早期ではNAC前と比較して左上肢は有意に増加し,右上肢は有意差がなく,握力は低下した.InBodyで測定される筋肉量は体水分量と蛋白質量の総和で示されるため,術後早期に左上肢で輸液がされていたことが筋肉量の増加に影響したと考えられる.握力が低下したのは,術後早期には握力が非輸液側(利き手)で測定されたため,右上肢の筋肉量が影響していることが考えられた.また,手術侵襲による影響は,上肢より下肢の筋肉量と筋力に影響することがわかった.
さらに口輪筋や舌筋の機能を反映する口唇音「pa」,舌尖音「ta」,奥舌音「ka」の回数/秒をみると,NAC1コース終了したNAC後のSMIと1秒間のpa/ta/kaの回数に正の相関があった.これは,有害事象による口内炎の痛みなどによって回数が減少し,食事摂取量が低下することが骨格筋量の低下に影響することが考えられた.今後,口内炎や食事摂取量についてデータ収集し検討する必要がある.また,pa/ta/kaの回数は,術後早期ではNAC前,NAC後と比較して有意に減少しており,舌尖音,奥舌音の結果は,舌圧量の低下(Kojima et al., 2023;Yokoi et al., 2019)が影響していると考えられた.また,術後早期は手術侵襲による蛋白異化に加えて,経口摂取や会話など口唇・舌を動かすことが少ないことも影響していると考えられた.さらに反回神経麻痺があると,ODと正の相関関係にある「最長発声持続時間」(杉本ら,2012)が短縮する.サルコペニアで反回神経麻痺患者は2名と少ないがODへの影響の可能性もある.
二次性サルコペニアの指標となる術後早期のSMIには,NAC前のSMIが最も強く影響し(β = .762),次いで,DCF(β = .240),男性(β = .211)の順に有意に影響し,決定係数が.890と.5以上で適合度がよかった.先行研究では,サルコペニアの危険要因として年齢(Fukushima et al., 2023;Wang et al., 2020;Wang et al., 2022),男性(Fukushima et al., 2023;Wang et al., 2022),進行した臨床腫瘍期,低体重,術前の低血清Alb値(Wang et al., 2020)が報告され,本研究では男性のみ同じであった.本研究の対象は,病期はstage II・IIIが20名(74%),術前BMIは普通体重だったため危険要因とならなかったと考えられた.レジメンのDCFは,FPと異なり3コース実施するため,治療による侵襲や有害事象の影響が長く続くことが影響していると考えられた.
2. 周術期における二次性サルコペニア予防プログラムへの示唆術後早期のSMIにはNAC前のSMIが影響し,NAC前のサルコペニアを予防することが肺炎の予防につながることがわかった.まず,DCFを予定している男性で,NAC前のSMIをスクリーニングする.SMIを測定する体成分分析装置がない場合は,全調査時期のSMIと握力が有意に正の相関を示していたことから,握力によるスクリーニングを検討する.そして,NAC開始から1週間の歩行数が少なかったことから,NAC前から術後に有意に低下した下肢の筋肉量を増加させる運動が必要と考える.Minnella et al.(2018)は術前のプレリハビリテーションとして中等度の強度1日30分,週3回の有酸素運動と筋力強化運動が術後の歩行速度維持に有用であると報告し,Halliday et al.(2023)はNAC中に週1回の最低600MET(150分の中強度の活動)の有酸素運動と筋力運動の組み合わせた運動をした群ではNAC後のSMIの低下が有意に少ないことが報告されている.先行研究では有酸素運動は歩行,ジョギングなどが選択されているが,本研究では歩行数の記録ができた対象者が少なく,歩行数がNAC開始から3週間目でも約5,300歩/日と健康日本21(厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会他,2023)の65歳以上の目標歩数6,000歩/日に満たない.携帯するスマートフォンの歩数測定機能等を活用しながら,NAC前から術前まで継続して実施できる運動の方法や記録によるフィードバックを検討する必要がある.さらに,術後の嚥下関連筋力低下を予防するために,NAC後と術前のSMIと奥舌音の「ka」の回数が中程度に相関を示したことから,NAC前から舌の筋力を維持・向上させる訓練等を行う必要があると考える.
3. 研究の限界と課題本研究は,単一施設での結果であり,食道がん患者の初診診療科が3科と多岐にわたり,NACで入院する前に治療方針や患者の意思決定の把握が難しく80名に説明することができなかった.また治療変更も加わり分析対象数が少なくなり,データの解釈には限界がある.また,術前までの活動状況を把握して,その影響を検討したかったが,データが少なく検討できなかった.握力は,輸液時には非輸液側での実施となり,最大値を分析に用いたことから筋肉量と対応した検討ができなかった.
今後,NAC前から術前までの活動量,NACの有害事象の口内炎と経口摂取量の関連等の詳細なデータを収集し,活動や栄養に関する看護援助を検討することが必要であると考える.
食道がんで手術予定患者では,サルコペニアの発症率がNAC前では18.5%に対し術後早期には33.3%となった.サルコペニア関連指標のSMIと骨格筋量は,NAC後・術前・術後早期では有意差がなかったが,術後早期の両下肢の筋肉量はNAC前・NAC後・術前と比較して有意に低下し,歩行速度は有意に遅くなった.さらに,術後早期のpa/ta/kaの回数/秒は,NAC前・NAC後と比較して有意に減少した.二次性サルコペニアの指標である術後のSMIには,NAC前のSMI,DCF,男性が有意に影響していた.
謝辞:本研究の実施にあたり,NAC前から手術後までの長期間にわたり研究にご協力いただいた患者様に感謝します.また,研究実施施設の内視鏡部部長 田近正洋先生,副院長兼薬物療法部部長 室圭先生,リハビリテーション部部長 吉田雅博先生には研究方法について多くのご助言・ご指導をいただき深謝いたします.本研究は,科学研究費助成事業(科学研究費補助金))基盤研究(B)(一般)(課題番号17H04441)の助成を受け実施したものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:JFは研究の着想,デザイン,データの入手,統計解析,草稿の作成;YKは研究の着想,デザイン,研究プロセスの全体への助言,原稿への示唆;MY,NW,HN,MM,JT,AMおよびSNはデータの入手,原稿への示唆;TAはデザイン,原稿への示唆,研究プロセスの全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.