日本看護科学会誌
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原著
外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けた養護教諭による支援プロセス
中下 富子桐生 育恵生方 明日香内山 かおる佐藤 由美
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2024 年 44 巻 p. 922-931

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Abstract

目的:外国人の親をもつ児童生徒の心身の健康課題解決に向けた養護教諭の支援プロセスを明らかにした.

方法:養護教諭10名に対し半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析を行った.

結果:養護教諭による支援は,児童生徒の「健康課題の発生」から始まり,言葉と文化の違いにより,健康課題への対応が速やかにできないため,連携して【言葉と文化の違いを補って健康課題を明確化する】.さらに傷病の予防や管理ができるよう子どもと保護者に健康管理の方法を伝えるとともに,学校外のネットワークを活用し【国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援する】段階へと変化し,健康課題への「自己管理を評価する」プロセスが導き出された.

結論:健康課題の解決に向け,学校内外の関係者や保護者と連携して言葉と文化の違いを補い合い配慮工夫して支援する必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the process of support provided by school yogo teachers in addressing mental and physical health issues of students with connections to foreign countries.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 10 school yogo teachers regarding cases of support, and the data was analyzed using a modified grounded theory approach.

Results: The support process of school yogo teachers started with the understanding of “the occurrence of health issues” of the students, and collaboration to “Clarify health issues compensating for language and cultural differences”,they not being able to immediately respond to health issues by language and cultural differences. Additionally, the process of “Confirming self-management” of health issues were changes in stage “Involving supporting families with the understanding that different countries but the students are the same,” and it were a process of teaching the students so that they can prevent and manage their own health illnesses, as well as teaching of health illness to the parents, with support networks outside the school.

Conclusion: To address health issues, it is necessary to compensate for language barriers and differences in lifestyle and culture in collaboration with related parties inside and outside the school and with parents, and provide support for each other.

Ⅰ. 緒言

2022年6月末の在留外国人数は296万1,969人で,総人口に占める割合は約2%となっている.2013年以降,外国人登録者数は年々増加しており,毎年過去最高値を記録していたが,2020年2月頃~拡大した新型コロナウイルス感染症の影響で減少に転じた(法務省出入国在留管理庁,2022).在日外国人の子どもは,その多くが日本の公立学校に在籍しており,公立学校に在籍する外国籍の児童生徒の総数は114,853人と増加傾向にあり,このうち日本語指導が必要な者の割合は47,664人(41.5%)となっている(文部科学省総合教育政策局,2021).日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(文部科学省総合教育政策局,2022)では日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は47,619人であり,学校において特別の配慮に基づく指導を受けている者の割合は43,332人(91.0%)といずれも増加傾向にある.特別の配慮に基づく指導は,当該児童生徒に対して「特別の教育課程」による日本語指導,並びに教科の補習等在籍学級や放課後を含む,学校で何らかの日本語指導等を行うこととしている.また,日本語指導が必要な中学生等の高等学校等への進学率は89.9%であり,全中学生等進学率99.2%と比べて低く,高校生等の中退率は5.5%と改善しているものの,全高校生等1.0%に対する割合は依然として高い.

コロナ禍による感染対策の状況の変化に伴い,将来的には家族帯同による外国人の子どもを含む更なる増加も見込まれ,日本語指導が必要な児童生徒数の大幅な増加や,外国人の子どもの不就学を始めとして教育環境に係る課題への対応が求められる(文部科学省総合教育政策局,2022).また,在留外国人に対する基礎調査(法務省出入国管理庁,2021)では学校における子どもの困りごととして日本語がわからない,外国にルーツがあることでいじめられる,授業の内容が理解できないことをあげ,文化の違いから学校生活への適応が難しいことを報告している.

先行研究による外国人の親をもつ児童生徒の健康課題では日系ブラジル人の学校生活適応と心身のストレス症状(朝倉,2005),学校適応,親子関係及び地域参加状況(谷渕,2009),在日中国人就学生の異文化ストレッサーとソーシャルサポート源がメンタルヘルスに及ぼす影響(江ら,2011).在日外国人生徒と保護者への調査により,進学問題やいじめ・不登校等(石戸,2014)等,心理面での健康課題を報告している.また,在日外国人児童生徒の健康支援課題に関しては,在日ブラジル人学校の健康診断とその健康実態について身体面についての報告がある(佐藤ら,2010小島,2015武井ら,2022).

