2024 年 44 巻 p. 702-711
目的:認知行動療法の理論に基づき,うつ病をもつ人が再休職に至った状況・認知・行動・感情・身体の変化を明らかにし,認知と行動の特徴に注目したアプローチを検討する.
方法:うつ病による再休職の経験をもつ8名の男性に対して半構造化インタビューを行った.得られたインタビューデータの分析はテーマティック・アナリシス法を用いた.
結果:うつ病をもつ人が再休職に至った認知は《理想の自分像への執着》《納得できるストーリー探し》であり,行動は《仕事の抱え込み》《我慢》《過去・未来・自分自身に関する反すう》であった.それらの認知と行動は,感情や身体へも影響し悪循環が生じていた.先行研究と比較し,対象者の特徴的な認知と行動は〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉と《過去・未来・自分自身に関する反すう》であった.
結論:再休職を防ぐためには,客観的で正しい評価を得ることや,反すうへの対処が重要であると考えられた.
Objective: To clarify the cognitive, behavioral, emotional, and physical changes that lead to repeated sick leave in individuals with depression, based on cognitive-behavioral therapy theory, and to explore approaches focusing on these cognitive and behavioral characteristics.
Method: Semi-structured interviews were conducted with eight men who had taken repeated sick leave due to depression. The interview data were analyzed using thematic analysis.
Results: The key cognitive factors leading to repeated sick leave in individuals with depression were “attachment to an ideal self-image” and “searching for a reasonable story.” Behavioral factors included “being overwhelmed with work,” “endurance,” and “ruminating about the past, future, and oneself.” These cognitive and behavioral patterns also influenced emotions and the body system, creating a vicious circle. The participants’ cognitions and behaviors were more characteristic than previous studies, particularly: “high-comparison orientation and extreme underestimation” and “rumination about the past, future, and oneself.”
Conclusion: To prevent repeated sick leave, it is crucial to foster objective and correct evaluations and address rumination.
日本の労働者のメンタルヘルスの保持・増進は,うつ病患者の増加(厚生労働省,2022a)や仕事に関するストレスの高さ(厚生労働省,2021),精神障害に関する労災請求件数の増加(厚生労働省,2022b)などを背景として,国の重要課題の一つである.労働者のメンタルヘルスの課題の中でも,うつ病による休職に関しては,職場復帰後の再休職率が47.1%であり(厚生労働省,2017),再休職率の高さが問題となっている.再休職の理由であるうつ病の再発には大きな特徴がある.うつ病は再発の度に再発率が大きく上がり(厚生労働省,2022c),重症化し(小林・本橋,2006),社会的機能が低下し(Zu et al., 2021),QOLに大きな影響を与える.すなわち,うつ病をもつ人にとって“再休職”が意味することは,単に再受療の負担が増えることではなく,社会や家庭での役割喪失や,自分が描いた理想の人生と現実との乖離に日々直面することである.石川・芦原(2016)は,再休職することの問題は,本人の自信の喪失,信頼の低下という本人の問題にとどまらず,精神疾患は治らないという職場の人の偏見の増加,それによる早期相談への躊躇,および早期治療の遅延化による病状の悪化,ひいては長期休業者の増加という組織への影響も大きくなるとも述べている.うつ病休職者の復職準備性と再休職予防を目的とした“リワーク”利用者であっても,約1年後には20%程度は再休職あるいは失職していることが報告されており(大木・五十嵐,2013),現状は再休職予防に効果的なアプローチを模索している状況といえる.
Lewinsohn et al.(1999)が,初発と再発のうつ病では発症プロセスが異なると述べているように,うつ病の再休職予防のためには再休職に絞った発症プロセスを理解する必要がある.うつ病休職者の再休職の要因として,うつ病の再発率の高さや曖昧な復職判定が従前から指摘されている(大西,2018).また先行研究では,再休職しない復職成功群は家族との関係が良いと評価する患者が多いという結果(堀ら,2013),未婚者および単身生活者や他罰傾向のある患者が再休職までの期間が短いという結果(中川・井原,2016),再休職者は初回休職者と比較して職場での対人葛藤ストレスが有意に強いこと(中村,2015)などが報告されている.このように,再休職に影響する個人属性や性格特徴,ストレス要因は明らかにされている.
