2024 年 44 巻 p. 732-742
目的:訪問看護を利用する慢性疾患高齢者にセルフモニタリング教育プログラムを実施し,ヘルスリテラシー(HL)向上効果を明らかにする.
方法:対象者は訪問看護を利用する慢性疾患療養高齢者,介入群40名,対照群42名であり,非ランダムに割りつけた.介入群に教育介入を実施し,ベースライン,介入終了1週間後,3カ月後,6カ月後に自記式質問紙調査と訪問看護書類から情報収集した.HLはFCCHL尺度,健康関連QOLはSF-12を用い,反復測定による共分散分析,入院期間は日数で把握し,Mann-WhitneyのU検定にて評価した.
結果:HLは合計得点に群と時間の交互作用を有意に認めたが(F(3, 71) = 7.53, p < .001),健康関連QOLは交互作用を認めなかった.介入終了6カ月間の入院日数は介入群は対照群に比べ有意に短かった(U = 3.50, p < .001).
結論:訪問看護を利用する慢性疾患高齢者へのセルフモニタリング教育は,HL向上効果と入院期間短縮の可能性が示唆された.
Aim: This study implemented a visiting nursing services self-monitoring education program for older adults with chronic diseases and examined its effectiveness in improving their health literacy.
Methods: The participants were older adults aged 65 years and above who had a chronic disease and used home-visit nursing care. They were non-randomly assigned to the intervention group (n = 40) and control group (n = 42). The self-monitoring education program was conducted with the intervention group. Self-administered questionnaire surveys were conducted and visiting nursing documents were examined at baseline and at, one week, three months, and six months after the program. Health literacy was examined using the Functional Communicative Critical Health Literacy Scale, and health-related quality of life was examined using the Medical Outcomes Study 12Item Short-Form Health Survey. The duration of hospitalization was also recorded. Health literacy and health-related QOL were analyzed using covariance analysis, and duration of hospitalization was evaluated using the Mann-Whitney U test.
Results: A significant group by time interaction was observed for the total health literacy score (F(3, 71) = 7.53, p < .001), but no interaction was observed for health-related quality of life. The number of days of hospitalization at six months after intervention was significantly shorter in the intervention group than in the control group (U = 3.50, p < .001).
Conclusion: The results suggest that self-monitoring education for older adults with chronic diseases using visiting nursing services may be effective in improving their health literacy and shortening the hospitalization duration.
地域包括ケアシステムの推進に伴い,疾患や障害を有する高齢者の療養の場は広がっている.訪問看護の利用者数は2022年には100万人を超え,年々増加しており(厚生労働省,2024),介護保険法による訪問看護利用者の7割以上を80歳以上の高齢者が占めている(厚生労働省,2024).利用者の有する疾患は高血圧や心疾患を含む循環器系の疾患が最も多く,次に筋骨格系および結合組織の疾患,パーキンソンを含む神経系の疾患と続き(厚生労働省,2024),訪問看護を利用する多くの高齢者が長期に治療を要する慢性疾患を有している.慢性疾患を有する者は再入院しやすく(Ziaeian & Fonarow, 2016;Rubin, 2018;Ruan et al., 2023),健康関連QOLが低い(Alonso et al., 2004)ことが報告されている.慢性疾患の症状の増悪は入院や併存疾患の発症,後遺症をもたらし,身体的側面だけではなく精神的側面のQOLについても低下すると考えられる.また,高齢者が入院した場合,年齢が1歳,在院日数が1日増すごとに入院時に比べ退院時の生活機能が低下し(相川ら,2012),希望する場所での療養を困難にする.慢性疾患を有する高齢者の入院を予防し,心身共に健康的で質の高い在宅療養を継続するためには,症状の悪化を予防する適切な疾患管理が重要である.
ヘルスリテラシー(Health Literacy: HL)は人々が疾患や健康に関する情報を入手し,理解,活用,評価するための知識や意欲,能力であり(Sørensen et al., 2012),健康の改善に効果をもたらす(WHO, 2021).HLが低い高齢者は疾患の管理が不適切になりやすく(Schönfeld et al., 2021;Thapa & Nielsen, 2021)再入院(Chesser et al., 2016)や死亡するリスクが高くなる(Bostock & Steptoe, 2012;Smith et al., 2018).つまり,HLの低下予防は慢性疾患を有する高齢者の健康管理にとって不可欠なものである.特に,訪問看護を利用する高齢者は医療的依存度が高く,病状の悪化を招きやすい.そのため,高齢者を定期的に訪問し医療的支援を行う訪問看護師は,高齢者の健康管理能力とHLの向上につながる具体的支援を行う必要がある.
慢性疾患療養者へのHLの教育的介入を行った先行研究では,糖尿病患者への疾患教育(Alsaedi & McKeirnan, 2021)や心疾患患者へのロールプレイ等を用いた教育(Walters et al., 2020),高齢者の施設入居者へのティーチバック法を用いた教育(Liu et al., 2018)がHLの向上に効果があったことが報告されているが,訪問看護を利用する慢性疾患高齢者を対象として教育を行い,HL向上の効果を報告した研究は見当たらない.