これらのことから,外国人の親をもつ児童生徒の円滑な学校適応等,個々の児童生徒の状況に応じたきめ細かな指導を行う体制整備の推進が課題となっており,外国籍ゆえの差別や偏見から非行やいじめや孤立等もみられ(法務省出入国管理庁,2021),心身の健康課題解決のための支援が喫緊の課題と言える.

また,外国人の親をもつ児童生徒への健康支援に関して養護教諭は,文化の違いや滞日生活の不安定さと健康・行動・就学の関連を認識し,言語の壁や傷病への認識の違いに直面して対応に戸惑い苦慮しつつも,言語と文化の違いに配慮・工夫した保健指導や教育・医療・福祉との連携によって支援していることを報告している(中下ら,2021).養護教諭は,学校保健活動の中核的な役割を果たしており(文部科学省中央教育審議会答申,2008),児童生徒への健康支援について責務を有している.養護教諭の活動過程は児童生徒がその主体であり,教育活動として展開され,児童生徒の実態や地域の実情を踏まえて,各学校の創意工夫のもとに展開している.また,養護教諭の活動過程の第1段階における健康実態の把握・健康問題の発見では,養護教諭の「気づき」が初期の支援プロセスにおける重要な要素として位置づけられている(岡田ら,2021).

そこで,本研究は,外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けた個別アプローチに着目し,養護教諭の対象者や健康課題に対する認識を含めた支援プロセスについて明らかにすることを目的とした.

本研究は,多文化共生という多様な価値観を受容しながら共に生きようとする視点に立った,学校における健康支援や教育環境の整備の方向性に関する視座を提供するものと考える.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインとした.

2. 対象

A県内で,外国人在住者の多い県東部に位置するB市およびC町の公立小中学校の養護教諭10人(養護教諭1人につき1から3支援事例)とした.A県は都道府県別の外国人人口及び人口比率によると64,869人,2.2%であり,11位であった(法務省,2022).一方,総人口に占める外国人割合では,A県C町の占める割合は18.4%であり,全国3位であった(総務省,2020).A県C町は大手の工場がある地域であり,1990年代から来日が特に増加し,永住者や定住者が多い.このことから関東圏内で調査が可能という選定方針に合ったA県C町,並びにC町に隣接し外国人割合の高いB市を選定した.B市C町の教育委員会に依頼文を送付し,研究協力の同意を求めた.

3. データ収集方法

インタビューガイドを用いた半構造化面接によるインタビュー調査を行った.B市及びC市それぞれの教育委員会に,外国人比率が上位にある公立小中学校で,3年以上勤務経験のある養護教諭の選出を依頼した(Judith & Susan, 1986/2002).対象養護教諭の面接時間は個別で30分から60分とし,プライバシーが守れる個室で実施した.インタビュー内容は承諾を得てICレコーダーに録音した.

4. データ収集期間

データ収集期間は,2020年8月から2021年2月までであった.

5. データ収集内容

外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けて個別に継続して指導を行った支援事例のうち印象的な支援事例について聞き取りを行った.養護教諭の属性として年齢,性別,養護教諭経験年数を聴取した.インタビューガイドでは,支援事例について①支援のきっかけと経過,②支援上の困難点や支援上工夫した点,③連携した人々,④支援の効果,⑤国や社会体制,文化,言語,価値観等について思うこと,⑥支援体制について思うこととした.

6. 分析方法

分析は修正版グラウンテッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTAとする)(木下,2013, 2014)を用いた.M-GTAはヒューマンサービス領域で問題となっている事象で,解決や改善に向けてのプロセス的特性を持った研究に適している(木下,2013).本研究は,養護教諭の児童生徒への学校生活上での支援であり,そのプロセスを明らかにすることが目的であるため,研究方法として適している.分析焦点者を「外国人の親をもつ児童生徒に支援している養護教諭」とし,分析テーマを「養護教諭が行う外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けた支援プロセス」と設定した.

分析の手順として逐語録から,分析焦点者の視点で分析テーマに関する概念を生成した.概念生成は,支援に関連した内容を構成する文脈を損なわないようにヴァリエーションを選び,分析ワークシートを立ち上げた(木下,2013).1つの概念に対して,1つの分析ワークシートを立ち上げ,概念,定義,ヴァリエーション(具体例),理論メモの項目で構成した.同様に2つ目以降の分析シートを立ち上げ,概念間の関係についても比較検討を行った.概念の導出が終了した後,概念間の類似性や関係性を比較検討して,カテゴリを生成し,相互の関係性,総合性を検討して,理論的飽和状態と判断した.分析の確かさと解釈の適切さを確保するために,質的研究に精通した研究者2名にスーパーバイズを受けながら,共同研究者間で複数回検討し修正を行った.