一方,山本ら(2016)は,再休職を繰り返すうつ病の背景の一因は,うつ病休職者が自身の認知・行動パターンなどを変えずに,適応が困難であった社会に戻ろうとすることであると述べ,認知や行動に関する要因が指摘されている.しかし,うつ病をもつ人のどのような認知や行動が再休職につながるかを明らかにした先行研究は見当たらない.
うつ病をもつ人の認知や行動に関する先行研究を大別すると,思考内容に関するもの(ベック,1976/1990;中村,2015),反すうといった思考行動に関するもの(Watkins, 2016),疾患別や性別による認知や行動の特徴に関するもの(岡田,2006;Spencer et al., 2020)などがあるが,再休職者に絞った認知や行動は明らかになっておらず,効果的なアプローチを検討できていない.
認知や行動にアプローチする精神療法として認知行動療法がある.認知行動療法とは,人の感情,行動,身体の変化は,出来事や状況に対するその人の理解の仕方(認知)によって影響を受けるという認知モデルを基盤とし,意識的に変えることができる認知と行動にアプローチする精神療法である.そこで本研究では,認知行動療法の理論に基づき,職場復帰したうつ病をもつ人が再休職に至った状況・認知・行動・感情・身体の変化を明らかにし,認知と行動の特徴に注目したアプローチを検討した.
認知:物事の捉え方であり,瞬間的かつ自動的に起こる言語化された思考.
行動:外的または内的刺激に反応する生物の活動で,客観的に観察可能な活動,内省的に観察可能な活動.
反すう:自身の症状,感情,問題,心を乱す出来事,そして自己の否定的な側面に関して反復的に考え続けること.
質的研究
2. 研究対象者研究対象者は,日本うつ病リワーク協会に登録されている首都圏のリワーク施設に通った経験をもつ方とした.選定基準は以下の全てを満たす者とした.①18歳以上65歳未満の者,②主診断がうつ病である者,③うつ病による休職を経て職場復帰した後に再休職した経験がある者,④研究参加に関して主治医の許可が得られた者,⑤主治医の判断で疎通性や同意能力があるとされた者.
研究対象者の募集方法は,機縁法により研究協力施設の責任者と医師に筆者が本研究の説明を行い,対象候補者の主治医から,対象候補者に筆者の連絡先を渡すよう依頼した.筆者に連絡があった対象候補者に本研究の趣旨および倫理的配慮に関する説明を行い,研究参加の同意が得られた者を研究対象者とした.
3. 調査期間2022年9月~2023年1月
4. データ収集方法うつ病をもつ人が再休職に至った状況・認知・行動・感情・身体の変化は,インタビューガイドを用いた半構造化インタビューにより収集した.インタビューガイドの内容は,再休職した当時の主訴と症状,再休職した経緯,再休職した当時の状況・認知・行動・感情・身体の変化であった.インタビューは対象者が通う研究協力施設の個室にて対面で1回45分程度行った.対象者の同意を得たうえでボイスレコーダーに録音した.
対象者の基本属性は同意を得たうえでカルテから収集した.基本属性の内容は,年齢,性別,発症時期,治療内容,家族構成,職業,病気休業の期間・回数とした.
5. データ分析方法半構造化インタビューで得られたデータの分析には,認知行動療法の理論に基づいたテーマティック・アナリシス法の演繹的分析手法を採り,帰納的に補填した.
テーマティック・アナリシス法は,質的データの中にパターンを見出すための体系的なプロセスであり,既存の理論を基盤にして質的データを分析する“演繹的分析手法”がある(土屋,2016).そして,認知行動療法とは,人の感情,行動,身体の変化は,出来事や状況に対するその人の理解の仕方(認知)によって影響を受けるという認知モデルを基盤とし,認知や行動にアプローチすることで感情や身体のつらさの改善を図り,問題解決能力を高めることを目的とした精神療法である.感情と身体の反応を意識的に変えることは困難であるが,認知と行動は自分で注意を向ければ切り替えることができる.そのため,認知行動療法で注目されるのが「認知」と「行動」となる(野上・中川,2023).1960~70年代にアーロン・ベックにより構築された認知行動療法は,治療効果と再発予防効果を裏づける優秀なエビデンスが多く報告されている(厚生労働省,2009).本研究は,認知行動療法の理論に基づき対象者が再休職に至った体験を演繹的に「状況」「認知」「行動」「感情」「身体の変化」に分類し,それらの具体的内容を帰納的に導出し補填した.エビデンスが多く報告されている認知行動療法に基づく認知や行動へのアプローチは,感情や身体のつらさの軽減を図ることができ,再休職予防が期待できると考えられる.