慢性疾患を有する高齢者を対象とした遠隔看護の介入研究では,バイタルサインや浮腫などの身体症状や日常生活の活動状況,服薬遵守の状況を自己で確認し,遠隔システムに報告することがHL向上に効果があったことが報告されている(Kamei et al., 2022).訪問看護においても高齢者自身が身体症状や日常生活での活動状況を観察,記録し医療者へ報告する教育は慢性疾患を有する高齢者のHL向上に効果が期待できる.セルフモニタリングは自らの健康や病気を適切に管理するために,病気の症状や身体感覚を定期的に測定,記録,観察し認識することである(Wilde & Garvin, 2007).療養者は日々のセルフモニタリングで得た健康状態を過去の健康状態と比較し療養行動を決定する.特に,訪問看護を利用する高齢者は医療依存度が高いにも関わらず,常に医療者がそばにいるわけではないことから,症状の悪化の判断とその後の医療者への連絡といった具体的な行動は利用者自身が行わなければならない.高齢者が行った判断や行動は,その後の高齢者の健康転帰を左右すると推測され,健康行動の判断基準となるセルフモニタリングの適切さが重要となる.訪問看護におけるセルフモニタリング能力を強化する教育は,慢性疾患を有する高齢者のHLの向上につながり,高齢者の適切な健康管理行動の促進と心身共に質の高い在宅療養の継続に寄与できるものと考える.
本研究では慢性疾患を有する高齢者に対して,訪問看護師が行うセルフモニタリング教育プログラムを提供し,HL向上に関する効果について明らかにすることを目的とする.
研究デザインは,非ランダム化比較研究である.
1. 研究対象施設と研究対象者本研究の対象施設は機縁法により選定し,研究協力の承諾が得られた4か所の訪問看護ステーション(訪問看護ST)である.非ランダムに事業所ごとに2か所ずつ,年齢,性別,世帯状況,最終学歴,要介護度,対象者数を均等になるよう介入群と対照群の2群に割り付けた.介入群は通常の看護ケアに加え,セルフモニタリング教育を実施し,対照群は通常の看護ケアのみとした.なお,事業所ごとに群を割りつけたため盲検化は行っていない.
研究対象者は,研究対象施設で訪問看護を利用する慢性疾患を有する65歳以上の要介護認定者とした.本研究の慢性疾患は,主治医が交付する訪問看護指示書に記載された6疾患(高血圧症,糖尿病,心疾患,脳血管疾患,脂質異常症,透析を行っていない慢性腎臓病)とした.この6疾患は介護保険による訪問看護利用者において,割合の高い疾患であり(厚生労働省,2024),生活習慣や疾患のセルフモニタリングが病状の維持改善に有効であると研究者が判断し選定した.また,介入終了期間に差が出ないように,訪問看護の利用頻度が週1回以上の者とし,研究対象施設の管理者から紹介を受けた.除外基準は,訪問看護指示書に認知症者や末期の状態と記載のある者,教育介入に用いる資料の読み取りやコミュニケーションに支障がある者とした.サンプルサイズは,統計ソフトG*Powerを用い,分析を共分散分析,検出力80%,効果サイズ0.8,有意水準5%として算出した結果,1群34名であり,脱落率は各事業所の過去6カ月間の入院等により訪問中止となった利用者数の平均と先行研究(Uemura et al., 2018)から10%と仮定し,1群40名程度に設定した.
2. 介入方法と内容 1) 介入方法介入方法は,介入群に2022年11月に対象者が利用する訪問看護STの看護師が通常の看護ケアに加え,週1回約30分,全3回の教育介入を実施した.
教育介入の目的は,慢性疾患を有する高齢者が訪問看護師によるセルフモニタリング教育を受けることで,HLが向上することとした.教育介入はセルフモニタリングに必要な疾患に関する知識や健康状態,測定値を検出する技術,問題解決力(Wilde & Garvin, 2007)が獲得できる構成とし,動画を使用した10分間の講義と高齢者が看護師と行なう20分間のワークとした.ワークは,教育介入の内容が記録できるワークブックを使用し,対象者が見返すことができるように対象者宅に据え置いた.
教育介入プログラムの開発は,在宅看護学研究者や訪問看護に3年以上従事する看護師と議論を行い,教育介入を実施する看護師は3年以上の訪問看護経験を有し,研究者が実施する研修を受けた者とした.研修の内容は訪問看護におけるセルフモニタリングの実施と高いHL保持の重要性,HLが低い者へのコミュニケーション方法である.研修時間は約1時間であり,HL向上支援について記述されたテキスト(中山,2022)を抄読したのち,教育介入で使用する動画,ワークブックを用い,対象者へ実施することを想定したロールプレイを実施した.
2) 教育介入の内容教育介入の内容は「くすり」,「食事」,「日常生活行動」の全3回とした.内容は対象とした慢性疾患の治療ガイドライン,診療ガイドライン(日本高血圧学会,2019;一般社団法人日本糖尿病学会,2022;日本循環器学会,2018;日本脳卒中学会,2021;一般社団法人日本動脈硬化学会,2018;一般社団法人日本腎臓学会,2018)で示されている疾患教育に共通する治療や生活習慣に関するものとした.教育介入では,看護師は高齢者が行っているセルフモニタリングの内容と記録の状況を確認した.