7. 倫理的配慮

B市,C町の教育委員会に研究の趣旨,調査内容,プライバシーの保護等,個人情報の保護について明記した依頼文を郵送し同意を得た.そのうえで対象となった学校の校長,養護教諭に依頼文を郵送し電話にて同意を得た.調査当日には調査実施前に同意説明書を用いて説明を口頭で行い,同意書によって研究参加の同意を得た.調査への参加は任意で自由意思であり,撤回の自由があることを紙面及び口頭で説明した.学校名,養護教諭名,並びに児童生徒名,保護者名は特定できないように匿名化され録音したデータを基に分析を行った.調査で得られた逐語録は盗難,紛失等のないよう研究室内の施錠できる保管庫に10年間厳重に保管するものとした.本研究は群馬パース大学研究倫理審査委員会の承認(PAZ20-11)を得て実施した.

8. 用語の定義

「外国人の親をもつ児童生徒」とは,国籍にかかわらず,父親,母親の両方またはどちらかが外国出身者である親をもつ小学校1年生から中学校3年生と捉えた.

「児童生徒の健康課題」とはヘルスプロモーションの立場から家庭,学校,地域社会における子どもたちの心身の健康づくりを推進することに基づいた,子どもの健康,生活,安全面における問題と捉えた(日本学術会議,2010).

Ⅲ. 結果

1. 研究対象者の概要

対象養護教諭10人の平均年齢は41.8歳(標準偏差12.7歳),養護教諭経験年数は18.4年(標準偏差11.7歳)であった(表1).対象の勤務校は小学校6校,中学校4校であり,中規模校(300から499人/校)7校,大規模校(500以上/校)3校で,養護教諭は全員単数配置であった.学校における外国人児童生徒数は1校当たり20から200人であった.インタビュー時間の平均は,53分/人であった.支援事例は20事例(2から3事例/人)で,男子9事例,女子11事例,小学校14事例,中学校6事例であった.親の母国は南米13事例,アジア5事例,南太平洋2事例であり,健康課題として頻回の体調不良(6事例),頻回のけが(2事例),健康診断の困難さ(2事例),けいれん発作(2事例),食物アレルギー(2事例),虐待の疑い,高度肥満,心疾患,1型糖尿病,給食拒否,アタマジラミ(各1事例)があげられた.

表1 対象養護教諭及び支援事例の概要

対象養護教諭 支援事例の概要
支援事例 学校種・学年・性別 健康課題 母国
a 1 小5年・男子 孤立,暴力,虐待の疑い 南米
2 小2年・女子 アタマジラミ 南太平洋
b 3 小6年・男子 高度肥満,登校しぶり 南米
4 小6年・女子 頻回の発熱と頭痛 南米
5 小5年・男子 健康診断実施の困難さ 東南アジア
c 6 中2年・女子 心疾患 南米
7 小2年・女子 けいれん発作 南米
d 8 小1年・男子 健康診断実施の困難さ 南太平洋
9 小5年・女子 外傷 南米
e 10 小5年・男子 I型糖尿病 南米
11 小3年・女子 けいれん発作 東南アジア
f 12 中1年・女子 体調不良 中央アジア
13 中2年・男子 食物アレルギー 東南アジア
g 14 中1年・女子 頻回の体調不良 南米
h 15 中2年・男子 頻回の体調不良 南米
16 中1年・男子 頻回の頭痛・腹痛 南米
i 17 小1年・男子 体調不良,嘔吐 東南アジア
18 小6年・女子 食物アレルギー 南米
j 19 小1年・女子 頻回の外傷 南米
20 小4年・女子 給食拒否 南米
10名 20事例 小学生14事例 急性期疾患13事例 南米13事例
中学生6事例 慢性期疾患3事例 東南アジア4事例
男子9事例 その他4事例 中央アジア1事例
女子11事例 南太平洋1事例

2. 分析結果

23概念で,5つのカテゴリ,2つのコアカテゴリが生成された.ヴァリエーションを『斜文字』,概念を「 」,カテゴリを〈 〉,コアカテゴリを【 】で示す(図1).