半構造化インタビューで得られた音声データを逐語録におこした後,文字テキストデータを作成した.その後,認知行動療法の認知モデルに則り「認知」「行動」「感情」「身体の変化」を分析コードに設定し,文字テキストデータを各分析コードに分類した.次に,分類された文字テキストデータの内容を代表する短い言葉でコーディングし,具体から抽象へと階層的にカテゴリーをまとめた.コーディングの仮定はExcelでコードブックを作成して記録した.
分析の妥当性を確保するため,分析の過程で精神看護学と認知行動療法に精通している共同研究者と協議した.また,対象者に分析結果を提示し意見を求め,自身の体験と合致しているかの回答を得た.
6. 倫理的配慮本研究は国際医療福祉大学研究倫理審査委員会(承認番号:22-Ig-92)の承認を得て実施した.研究協力施設の責任者に文書および口頭で研究への協力を依頼し許可を得た.次に主治医から対象候補者に研究実施代表者の連絡先を渡してもらい,研究実施代表者に連絡があった対象候補者に研究の概要や方法の説明を行った.研究の目的や方法,予測されるリスクや利益,個人情報の取り扱い等を文書および口頭で説明し,同意が得られた者を対象者とした.説明の際は,倫理委員会で承認された文書を使用し,理解しやすい言葉で説明した.同意は対象候補者の自由意思によるものであり,同意しない場合や同意撤回後でも不利な扱いを受けることはないことを強調した.インタビューはプライバシーを確保できる個室にて実施し,得られた全てのデータは常時施錠し保管した.また,インタビュー中や分析結果提示の際に疲労や不調が見られた際はインタビューを中断し休憩を挟むとともに,主治医の診察を促すこととした.なお,インタビュー中や分析結果提示の際に疲労や不調が見られた対象者はいなかった.
対象者は8名であり全員男性であった.年齢は35歳から59歳であり,平均年齢は47歳,標準偏差は7.7であった.休職回数は2回から6回であり,平均2.75回,標準偏差は1.3であった.家族構成は一人暮らしが2名であり,6名は同居家族がいた.職業は行政(3名)とメーカー(3名)が最も多く,金融と流通が1名ずついた(表1参照).
| 対象者 | 性別 | 年齢 | 休職回数 | 治療内容 | 家族構成 | 職業 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 男 | 40歳代 | 2 | 薬物療法 | 妻,子 | 金融 |
| B | 男 | 30歳代 | 2 | 薬物療法 | 一人暮らし | 行政 |
| C | 男 | 40歳代 | 2 | 薬物療法 | 妻,子 | 流通 |
| D | 男 | 50歳代 | 3 | 薬物療法 | 妻,子 | 行政 |
| E | 男 | 50歳代 | 2 | 薬物療法 | 母 | メーカー |
| F | 男 | 40歳代 | 2 | 薬物療法 | 一人暮らし | メーカー |
| G | 男 | 40歳代 | 3 | 薬物療法 | 妻,子 | メーカー |
| H | 男 | 30歳代 | 6 | 薬物療法 | 妻 | 行政 |
| 平均 | 47.00 | 2.75 | ||||
| 標準偏差 | 7.76 | 1.30 |
インタビュー内容を分析した結果,職場復帰したうつ病をもつ人が再休職に至った5つの領域(状況,認知,感情,行動,身体の変化)の関連性が示された(図1,表2参照).以下,領域を“ ”,カテゴリーを《 》,サブカテゴリーを〈 〉,具体的な発言内容を「 」で示す.対象者の全体像と,“認知”と“行動”は以下の通りであった.