第1回の「くすり」の教育介入は1.服薬内容と効果,2.服薬の重要性と服薬行動,服薬を忘れた際の対処方法について理解することを目標とした.内容は動画を用いて看護師が服薬内容と効果の理解の必要性,決められた用法での服薬の重要性の説明を行った.ワークは看護師と服用中の薬剤名,効能,服薬方法を確認し,対象者がワークブックへ記録した.さらに,服薬を飲み忘れた際の対処方法について看護師と考え,対処方法を対象者がワークブックに記録した.
第2回の「食事」の教育介入は1.栄養バランス,2.疾患を考慮した栄養バランスの良い食事の摂取について理解することを目標とした.内容は動画を用いて看護師が疾患を考慮した栄養バランスの良い食事の重要性の説明を行なった.ワークは対象者に前日の食事内容の想起を促し,10の食品群の頭文字からロコモチャレンジ!推進協議会が考案した合言葉(東京都健康長寿医療センター研究所,2017)「さあにぎやかにいただく」を用いて,看護師と食事内容を確認し,対象者がワークブックに記録した.さらに,疾患を考慮した栄養バランスの良い食生活の工夫について看護師と考え,対象者がワークブックに記録した.
第3回の「日常生活行動」の教育介入は1.健康状態の正しい測定の必要性,2.疾患の悪化を予防する日常生活行動,3.体調悪化時の症状と対処方法について理解することを目標とした.内容は,動画を用いて看護師が日常生活での身体症状や行動,生体指標の認識,測定,記録の有用性と体調悪化時の早期発見の重要性を説明した.ワークは家事や運動など対象者の日常生活の活動内容を確認し,対象者がワークブックに記載した.また,主治医により定期的な測定を指示されている血圧,脈拍などの測定方法を看護師と確認した.さらに,状態悪化時の症状と対処方法を看護師と考え,対象者がワークブックに記録した(表1).
| 第1回 | 「くすり」 |
|---|---|
〈時間〉 ・服薬に関する説明:10分 ・ワークの実施:20分 |
〈目標〉 1.自己の服薬内容とその効果を理解する 2.服薬の重要性と適切な服薬行動を理解し,服薬を忘れた際の対処方法が理解できる |
〈内容〉 ①看護師が動画を用い,服薬内容と効果を正しく理解することの必要性,決められた用法での服薬の重要性を説明する ②現在服用している薬剤の名称と薬効を看護師とともに確認し,対象者がワークブックに記録する ③正しい服薬方法と飲み忘れ時の対応法を看護師とともに考え,対象者がワークブックに記録する |
|
| 第2回 | 「食事」 |
〈時間〉 ・栄養バランスに関する説明:10分 ・ワークの実施:20分 |
〈目標〉 1.栄養バランスについて理解できる 2.疾患を考慮した栄養バランスの良い食事摂取について理解できる |
〈内容〉 ①看護師が動画を用い,疾患を考慮した栄養バランスの良い食事の重要性を説明する ②前日の食事を想起し「シニアの健康生活の合言葉」1)を用い,食事内容を確認後,対象者がワークブックに記録する ③対象者の疾患を考慮した栄養バランスの良い食生活の工夫を看護師とともに考え,対象者がワークブックに記録する |
|
| 第3回 | 「日常生活行動」 |
〈時間〉 ・日常生活活動に関する説明:10分 ・ワークの実施:20分 |
〈目標〉 1.健康状態を示す指標の正しい測定と実施の必要性を理解できる 2.疾患の悪化を予防する日常生活行動が理解できる 3.体調悪化時の症状と対処方法が理解できる |
〈内容〉 ①看護師が動画を用い,日常生活における身体症状,行動,生態指標の認識,測定記録の重要性と体調悪化時の早期発見の重要性を説明する ②日常生活における活動内容を確認し,対象者がワークブックに記録する ③主治医により定期的な測定を指示されている血圧,脈拍,血糖などの測定方法を看護師とともに確認する ④体調悪化時の症状や状況を確認し,その際の対処方法を訪問看護師とともに考え,対象者がワークブックに記録する |
1)東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取の多様性得点を構成する10の食品群の頭文字を取ったもので,「ロコモチャレンジ!推進協議会」が考案した合言葉
ワークブックは各介入の工夫点などの具体例を示した後,項目ごとに記録枠を設け対象者が自己の内容を記録できるようにし,介入時の血圧等の記録枠も設けた.介入後もこれらの項目の記録の継続を希望する者には,同様の記録用紙を配布した.
3. 調査方法自記式質問紙調査と訪問看護STが保管する訪問看護記録,介護保険証,介護保険負担割合証,主治医が発行する訪問看護指示書の書類からデータを収集した.対象者への自記式質問紙調査票の配布は,看護師が対象者に手渡し,質問項目を読み,対象者が回答を記入後,看護師が回収した.回収時に看護師は対象者に空欄の有無を確認した.調査はベースライン(BL,2022年10月)と教育介入終了1週間後,3か月後,6か月後の4回行った.また,訪問看護STが保管する書類よりBL時に各訪問看護STの管理者が調査票にデータを転記したが,盲検化は行っていない.