図1  外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けた養護教諭による支援プロセス

ストリーライン

養護教諭の支援プロセスは,児童生徒の「健康課題の発生」から始まり,養護教諭は【言葉と文化の違いを補って健康課題を明確化する】という段階に変化し,【国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援する】段階を通して,子どもの「健康管理を評価する」段階に変化するものであった(図1).

【言葉と文化の違いを補って健康課題を明確化する】段階では,養護教諭は「言葉の壁のためにアセスメントが難し」く,電話等においても「保護者と連絡が取れず子供の対応に戸惑」い,〈言葉と文化の違いで健康課題への対応が速やかにできない〉と認識していた.そして,「まず子供に身近な担任に対応を相談」し,「子供と保護者の家庭での生活を知り得ている通訳者」や「子供の思いを汲み取れる日本語教員」を介して対応していた.また,必要に応じて,管理職,栄養教諭等「アドバイスを受けながら担当する関係者とともに対応する」,「子供の受診で保護者が困らないよう学校医に対応する」という児童生徒や保護者との〈言葉と文化の違いを補い合うべく学校内で連携〉し支援していた.

次に【国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援する】段階では,「言葉の壁に工夫を凝らして子供と意思疎通を図」り,「傷病の予防や管理について子供に繰り返し教え」,〈言葉の壁を補って健康管理の方法を子供に指導〉していた.また保護者の教育観や生活感覚の違いに戸惑うことや「保護者に子供の傷病のニュアンスが伝わりにくい」と認識しながらも「翻訳機を用いて保護者に子供の健康状態を伝え」,「母国との生活文化との違いを考慮」し,「傷病の管理方法を保護者に粘り強く伝え」ていた.さらに「結核の高まん延国からの子供に地域の健康管理システムを活用」し,保健所や教育委員会との連携によって早期に結核健診を実施し,定期健康診断等「養護教諭同士のネットワークによって情報共有」を行い,「母国語を用いた子供の通訳」や「外国人のネットワーク」による〈学校外の母国にかかわるネットワークを活用して支援〉していた.一方で,養護教諭は「外国人家族への支援体制に課題を感じ」ていた.

3. 外国人の親をもつ児童生徒の健康課題解決に向けた養護教諭の支援プロセスにおける分析結果

1) 【言葉と文化の違いを補って健康課題を明確化する】

このコアカテゴリは,2つのカテゴリから構成された.

〈言葉と文化の違いで健康課題への対応が速やかに対応できない〉は2つの概念で構成された.子供から傷病の様子を聞きたい時に,細かいところまで話が聞けないことに言葉の壁のためにアセスメントが難しいと認識すること,また仕事中で勤務先に連絡しても保護者と連絡が取れず,(保健室での)子供の対応に戸惑うことであった.

「言葉の壁のためにアセスメントが難しい」

『一番難しいのは言っている言葉が伝わってないのではないかということです.日本語がいまいち通じていないので「どこをけがしたの?」と聞いても「ううん」と答えることが多くて』

〈言葉と文化の違いを補い合うべく学校内で連携する〉は5つの概念で構成された.担任からの児童生徒や保護者の情報収集,連絡等,子どもの状況に応じてすぐに相談でき,最も協力的に関われることから,まず子供に身近な担任に対応を相談することであった.健康診断や疾病に関して保護者とのコンタクトが必要な場合には家庭での生活を知り得ている通訳者を介して正確に聞き取り伝えてもらったり,子供の不安を軽減できるように子供の思いを汲み取れる日本語教員を介して日本語学級で傷病後の様子をみてもらったり,また保護者へサポートを依頼したりすることであった.食物アレルギーのある児童生徒健康管理では学校栄養士等,アドバイスを受けながら担当する関係者とともに対応する等,健康課題によって校内の担当者と連携して支援することであった.

「アドバイスを受けながら担当する関係者とともに対応する」

『(疾病管理指導表から)個別プラン日本学校保健会,2020を作成して保護者の方,管理職,担任,通訳の方ですね.給食主任,養護教諭,あと本人もいないとわからないので呼んで面談しました

また,傷病によって保護者の状況を踏まえ,子供の受診で保護者が困らないよう学校医に受診をスムースにつなげたり,学校医から専門医の情報を得たりすることであった.