| 認知の特徴 |
|---|
|
《理想の自分像への執着》 〈“期待”への強い責任〉 〈“職業人”への高い理想〉 〈周囲からの評価に敏感〉 〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉 〈周囲への遠慮や不信〉 《納得できるストーリー探し》 〈上手くいかない原因を自分に求める〉 〈うつ病が再発する予測に確信をもつ〉 |
| 行動の特徴 |
|
《仕事の抱え込み》 〈残業・持ち帰り仕事を増やす〉 〈休憩時間を減らす〉 〈相談せずに一人で仕事をする〉 《我慢》 〈言いたいことを言わない〉 〈大丈夫なフリをする〉 《過去・未来・自分自身に関する反すう》 |
《 》はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリーを表す
まず再休職に至る“状況”は,〈異動や配置転換〉〈身体疾患の発症や加齢に伴う身体変化〉等の《環境や生物学的な変化》,上司から《納得できない指示》が出た等の想定外の状況であった.加えて,前回のうつ病から《残存する身体症状の悪化》があり,《前回の休職を想起する状況》に遭遇すること,《相談相手の少なさ》があった.その状況に対する“認知”は《理想の自分像への執着》と《納得できるストーリー探し》であった.《理想の自分像への執着》では,上司や部下からの〈“期待”への強い責任〉〈“職業人”への高い理想〉を固持するものの,職場の同僚や上司・部下との相互関係において〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉をもち,〈周囲からの評価に敏感〉に反応し〈周囲への遠慮や不信〉を認知していた.《納得できるストーリー探し》では,理想の自分像に近づけない現実に対して〈上手くいかない原因を自分に求める〉〈うつ病が再発する予測に確信をもつ〉など,過去から未来へ続く納得できるストーリー探しをしていた.
それらの“認知”に伴う“感情”としては,《状況への焦り・緊張・恐怖》《周囲への不信や孤独感》《自分への落胆や悲しさ》《仕事への嫌悪・虚しさ》等のネガティブな感情が生じていた.それらの感情により,〈残業・持ち帰り仕事を増やす〉など《仕事の抱え込み》や,〈大丈夫なフリ〉をする等の《我慢》する“行動”につながっていた.加えて,仕事以外の時間や場所でも《過去・未来・自分自身に関する反すう》をするようになっていた.その結果,“身体”は《睡眠不足や悪夢》が続き,《疲労感》《動悸や痛み》等の身体症状が生じていた.そのうち,《笑えない》や《身体症状の悪化》が生じていた.
2) 再休職に至った認知(表2)うつ病をもつ人が再休職に至った認知として《理想の自分像への執着》と《納得できるストーリー探し》の2つのカテゴリーが抽出された.また,それぞれのカテゴリーには,自分を苦しめる非現実的で非論理的な認知(認知の歪み)がみられた.
以下に,認知の2つのカテゴリーについて説明する.
(1) 《理想の自分像への執着》についてうつ病をもつ人が再休職に至った認知の特徴の一つに《理想の自分像への執着》がみられた.この理想の自分像は,職場内に限定された自分像であり,サブカテゴリーには,〈“期待”への強い責任〉〈“職業人”への高い理想〉〈周囲からの評価に敏感〉〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉〈周囲への遠慮や不信〉が含まれた.
〈“期待”への強い責任〉は,自分が上司や部下からの期待に応え続ける責任を負っているという考えである.ただし,この期待は,実際にどれだけ期待されたかを証拠づけるものはなく,本人が認知した期待であった.このサブカテゴリーには以下のような語りが含まれた.また,各々には下線と括弧(【 】)で示すような認知の歪み(ベック,1976/1990)が認められた.
「自分は期待されて異動してきた人間だから,できなければいけない人間だから【すべき思考】って自分の中で思い込んでいました.(H氏)」
「上司からの“期待に応えられない”とか,部下から“頼りない”って思われたら,すごく悔しいし,自分が情けないし,そんな情けない自分には価値がない【分極化した考え】って思う.だから,ギリギリまで出来る範囲でやろうと思って会社に泊まったりした.(A氏)」
上記のような,上司や部下の“期待”には明確な基準がないため,完璧主義傾向のある人や真面目な人には,仕事のゴールが高くなる.そのため,より確実に“期待”に応えようとして,〈残業・持ち帰り仕事を増やす〉(《仕事の抱え込み》)という行動につながっていた.
〈“職業人”への高い理想〉は,自分に対して社会人やプロとしての高い理想を求める考えであり,以下のような語りが含まれた.