4. 調査項目 1) 基本属性基本属性は,年齢,性別,世帯状況(独居の有無),最終学歴,要介護度,経済状況,障害者高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),認知症高齢者の日常生活自立度(認知度),疾患名,併存疾患数,過去6か月の入院の有無,過去1週間のセルフモニタリングを行った回数としBLのみ把握した.最終学歴と過去1週間のセルフモニタリングを行った回数は自記式質問紙調査より把握し,その他の基本属性はそれぞれ訪問看護記録,介護保険証,介護保険負担割合証,訪問看護指示書から把握した.経済状況は前年所得により決定される介護保険サービス利用料の自己負担額割合とした.
2) HLHLはFunctional Communicative and Critical Health Literacy(FCCHL)尺度(Ishikawa et al., 2008)を用い,BL,教育介入終了1週間後,3か月後,6か月後の4回,自記式質問紙調査より把握した.HLは機能的,伝達的,批判的の3つの下位尺度とすべての項目を加えた合計HL尺度で構成されている.機能的HLは基本的な読み書きの能力を指し,伝達的HLは様々な情報源や周囲の人々とのコミュニケーションから情報を収集し,その意味を理解する能力を指す.また,批判的HLは収集した情報を批判的に分析し,その情報を日常生活に活用できる能力を指す.FCCHLは慢性疾患患者用HL尺度として日本語で開発された尺度であり,信頼性,妥当性が示されている(Ishikawa et al., 2008).回答は「全くなかった(1点)」から「よくあった(4点)」までの4件法で回答し,尺度内の項目の点数を合計し,尺度内の項目数で割り,尺度得点を計算した.得点範囲は1.0点から4.0点であり,評価は得点が高いほどHLが高いと判断する.
3) 健康関連QOL健康関連QOLは,Medical Outcomes Study36-Item Short-Form Health Survey(SF-36v2)のショートバージョンであるMedical Outcomes Study 12Item Short-Form Health Survey(SF-12v2)を用いBL,教育介入終了1週間後,3か月後,6か月後の4回,自記式質問紙調査より把握した.SF-12v2(福原・鈴鴨,2004/2019)は,健康関連QOLを測定する信頼性・妥当性が検証された(福原・鈴鴨,2004/2019))自記式尺度である.本研究では,Web版スコアリングシステムを用いて算出した身体的側面のQOLを表すサマリースコア(Physical Component Summary: PCS)と精神的側面のQOLを表すサマリースコア(Mental Component Summary: MCS)を用いた.スコアリングは項目の合計を0~100点に換算し国民標準値を50点,標準偏差を10点としたスコアリング得点に変換される.国民標準値(2017年)のサマリースコア範囲はPCSは7.8から73.8,MCSは3.1から70.5であり,サマリースコアが50以上であればQOLが国民標準値より高く,50未満であればQOLが国民標準値より低いと判断する(福原・鈴鴨,2004/2019).
4) 服薬アドヒアランス服薬アドヒアランスは,日本語版Morisky Medication Adherence Scale-8(MMAS-8)(Murota et al., 2015)を用いBLに自記式質問紙調査より把握した.MMAS-8は8項目の質問に回答し「はい」を0点,「いいえ」を1点として加算し合計点で評価し,得点範囲は0点から8点であり,合計点が高いほど服薬アドヒアランスが高いと判断する.
5) 栄養摂取バランス栄養摂取バランスは,食品摂取多様性スコア(熊谷ら,2003)を用い,BLに自記式質問紙調査より把握した.食品摂取多様性スコアは1週間での魚介類,肉類,など10食品の摂取頻度について「ほぼ毎日食べる」に1点,「2日に1回食べる」「週に1,2回食べる」「ほとんど食べない」を0点とし,得点範囲は0点から10点であり,合計点が高いほど多様な食品を摂取していると判断する.
6) 入院の発生入院の発生は教育介入終了から6か月間の入院の有無とその日数を教育介入終了6か月後の自記式質問紙調査より把握した.ただし,事前に予定されていた治療や検査による入院は除外した.
5. 分析BLの群間差は,基本属性の連続変数にはt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い検討し,質的変数にはχ2検定,Fisherの正確確率検定を用いて検討した.効果評価はHLと健康関連QOLのデータをコルモゴロフ-スミルノフ検定を行い正規性が確認されたことから,群間比較には反復測定による共分散分析を用い,群および時間要因の交互作用にて検討した.なお,共分散分析では年齢,性別,認知高齢者の日常生活自立度(認知度),最終学歴,疾患数,服薬アドヒアランス得点と各検定項目のBL得点に多重共線性がないことを確認し,共変量に投入し,推定平均値を算出した.入院の発生の群間差は,入院割合にはFisherの正確確率検定,入院日数にはMann-WhitneyのU検定を用い検討した.統計解析にはSPSS® Ver. 29を使用し,有意水準は5%とした.