「子供の受診で保護者が困らないよう学校医に対応する」

『かかりつけ(の病院)がないというので,病院に行かなかったら困ると思って,学校医に(アタマジラミについて)連絡をしたら診てくれるというので,学校医に行くように父親に勧めて地図と連絡先を伝え行ってもらいました』

よって,【言葉と文化の違いを補って健康課題を明確化する】は保護者や通訳者,日本語教員,教員,学校医等,学校内の関係者と連携することによって,発生した児童生徒の健康課題の症状や原因,解決の方向性等を導くことであった.

2) 【国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援する】

このコアカテゴリは,3つのカテゴリ,2つの概念から構成された.

「国は違っても子供は同じ」は養護教諭として子どもと分け隔てなくかかわることであった.

『○市内の先生方は外国籍の子の対応に慣れています.理解度もとても高いので,家庭の状況も見ながら,外国籍だからって特別扱いしないです』

〈言葉の壁を補って健康管理の方法を子供に指導する〉は2つの概念で構成された.精神的に安定できるように話をする等,言葉の壁に工夫を凝らして子供との意思疎通を図ることであった.

「言葉の壁に工夫を凝らして子供との意思疎通を図る」

『日本語でゆっくり話をして,簡単な言葉で「洗って」とか.日本語教室に通っていて簡単な言葉であれば理解はできる子なので,砕いた言葉で表現してます』

『文字を並べて視覚的に見せるっていう.図や数字を用いることで理解はしやすくなったと思います』

また,数字や図等による視覚や簡単な単語で傷病の予防や管理について子供に繰り返し教えることであった.

「傷病の予防や管理について子供に繰り返し教える」

『(食物アレルギーでは)「(給食の)メニューを見て,材料を見て,家でしるしを(サインペンで)してくるんだよ」と細かく説明しました』

カテゴリ〈生活文化の違いを踏まえ健康管理の方法を保護者に伝える〉は6つの概念で構成された.文化の違いによって保護者に傷病の危機感へのニュアンスが伝わりにくいことであった.保護者が早退や送迎を嫌がったり,緊急時の連絡先の変更を伝えてくれなかったりする等により,保護者の教育観の違いに戸惑う,保護者との生活感覚の違いに戸惑うことであった.様々な母国語に対応すべく翻訳機や自治体で翻訳した通知,資料等,翻訳物を用いて保護者に子供の健康状態を伝えることであった.

「翻訳物を用いて保護者に子供の健康状態を伝える」

『貧血検査の申込書とか,心臓検診のアンケートとか.その家の言葉(母国語)を選択して.内科検診の結果のお知らせも,表(紙面)は日本語で,裏(紙面)は○○語で書いて.親御さんに少しでも子どもの健康状態がわかるように工夫している』

また,傷病の健康管理の方法を保護者に粘り強く伝えることであった.

「傷病の管理方法を保護者に粘り強く伝える」

『I型糖尿病の児童がインスリン忘れてきたりするんですよ.そういう時は,保護者に電話して持って来てもらう.宿泊の前には「お父さんこれそろえてね」とお願いする.(子供の)具合が悪くて(学校に)お迎えに来たときに「これが足んないよ」「これ忘れることがあるんだよ」と』

『寝坊とか多くて,朝起きないから,ご飯食べる時間がないから(てんかん)薬を飲んでこなかったわけですよ.そういうところをお母さんに伝える』.

疾病が悪化しないよう,生活習慣等の改善に向けて母国との生活文化の違いを考慮して対応することであった.

「母国との生活文化の違いを考慮して対応する」

『アタマジラミをきっかけに,習慣なんだろうけれども.お母さんもお姉ちゃんも髪の毛を1週間に1回洗うくらいだったので,「暑いし汗もかくから,洗うとさっぱりするし汚れも落ちるよ」と話しました』

〈学校外の母国にかかわるネットワークを活用して支援する〉は4つの概念で構成された.母国同士の在日外国人のネットワークや母国語を用いた子供の通訳を活用することで保護者にとって必要な対応ができるようにすることであった.

「母国語を用いた子供の通訳を活用する」

『どんなふうにけがして,どんな痛みがあるのか,通訳してくれた子がいたことで私にも伝わって』

また,保健所,教育委員会が一体となって実施する結核の高まん延国からの子供に地域の健康管理システムを活用すること,養護教諭同士のネットワークによって情報共有を行うことであった.