「前に,お客から質問されて即答できないと,相手から『なんで即答できないんだよ』って言われたりしていたんで,ある程度,広く浅く知っていなきゃいけないんだろうなっというのがあって.“プロなんだから,その場で答えなきゃいけない”【すべき思考】っていうのがあった.(D氏)」
「私自身の中で“社会人というのはそういうものだ”【過度の一般化】というような凝り固まった考え方もあったのかもしれないです.自立するとか,人に頼らないという部分で,“一人でできてこそ”【分極化した考え】という考え方が強かったんだと思います.だから誰にも頼ってはいけない,だから相談してはいけない.(H氏)」
このように,“社会人は一人で出来て当たり前”や“プロはその場で答えなくてはいけない”という考えが,掟のような行動規範としての拘束力をもっており,〈相談せずに一人で仕事をする〉(《仕事の抱え込み》)や,〈大丈夫なフリをする〉(《我慢》),〈言いたいことを言わない〉(《我慢》)という行動につながっていた.
〈周囲からの評価に敏感〉は,同僚や上司,部下に認められることを重要視し過ぎて気負う考えであり,以下のような語りが含まれた.
「周りに“なんでアイツが選ばれたんだ?やっぱり仕事が回ってないじゃん.ほら見たことか”って思われるのは嫌だった.自分が任された以上,見返してやるっていうか,ちゃんとできるところを見せてやるって思った.(A氏)」
「周りから,使えないヤツと思われたくないけど,過度な期待はされたくないんです.(E氏)」
これらの認知は,《仕事の抱え込み》や《我慢》するという行動につながっていた.
〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉は,自分と職場の他者との比較に意識が向きやすく,その比較の結果,自分を極端に過小評価する考えであり,以下のように「全然できない」など極端な表現が目立った.
「職場で,人から何か聞かれたら,『これは,こうですよ』『それはもうやっておきました』って対応できるのが普通の人だと思っていたんです.僕には,みんなそうなんだ【過度の一般化】って見えていたんです.だから,みんなは良く分かっているのに僕は全然頭が回っていないからダメなんだ【分極化した考え】って思っていました.(D氏)」
「仕事が進まないのは自分の能力の低さに原因があるわけよ.自分がスーパー優秀だったら何とか自分でもできちゃうわけよ.たくさんいるじゃん自分とは全然違うスーパー優秀な人【分極化した考え】.(C氏)」
〈周囲への遠慮や不信〉は,自分が上司や同僚に相談することを遠慮したり,助けてくれない周囲に対して壁を作ったりする考えであった.この語りでは,自ら《理想の自分像に執着》しつつも,そのような状態にさせた周囲に対する思いが,口調や言い淀み(“だったら”“まぁ…”“じゃあ”)に表れていた.
「『こんなことで困ってるんだ』っていう相談すら躊躇っちゃった.相談を躊躇っちゃった理由は,聞いてくれる人の余裕がなさそうで我慢しちゃったっていうか,遠慮もある.彼も忙しいわけだから.(C氏)」
「“自分で何でもできなきゃいけない”って思って,『知らないです』『わかりません』『できません』っていうのがずっと言えなくて.で若い頃は,例えば休日出勤してやるとか何とかなっていたんですが,年齢も上がって体力も落ちてくると,だんだん出来なくなってきて,『結局,聞いても誰も教えてくれないんだったら,自分でやるよ』って.(D氏)」
「急に昇進の内示が決まって,俺のことをかってくれていた役員曰く『俺がそばにいるから,何かあったらフォローするから大丈夫だよ.』って言われて,まぁ…そう言われたら…『じゃあ,やってみます』って引き受けて.でも異動したら自分のイメージより仕事量が多くて.誰かに仕事を振れば良かったのかもしれないけど,誰に何を振っていいのかも分からない.だから自分でやるしかないと思って.(A氏)」
このように,〈周囲への遠慮や不信〉は,〈相談せずに一人で仕事をする〉(《仕事の抱え込み》)や,〈言いたいことを言わない〉(《我慢》)という行動に関連していた.
(2) 《納得できるストーリー探し》についてこの《納得できるストーリー探し》という認知は,上記の《理想の自分像への執着》をしたものの,理想の自分像に到達できない現実,すなわち,納得できない現実の理由を解明しようとする考えを表していた.サブカテゴリーには〈上手くいかない原因を自分に求める〉と〈うつ病が再発する予測に確信をもつ〉が含まれた.