6. 倫理的配慮本研究では,研究対象者に研究目的と方法のほか,個人情報保護,研究参加や調査票の記入は自由意思であり,拒否により利用する訪問看護STから受けるサービスに不利益がないこと,対照群には介入終了後,希望者には同様の教育の受講が可能であることを口頭と文書にて説明し研究同意を得た.また,調査票配布時には記入しない自由があることを看護師により口頭にて説明した.研究協力施設管理者ならびに介入を実施する看護師には,研究協力は自由意思であり,拒否により不利益は被らないこと,介入前の研修は参加者の希望日時で行うことを口頭と文書にて説明し,同意を得た.本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号2022-102).本研究はUMIN臨床試験登録システムに登録し実施した(登録ID000052236).
本研究の適合基準に適合した者は4事業所合わせて124名(26名,37名,30名,31名),であり,そのうち不適合者はなく,研究の参加を拒否した者は33名(12名,8名,7名,6名)であり,研究対象者は91名であった.分析対象者は全教育介入に参加できなかった者および,全ての自記式質問紙調査に回答できなかった者9名(介入群3名,対照群6名)を除外し,介入群40名,対照群42名であった(図1).介入群対象者への介入開始から終了までの期間は3週間,または4週間であった.また,回収したデータに欠損値はなかった.

介入群40名の年齢の中央値(IQR)は82.0(75.0~86.0)歳,80歳以上の割合は62.5%,女性は55.0%,疾患は高血圧症が75.0%,糖尿病が50.0%であった.対照群42名の年齢の中央値(IQR)は84.0(75.0~89.0)歳,80歳以上の割合は66.7%,女性は59.5%,疾患は高血圧症が71.4%,糖尿病が45.2%であった.また,セルフモニタリング習慣の1週間の回数の中央値(IQR)は両群ともに3.0(1.0~7.0)回であり,基本属性は両群間に有意な差はなかった(表2).
N = 82
| 介入群(n = 40) | 対照群(n = 42) | U値/t値またはχ2値 | p値 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 年齢(歳) | 中央値(IQR) | 82.0(75.0~86.0) | 84.0(75.0~89.0) | 750.00a) | .403 | ||
| 80歳以上 | n(%) | 25(62.5) | 28(66.7) | 0.16b) | .813 | ||
| 性別 | 女性 | n(%) | 22(55.0) | 25(59.5) | 0.17b) | .824 | |
| 世帯状況 | 独居 | n(%) | 13(32.5) | 21(50.0) | 2.59b) | .122 | |
| 最終学歴 | 中学校卒業 | n(%) | 19(47.5) | 12(28.6) | 3.13c) | .210 | |
| 高等学校卒業 | 19(47.5) | 27(64.3) | |||||
| 短期大学卒業以上 | 2(5.0) | 3(7.1) | |||||
| 経済状況 | 負担なし | n(%) | 3(7.5) | 1(2.4) | 1.17c) | .436 | |
| 1割負担 | 32(80.0) | 33(78.6) | |||||
| 2割負担以上 | 5(12.5) | 8(19.0) | |||||
| 要介護度 | 要支援1・2 | n(%) | 14(35.0) | 12(28.6) | 0.46c) | .796 | |
| 要介護1・2 | 19(47.5) | 21(50.0) | |||||
| 要介護3 | 7(17.5) | 9(21.4) | |||||
| 障害高齢者の日常生活自立度 | J | n(%) | 16(40.0) | 11(26.2) | 4.15c) | .126 | |
| A | 20(50.0) | 20(47.6) | |||||
| B | 4(10.0) | 11(26.2) | |||||
| 認知症高齢者の日常生活自立度 | 自立 | n(%) | 15(37.5) | 13(31.0) | 0.85c) | .651 | |
| I | 23(57.5) | 25(59.5) | |||||
| IIa | 2(5.0) | 4(9.5) | |||||
| 疾患 上位3疾患(複数回答) | n(%) | ||||||
| 高血圧 | 30(75.0) | 30(71.4) | 0.13b) | .805 | |||
| 心疾患 | 12(30.0) | 13(31.0) | 0.01b) | 1.000 | |||
| 糖尿病 | 20(50.0) | 19(45.2) | 0.19b) | .825 | |||
| 脳血管疾患 | 5(12.5) | 8(19.0) | 0.66b) | .549 | |||
| 脂質異常症 | 5(12.5) | 5(11.9) | 0.01b) | 1.000 | |||
| 慢性腎臓病 | 1(2.5) | 1(2.4) | 0.01b) | 1.000 | |||
| 筋骨格系疾患(骨折含む) | 17(42.5) | 20(47.6) | 0.22b) | .664 | |||
| その他e) | 17(42.5) | 23(54.8) | 1.23b) | .280 | |||
| 疾患数 | 中央値(IQR) | 4.0(3.5~4.5) | 4.0(3.0~5.0) | 830.00a) | .922 | ||
| 内服種類数 | 中央値(IQR) | 6.0(5.0~7.0) | 6.0(5.0~7.0) | 833.00a) | .947 | ||
| 過去6か月間の入院 あり | n(%) | 8(20.0) | 10(23.8) | 0.17b) | .792 | ||
| 過去1週間のセルフモニタリング実施日数 | 中央値(IQR) | 3.0(1.0~7.0) | 3.0(1.0~7.0) | 865.50a) | .809 | ||
| 服薬アドヒアランス | |||||||
| MMAS-8得点(範囲0点~8点) | 中央値(IQR) | 6.5(4.3~7.8) | 7.0(5.9~7.5) | 715.50a) | .246 | ||
| 食品摂取バランス | |||||||
| 食品摂取多様性スコア(範囲0点~10点) | 平均(SD) | 4.2(1.9) | 3.5(2.2) | –1.67d) | .099 | ||
a)Mann-WhitneyのU検定 b)Fisherの直接法 c)Pearsonのχ2検定 d)t検定 e)その他の疾患は高血圧,心疾患,糖尿病,脳血管疾患,脂質異常症,慢性腎臓病,筋骨格系(骨折を含む)以外の疾患を全て含む
服薬アドヒアランスのMMAS-8得点の中央値(IQR)は介入群は6.5(4.3~7.8)点,対照群は7.0(5.9~7.5)点,食品摂取多様性スコア得点の平均値(SD)は介入群は4.2(1.9)点,対照群は3.5(2.2)点であり,両群間の得点に有意な差はなかった(表2).