「結核の高まん延国からの子供に地域の健康管理システムを活用する」

『結核検診では,母国が高まん延国の子どもは精密検査の対象になるので,当日は教育委員会でバスを運転してくれて,町内の小中学校を回って.養護教諭と通訳の教員も一緒に着いていくんです.保健所で保健師から今日の体調とか聞かれるので,通訳の教員に通訳してもらってレントゲンを撮る』

さらに,保護者に受診や書類提出などの依頼が多い等,保護者の困難さを推測し,家族の支えとなる外国人家族への支援体制が不十分であることを課題としていることであった.

よって,【国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援する】は言葉の壁や生活文化の違いに工夫を凝らして,子どもや保護者に傷病の健康管理の方法を指導することであり,母国にかかわる学校外のネットワークを活用した支援をすることで健康課題の改善,解決に導くことであった.

「健康管理を評価する」では,児童と家族が毎日洗髪するようになってアタマジラミが完治する,けいれん発作のある児童が医療機関に定期的に受診し忘れずに服薬する,体調不良で頻回に来室していた児童生徒の来室がほとんどなくなる等,児童生徒の健康状態を把握し,健康管理の状況を評価することであった.

『(食物アレルギーで)今は自宅でその献立に食べられないものに丸を付けて,担任と給食主任が自宅から上がってきたものを再チェックして,除去することで大きく唇が腫れるとかなくなったんです』.

Ⅳ. 考察

1. 養護教諭の支援プロセス

本研究は,外国人の親をもつ児童生徒(以下,児童生徒とした.)の健康課題解決に向けた養護教諭の支援プロセスを説明することである.その支援プロセスは,健康課題発生に対し,言葉と文化の違いで健康課題への対応が速やかにできないという段階から,学校内で連携し言葉や文化の違いを補ってアセスメントする(岡田ら,2012, 2014)ことで健康課題を明確化する段階に変化し,学校外のネットワークによる支援を活用しつつ,傷病の予防や管理について保護者を巻き込み,児童生徒に指導する,児童生徒の健康管理を評価する段階へと変化していくことが明らかになった.児童生徒が傷病への自己管理ができるよう,より望ましい健康行動へと変容していくためには,児童生徒への指導と併せて,保護者への支援が必要であり,言葉や文化の違いを配慮した学校内外の関係者との連携した支援が必要不可欠といえる.また,学校内外からの支援を受けて児童生徒の意識や行動,態度等がより望ましいものへと反応,変化していく(Kiryu & Sato, 2019)ことによって,養護教諭の認識や支援も段階的に変化していったと推察される.

Sudo(2019)は健康行動に影響を与える主な要因が,日本と母親の母国双方の文化や習慣,子どもの健康状態をあげ,高橋ら(2010)は,日本と母国での文化習慣によって培われた医療を含めての常識・習慣とのギャップを埋めることをあげている.日本語が流暢でない場合には,保護者への通訳者や日本語教員による対応が傷病での受診の際に不安や不便さを軽減するには必要となる(Okamoto et al., 2022).本研究において養護教諭は,通訳者や日本語教員,母国にかかわるネットワークを介してアセスメントし,日本と母国との文化や習慣を認識し,補い合えるよう情報を収集している.また,疾病の管理方法について児童生徒と意思疎通を図って繰り返し指導し,保護者には生活文化の違いを考慮して粘り強く伝えることで健康課題の解決のための健康行動の変容を促していることが示された.学校保健安全法では,児童生徒等の心身の状況を把握し,健康上の問題があると認めるときには,遅滞なく,当該児童生徒に対して必要な指導を行うとともに,必要に応じ,その保護者に対して必要な助言を行うものとしている.このことから,本研究において児童生徒と保護者に対して必要な指導を行うためには,日本と母国との生活習慣や常識におけるギャップをどのように埋めて支援することが健康行動に変容を及ぼすのか,支援プロセスにおいて重要な要因となると考える.