〈上手くいかない原因を自分に求める〉は,上手くいかない原因を自分自身に探し求める自己焦点的な考えであり,以下の語りが含まれた.
「仕事の調子が悪くなってくると,“そういえば,前もこう言われた”とか“こういう扱いを受けた”って走馬灯のように過去の悪いことばかりが蘇ってきて,余計やる気がなくなるというか,気力がなくなるんです.(G氏)」
「仕事が自分の思うようにいかなくなって,自分の理想の仕事状況にならないと,そこから“なんで自分はできないんだろう”って自分で考え始めて悩みだすんです.(B氏)」
次に〈うつ病が再発する予測に確信をもつ〉とは,前回の休職時と同じような場面や状況に遭遇すると,自分が再発してしまうという予測を立て,その予測に確信をもつ考えであり,以下のような語りが含まれた.
「再休職のときは,同じような経験を初回の休職のときにしちゃっているので,初回と同じような状況になると,“絶対,これ再発するな.自分は再発まで1年もたないな”【悲観的予測】って感じるんです.(C氏)」
この《納得できるストーリー探し》は,瞬間的に思い浮かぶ考えであるが,そのまま《過去・未来・自分自身に関する反すう》という行動に続いていた.
3) 再休職に至った行動(表2)職場復帰したうつ病をもつ人が再休職に至った行動を表す3つのカテゴリーとして,《仕事の抱え込み》《我慢》《過去・未来・自分自身に関する反すう》が抽出された.
(1) 《仕事の抱え込み》について《仕事の抱え込み》という行動は,サブカテゴリーとして〈残業・持ち帰り仕事を増やす〉〈休憩時間を減らす〉〈相談せずに一人で仕事をする〉が含まれた.
〈残業・持ち帰り仕事を増やす〉と〈休憩時間を減らす〉は,多い仕事量に対処するための行動であり,以下のような語りがあった.
「仕事の対処法は“限界までやる”しかなくて,会社に泊まって徹夜したり,土日も職場の持ち帰り用パソコンを開いてはカチカチやってたりしたけど,それでも仕事が終わらなかった.(A氏)」
〈相談せずに一人で仕事をする〉は,周囲への遠慮や,一人で仕事できてこそ一人前の職業人という認知によって,相談できずに仕事を抱え込む行動であり,以下のような語りが含まれた.
「本当は自分から『分からないんです』って言えればいいんですが,言えなかったんです.『分かりません』状態の自分は,自分として自分じゃない.自分を否定する感じです.(D氏)」
「『自分でやらなきゃいけない』と思い込んでいて【すべき思考】,分からなくても助けを求められないっていうところですね.(F氏)」
(2) 《我慢》について《我慢》という行動は,自分の本当の思いを押し殺し,本当の自分の状況を隠して仕事を続ける行動であり,サブカテゴリーとして〈言いたいことを言わない〉〈大丈夫なフリをする〉が含まれた.
〈言いたいことを言わない〉は,自分の本当の思いを押し殺して仕事を続ける行動であり,以下の語りが含まれた.
「(納得できないことに対して,)もう大人の都合なんだしょうがない.っていうことで言いたい事を飲み込みました.(F氏)」
「(上司からの指示に対して)はじめの方は自分の中で咀嚼できなくて引っかかったまま仕事をしていたので,仕事のペースが出ないのかな?と思い始めて,いや,それが,自分が今までやってきたことと全然違っても,それは指示されたことだから,それは合っているはずなんだと自分に言い聞かせて仕事を続けていたんですけど.(H氏)」
〈大丈夫なフリをする〉は,本当は辛い状態であるにも関わらず,それを隠して仕事を続ける行動であり,以下の語りが含まれた.
「職場にいるときは,平然としているような大丈夫だっていう顔をしていました.大丈夫ぶって仕事をしているんですが,中ではいっぱいいっぱいになっている状態でした.すごく苦しかったです.(H氏)」
(3) 《過去・未来・自分自身に関する反すう》について《過去・未来・自分自身に対する反すう》は,仕事以外の時間や場所でも,辛い過去や未来,自分の受容しがたい部分について考え続ける行動であり,以下のような語りが含まれた.