BL時のHLのFCCHLの合計と各下位尺度の平均(SD)得点は,合計得点の平均(SD)は介入群は2.53(0.51),対照群は2.47(0.66),機能的HLは介入群は2.90(0.70)点,対照群は2.65(0.78)点,伝達的HLは介入群は2.41(0.74),対照群は2.49(0.85),批判的HLは介入群は2.21(0.81),対照群は2.22(0.80)であり,合計得点と各尺度得点は両群間に有意な差はなかった.また,BL時の健康関連QOLのPCS得点の平均値(SD)は介入群は28.1(7.9)点,対照群は26.5(7.7)点,MCS得点の平均値(SD)は介入群は50.7(6.6)点,対照群は50.9(8.7)点であり,健康関連QOLの得点に両群間に有意な差はなかった(表3).
N = 82
| 介入群(n = 40) | 対照群(n = 42) | t値 | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| ヘルスリテラシー FCCHL尺度 得点 | |||||
| 合計 | 平均(SD) | 2.53(0.51) | 2.47(0.66) | –0.42 | .674 |
| 機能的へルスリテラシー | 平均(SD) | 2.90(0.70) | 2.65(0.78) | –1.50 | .138 |
| 伝達的ヘルスリテラシー | 平均(SD) | 2.41(0.74) | 2.49(0.85) | 0.43 | .667 |
| 批判的ヘルスリテラシー | 平均(SD) | 2.21(0.81) | 2.22(0.80) | 0.08 | .993 |
| 健康関連QOL SF-12v2サマリースコア | |||||
| PCSa) | 平均(SD) | 28.1(7.9) | 26.5(7.7) | –0.93 | .356 |
| MCSb) | 平均(SD) | 50.7(6.6) | 50.9(8.7) | 0.09 | .931 |
t検定 a)PCS:Physical Component Summary b)MCS:Mental Commponent Summary
反復測定による共分散分析の結果,FCCHLの合計得点と各下位尺度の推定平均値(SE, 95%CI)の変化は,合計得点はBLは介入群,対照群ともに2.50(0.00, 2.50~2.50)点,教育介入終了6カ月後は介入群は2.74(0.07, 2.60~2.88)点,対照群は2.40(0.07, 2.25~2.53)点であり,群×時間の交互作用を認めた(F(3, 71) = 7.53, p < .001).機能的HL得点はBLは介入群,対照群ともに2.77(0.00, 2.77~2.77)点,教育介入終了6カ月後は介入群は2.95(0.12, 2.72~3.18)点,対照群は2.90(0.12, 2.67~3.12)点であり,群×時間の交互作用は認めなかった(F(3, 71) = 0.08, p = .971).伝達的HL得点はBLは介入群,対照群ともに2.45(0.00, 2.45~2.45)点,教育介入終了6か月後は介入群は2.75(0.11, 2.53~2.96)点,対照群は2.20(0.11, 2.02~2.44),批判的HL得点はBLは介入群,対照群ともに2.22(0.00, 2.22~2.22)点,教育介入終了6か月後は介入群は2.45(0.12, 2.22~2.69)点,対照群は1.99(0.11, 1.76~2.22)であり,伝達的HLと批判的HLの得点は両群の群×時間に交互作用が認められた(F(3, 71) = 9.19, p < .001, F(3, 71) = 5.95, p < .001)(表4).