「例えばテレビ見てても,つまんないなぁ~とかって思うと,仕事のことが頭の中に出てきたりする.過去に上司に言われたショックな事とか,来期からはどんなことしなきゃいけないのかなぁとか.嫌な事,マイナスな事ばっかりが頭の中に出てくる.そんなときの気分は,しんどいなぁ.ってなる.(A氏)」
「自分自身の嫌いなところとか,受け入れられないところがあって,“あ~また嫌いな自分だ”ってなると,本当はそんな自分が嫌いで決別したいから振り返りだす.なんで自分はこうなんだろうって.(A氏)」
「朝目覚めた瞬間,あと直後,シャワーを浴びているとき,パッと手持無沙汰の時,暇なとき,ちょっと疲れて横になったとき,昼寝したいんだけど眠れないとき,風呂あがって気分良いなぁってボーっとした時,夜どうしても眠れない時に自分を責める考えがグルグルし始めるなぁって.(中略)朝の直後にそんなことが起きちゃうと,もう起きる気力がなくなっちゃってそのまま仕事を休んじゃうっていう流れです.(C氏)」
このように,《過去・未来・自分自身に関する反すう》は,感情や身体に素早く直接的にネガティブな影響を与えており,反すうを始めると同時に気分や活動性の低下が認められた.
本研究でうつ病をもつ人が再休職に至った認知は《理想の自分像への執着》《納得できるストーリー探し》,行動は《仕事の抱え込み》《我慢》《過去・未来・自分自身に関する反すう》であることが示唆された.以下に,本研究の対象者に特徴的な認知や行動,看護への示唆を考察する.
1. うつ病をもつ人が再休職に至った認知・行動の特徴本研究の対象者に特徴的な認知と行動を導出するため,本研究と先行研究の結果を照合した.本研究と同じく,再休職に至った人のみを対象とした先行研究は見当たらなかったため,休職中の気分障害患者を対象とした先行研究(中村,2015)と照合した.その結果,本研究の対象者に特有の認知は〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉であり,行動は《過去・未来・自分自身に関する反すう》であった.
〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉の比較志向性について,自尊感情が低く抑うつ傾向が高い人は比較志向性が強いこと(外山,2002),比較志向性はストレス状況下や新しい経験の時に高まること(Buunk, 1994)が報告されている.この比較志向性が高まる状況は,本研究の対象者である職場復帰したうつ病をもつ人の状況に合致する.すなわち,本研究の対象者は,職場復帰後の脆弱な時期に《環境や生物学的な変化》や《残存する身体症状の悪化》等のストレス状況に置かれ,不確かな自己を正しく評価し定義づけるために,他者との比較に基づいた情報を得ようとしたと考えられる.しかし,認知の歪みの影響を受け,事実と異なる自己評価に至ったと推察される.Festinger(1954)は,“人は自分自身の能力や意見を評価しようとする衝動があり,物理的・客観的手段がないとき,他者との比較を通して自己を評価する”と述べている.このことから,うつ病をもつ人の再休職を予防するためには,職場において客観的で正しい評価を得ることが重要と考えられた.
《過去・未来・自分自身に関する反すう》についてWatkins(2016)は,反すうはうつ病の発症と維持に関係しており,うつ病寛解後も残存しやすいと述べている.また,うつ病の再発と反すうの関係についてRonold et al.(2020)は,うつ病の再発に関する脆弱因子を5年間にわたり追跡調査し,反すうが再発を予測したと報告している.本研究の対象者である再休職したうつ病をもつ人が習慣的に反すうしていたことは,Ronold et al.(2020)を支持する結果となった.反すう傾向の高いうつ病をもつ人は再休職のリスクが高い可能性が示唆された.
上記をまとめると,①職場復帰したうつ病をもつ人が客観的で正しい評価を得られること,②反すうへの対処を獲得することが再休職の予防に重要と考えられる.このうち,①客観的で正しい評価については,職域における対応が必要であり,産業分野で働く看護師が働きかけることが重要である.また,②反すうへの対処を獲得することは,休職中や復職後に通うデイケアや外来で働く看護師もアプローチすることが出来得る.
2. 看護への示唆本研究の対象者は,「テレビ見てても,つまんないなぁ~とかって思うと,仕事のことが頭の中に出てきたりする」と述べ,反すうが習慣化していた.Watkins(2016)は,反すうは負の強化を通じて学習される習慣的行動であり,回避の一種として概念化されると述べている.すなわち,反すうによって内的世界に留まり慎重になることにより,外的世界での直接的な行動や,その行動に伴う失敗や恥の可能性を除去できるため,強化・維持された行動が反すうといえる.本研究の対象者らは,過去において,反すうによって何らかの不快を避けることができたため,強化・維持され,過剰な反すうを止めることが難しくなり再休職につながったものと推察できる.習慣化された反すうへの方略の一つとして,反すう焦点化認知行動療法(Watkins, 2016)が有効と報告されている.反すう焦点化認知行動療法は,習慣化した反すうが自動的に引き起こされる刺激やきっかけを見つけ,反すうとは異なる適応的で新しい習慣を学習・強化することを目指す.加えて,その新しい習慣が,それまで反すうが担ってきた役割と似た役割を持つと自然に強化されることが示唆されている(Watkins, 2016).具体的には,本研究の対象者のように,「テレビ見てても,つまんないなぁ~とかって思うと」反すうが始まり,「自分自身の嫌いなところとか,受け入れられないところがあって,(中略)自分が嫌いで決別したいから」反すうを続けるという場合,反すうのトリガーは,テレビを見ていてつまらない時であり,反すうの役割は,嫌いな自分への戒めと考えられる.この場合の方略として,つまらない時の活動を計画しておく,セルフ・コンパッションのように建設的な自分との対峙方法を練習することなどが有効である可能性がある.
上記のように反すうに対する看護を行う場面,つまり,看護師が休職中や復職後のうつ病をもつ人と関わる場面は,職域の健康管理部門や,精神科外来やデイケアなどが挙げられる.現在,日本は地域包括ケアシステムの構築が進みつつあり,職域や外来,デイケアなど地域における看護の機能や重要性は今後一層高まると予想される.そのような施策の流れの中で,職域や外来,デイケアにおいて看護師がうつ病をもつ人と一緒に反すうへの対処に取り組むことは,再休職を予防する上で極めて重要と考えられる.具体的なアプローチとしては,患者の反すうに関する発言(「ぐるぐる自分を責める考えが止まらない…」など)を注意深くひろい,反すうで苦しんでいる患者を同定することが支援の最初の一歩である.その後,うつ病をもつ本人の反すうへの気づきを促すことや,反すうを適応的な習慣に置き換えられるように本人と一緒に取り組むことが重要と考えられた.
本研究の限界として,サンプリングの偏りがある.サンプリングが男性とリワーク利用者に偏っているため,結果の解釈に注意が必要である.また,対象者数が8名と少ないため,結果の普遍化には限界がある.
本研究は,認知行動療法の理論に基づき,うつ病をもつ人が再休職に至った状況・認知・行動・感情・身体の変化を明らかにし,認知と行動の特徴に注目したアプローチを検討するため,再休職を経験した8名を対象に半構造化インタビューを行った.その結果,再休職に至る“状況”は,《環境や生物学的な変化》《納得できない指示》《残存する身体症状の悪化》《前回の休職を想起する状況》《相談相手の少なさ》であった.その状況に対する“認知”は《理想の自分像への執着》と《納得できるストーリー探し》であり,“感情”は《状況への焦り・緊張・恐怖》《周囲への不信や孤独感》等であった.それらの感情により,《仕事の抱え込み》や《我慢》する“行動”につながっていた.加えて,《過去・未来・自分自身に関する反すう》をするようになっていた.その結果,“身体”は《睡眠不足や悪夢》が続き,《疲労感》《動悸や痛み》等の身体症状が生じていた.認知と行動の中でも,再休職に至ったうつ病をもつ人に特徴的な認知と行動は〈比較志向性の高さと極端な過小評価〉と《過去・未来・自分自身に関する反すう》であった.再休職と予防するため看護師にできることは,患者が行っている反すうへの気づきを促すことや,反すうを適応的な習慣に置き換えられるように患者と一緒に取り組むことであると考えられた.
謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました対象者,医療機関の皆様に心より感謝申し上げます.また,本研究のご助言を賜りました国際医療福祉大学大学院の岡田教授ゼミの皆様に心より御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MNは研究の着想から原稿作成までの研究プロセス全体に貢献した.YOおよびTNは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.