N = 82
| 群 | N | 推定平均値(SE) | F値 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| BL | 教育介入終了1週間後 | 教育介入終了3か月後 | 教育介入終了6か月後 | 群 | 時間 | 群×時間 | |||
| ヘルスリテラシー FCCHL尺度 | |||||||||
| 合計 | 介入群 | 40 | 2.50(0.00) | 3.00(0.06) | 2.82(0.07) | 2.74(0.07) | 32.96*** | 2.98* | 7.53*** |
| 対照群 | 42 | 2.50(0.00) | 2.55(0.05) | 2.45(0.06) | 2.40(0.07) | ||||
| 機能的ヘルスリテラシー | 介入群 | 40 | 2.77(0.00) | 2.96(0.10) | 2.97(0.09) | 2.95(0.12) | 0.06 | 2.52 | 0.08 |
| 対照群 | 42 | 2.77(0.00) | 2.97(0.09) | 2.94(0.09) | 2.90(0.12) | ||||
| 伝達的ヘルスリテラシー | 介入群 | 40 | 2.45(0.00) | 3.16(0.10) | 2.90(0.10) | 2.75(0.11) | 30.59*** | 2.92* | 9.19*** |
| 対照群 | 42 | 2.45(0.00) | 2.38(0.09) | 2.35(0.10) | 2.22(0.11) | ||||
| 批判的ヘルスリテラシー | 介入群 | 40 | 2.22(0.00) | 2.85(0.08) | 2.52(0.09) | 2.45(0.12) | 28.70*** | 0.11 | 5.95*** |
| 対照群 | 42 | 2.22(0.00) | 2.24(0.08) | 2.00(0.09) | 1.99(0.11) | ||||
| 健康関連QOL SF-12v2サマリースコア | |||||||||
| PCSa) | 介入群 | 40 | 27.3(0.0) | 26.6(0.9) | 28.5(1.2) | 27.2(1.3) | 0.04 | 3.34 | 1.93 |
| 対照群 | 42 | 27.3(0.0) | 29.1(0.9) | 27.0(1.1) | 25.5(1.3) | ||||
| MCSb) | 介入群 | 40 | 50.8(0.0) | 52.2(1.0) | 52.0(1.0) | 53.4(1.2) | 3.69 | 4.06** | 0.97 |
| 対照群 | 42 | 50.8(0.0) | 49.5(0.9) | 50.3(1.0) | 51.8(1.1) | ||||
*p < .05 **p < .01 *** p < .001 反復測定による共分散分析 共変量には年齢,性別,認知症高齢者の日常生活自立度(認知度),最終学歴,疾患数,服薬アドヒアランス得点と検定項目ごとに各ベースライン得点を投入した.なお,認知度は非該当,ランクI,ランクIIの3段階に分類し,最終学歴は中学卒業以下,高校卒業以下,短期大学卒業以上に分類し投入した.a)PCS:Physical Component Summary b)MCS:Mental Commponent Summary
反復測定による共分散分析の結果,SF12v2のサマリースコアの平均推定値(SE, 95%CI)の変化はPCS得点はBLは介入群,対照群ともに27.3(0.0, 27.3~27.3)点,教育介入終了6カ月後は介入群は27.2(1.3, 24.6~29.8)点,対照群は25.5(1.3, 23.1~28.2)点であった.MCS得点は,BLは介入群,対照群ともに50.8(0.0, 50.8~50.8)点,教育介入終了6カ月後は介入群は53.4(1.2, 51.1~55.7)点,対照群は51.8(1.1, 49.5~54.0)点であり,両得点ともに群×時間の交互作用は認めなかった(F(3, 71) = 1.93, p = .123, F(3, 71) = 0.97, p = .409)(表4).
4. 教育介入の入院の発生に対する効果BLから教育介入終了6カ月間の入院発生割合は,介入群40名は17.5%,対照群42名は23.8%であり,実人数の割合に有意な差を認めなかった.しかし,1回の入院日数の中央値(IQR)は介入群は7.0(5.0~13.0)日,対照群は16.0(14.0~32.5)日であり,介入群に比べ対照群は入院日数の中央値は長く,有意な差を認めた(U = 3.50, p < .001)(表5).
N = 82
| 介入群(n = 40) | 対照群(n = 42) | χ2値またはU値 | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 入院あり(実人数) | n(%) | 7(17.5) | 10(23.8) | 0.50a) | .589 |
| 入院日数/回 | 中央値(IQR) | 7.0(5.0~13.0) | 16.0(14.0~32.5) | 3.50b) | <.001 |
a)Fisherの直接法 b)Mann-WhitneyのU検定
本研究の特徴は,訪問看護を利用する慢性疾患を有する高齢者を対象に比較対照群を設定し①服薬内容と効果,服薬の重要性と服薬行動,服薬を忘れた際の対処方法,②栄養バランス,疾患を考慮した栄養バランスの良い食事摂取,③健康状態の正しい測定の必要性,疾患の悪化を予防する日常生活行動,体調悪化時の症状と対処法,の理解を促す内容で構成したセルフモニタリング教育介入を実施し,その効果を明らかにしたことである.その結果,HL,健康関連QOL,入院期間短縮の効果について以下に得られた知見を考察する.
第1に本教育介入終了後6か月間のHLの合計得点,ならびに,下位尺度である伝達的HLと批判的HLの得点に介入群と対照群の群×時間に交互作用を認め,本教育介入がHL向上に効果があったことが示された.伝達的HLは人々とのコミュニケーションから情報を収集し,その意味を理解する能力であり,批判的HLは収集した情報を批判的に分析し,その情報を日常生活に活用できる能力である(Nutbeam, 2000).本教育介入では,介入群対象者は教育介入において看護師とワークの内容を確認し,ワークブックに記録した.介入群対象者はワークの中で,看護師とコミュニケーションを取り,自らの疾患や日常生活行動の情報を収集し,理解を深めることで,伝達的HLが向上したと考えられる.また,介入群対象者は自らの服薬や栄養,日常生活行動を記録し,訪問看護師とともに考えることで,情報を批判的に振り返ることができ,日常生活に活用する能力が向上し,批判的HLが向上したと考えられ,この2つのHLの向上が全体のHLの向上に影響したと考えられる.さらに,本研究ではワークブックを対象者宅に据え置くことで,訪問時に看護師が自らの判断で介入時以外にも対象者にワークブックの見返しや記入を促した可能性があり,介入群対象者のHLが向上した可能性が考えられる.本教育介入では,訪問看護師が行う高齢者への説明に,動画とワークブックを使用した.先行研究では,慢性疾患患者に小冊子と動画を組み合わせた教育的介入がHLの低い者の疾患に関する知識が向上したこと(Eckman et al., 2012)が報告されている.本教育介入で用いた教育方法の特性により,介入群対象者は自己の疾患に関する知識を深め,HLが向上した可能性が考えられる.
第2に本教育介入終了後6か月間の健康関連QOLは明らかな効果は認められなかった.本研究の対象者は慢性疾患を有し,日常生活に支援を必要とする高齢者であった.先行研究では,高齢者は若年者に比べ身体的健康関連QOLは低く(Zack, 2013),慢性疾患を有する者の健康関連QOLは低い(Alonso et al., 2004)ことが報告されている.本研究で用いたSF12v2は全体的健康観や心身の健康状態を測定する包括的QOL尺度である.本研究の教育介入は,慢性疾患に関する知識等の内容であり,痛みなどの身体的苦痛や精神的苦痛に対するアプローチではなかった.このため,慢性疾患を有する高齢者の包括的なQOLの改善に至らなかったと推測される.また,QOLは時間的経過においても低下する(Ware JE Jr et al., 1996;小長谷ら,2010).対象者は介入終了6カ月間に加齢による心身の健康に影響を受けた可能性があり,健康関連QOLへの効果が認められなかった可能性がある.
以上の結果より,慢性疾患を有し訪問看護を利用する高齢者へのセルフモニタリング教育プログラムの実施により,高齢者のHLの向上が確認され,臨床的に有用であることが示唆された.今後,本教育介入は高齢者のHLの低下を予防し,在宅療養継続のための疾患管理教育などに適応できる可能性がある.
次に,本研究の限界と課題を述べる.第1に本研究では訪問看護事業所ごとに群を割りつけため対象者の割りつけは無作為化ではなかった.その結果,両群の属性等に有意な違いはなかったが,予測できない交絡因子が効果に影響を及ぼした可能性がある.第2に本研究の対象者はサンプル数が少なく,厚生労働省が報告する訪問看護利用者(厚生労働省,2024)に比べ,80歳以上の割合が少なかった.また,認知度は日常生活に支援を必要としないIレベルまでの者の割合が多く,要介護4以上の者はいなかった.これらのことから結果の一般化には限界がある.第3に本研究の対象者は自己の疾患管理に関する教育介入に参加の意思を有した集団であったことから,良好な結果が得やすかった可能性がある.第4に教育介入の影響を6カ月後までしか追跡していないことから,長期間の影響については検討できていない.第5に調査項目の要介護度や寝たきり度,認知度,併存疾患数の項目は6カ月間で変化する可能性があるが,本研究ではBLのみのデータであったため,これら項目の変化が結果に影響を及ぼした可能性がある.第6に群の割りつけは盲検化を行わなかったため,主観的な測定項目や結果の評価に影響を及ぼした可能性がある.第7に本研究の質問紙調査票の配布,回収方法について,対象者への配布時に回答拒否の自由等を説明し,倫理的な配慮を行っていたが,対象者に回答への強制力が働いた可能性や看護師による回答確認は,結果に影響を及ぼした可能性が考えられる.第8に本教育介入終了後6か月間において入院経験者の入院日数は,介入群は対照群に比べ短いという結果であった.これは年齢や入院の原因疾患,治療内容など,入院期間に影響する交絡因子の調整を行っていない結果であり,解釈には慎重を期するが,教育介入が入院期間に影響した可能性は否定できないと考える.したがって,今後は入院期間に関連する要因を含めたデータ収集を行い,その効果の検討が必要であると考える.
これらの限界と課題はあるが,本研究では訪問看護を利用する慢性疾患高齢者にセルフモニタリング教育を実施し,HL向上効果を縦断的に評価した点では新規性が高いと考えられる.したがって,今後の課題は,サンプル数を増やし,本教育介入プログラムによるHL向上の長期間の効果と入院期間に関する有効性を検討することである.
謝辞:本研究の遂行にあたりご協力いただきました対象者の皆様,訪問看護事業所の皆様に深謝いたします.本研究は,公益財団法人笹川保健財団の助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KMは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿作成までの研究プロセス全体の実施:AKは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿作成までの研究プロセス全体にわたる助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.