養護教諭の活動過程は児童生徒がその主体であり,教育活動として展開され,PDCA(計画Plan-実施Do-評価Check-改善Action)サイクルで述べられることも多い.養護活動の質は実施の有無ではなく,どのように問題を捉え,判断し,どのように実践化し,どう健康行動が変容したかが重要となる(岡田ら,2021).計画Planでは健康課題の解決に向けてどのような健康行動に変容させたいのか,そのためにどのような力を身につけさせたいのか.実施Doでは児童生徒と保護者の状況から健康行動を引き出していくようにかかわり,評価Checkでは健康行動の変化から,次のステップへの意欲を高め今後の生活に活かしていくことが重要である.いずれの段階においても,日本と母国での生活文化,医療等を含めた常識・習慣とのギャップを埋め,健康状態を認識し,健康行動変容への意欲と実践力を引き出していくことが課題となる.野中・樋口(2010)は,在日外国人患者と看護師との関係構築プロセスにおいて患者と相互に歩み寄ることの重要性を述べている.つまり,養護教諭は学校内の通訳者,日本語教員,学校外の母国のネットワーク関係者等との信頼関係による支援が重要であり,児童生徒と保護者,支援者がともに歩み寄り,児童生徒,保護者の反応や変化に気づき,支援の適切性,妥当性を確かめつつ支援する姿勢が必要となると考える.

セルフケア理論は,オレム(Dorothea, 1991/1997)によって提唱され,セルフケアとは,自分にとって良好な状態を維持し高めるために自分で行う活動のすべてであり,患者の権利や意思決定の尊重を基盤とする優れた理論である.子どもの場合,おかれた状況(精神状態,家族背景,疾患の経過,発達段階等)を多側面からアセスメントし,子どものセルフケアを保護・促進していけるように親や看護者といった他者の存在が必要である.学童期,思春期は,自立的な方向に向かう時期で,親には子どもの自立的な生活を促進する役割が求められる(片田ら,2019).本研究において養護教諭は児童生徒の健康課題を明確化して,児童生徒のセルフケア能力を高めるべく児童生徒が必要な健康行動の変容に取り組むことができるように保護者を巻き込んで健康管理の方法について支援を行っている.つまり,児童生徒のセルフケア能力を高めるために母国の生活文化の背景を考慮した直接的または間接的な保護者への支援が必要であると考える.

学校における傷病に関して養護教諭は,医療機関に搬送するか否かの判断をするとともに,児童生徒の健康レベルと身体のどこに何が生じている可能性があるのか早期発見,早期対応する必要がある(岡田ら,2012, 2014).しかしながら,健康課題発生に対して児童生徒の場合,言葉の壁により速やかに訴えを把握し分析することが困難であり,児童生徒の言語のみならず,生活文化の違い等,日本語教員や通訳者,必要に応じて医療通訳者(高橋ら,2010)を含めて保護者と連携していくことが多様な健康課題に対応するためには必要である.また,結核の高まん延国からの児童生徒の結核検診は教育機関や保健機関,在日外国人のネットワーク等の関係機関等,児童生徒と保護者に対する学外の関係者,関係機関との連携が重要であり(文部科学省,2019),学校外の関係者と連携できる環境を整備して健康維持・増進につなげる必要がある.このような地域における児童生徒や家族の多様な価値観を受容する風土の醸成が健康課題解決に向けた支援の向上につながることと考える.

小島(2015)は,外国人患者への看護者としてのコミュニケーションと異文化への理解を示すことが重要としている.本研究において養護教諭は,「国は違っても子供は同じ」と捉え,言葉の壁や気持ちのあり様の違い等,在日外国人の特徴を認識しつつ,児童生徒と家族の状況を見ながら分け隔てなくかかわろうとしていることが示された.言語の壁や保護者の教育観や生活感覚の違いに戸惑うこと等の課題を抱えながらも,地域の歴史や伝統を受け継いできているからこその認識と捉えられる.つまり,養護教諭の「国は違っても子供は同じ」とするかかわりは,児童生徒の居場所づくりや日本の児童生徒との共生を目指した姿勢が伺える(末藤,2011佐々木,2018).

文化的謙虚さ(Cultural humility)とは医療者自身が多様な人々とのかかわりにおける自身の価値観や信念,行動等を認識し内省することを重視する概念であり,相互のエンパワーメント,パートナーシップ,尊重,最適なケアをもたらす生涯にわたるプロセスと定義している(Foronda et al., 2016).今後,益々多様化複雑化する児童生徒の健康課題解決に向けて,養護教諭は文化的謙虚さについて理解を深め,言葉の壁を補い,生活文化の違いを踏まえ児童生徒や保護者とかかわるなかで,自身の健康観や,教育観,価値観等を認識しつつ,保護者とパートナーシップの形成を図り,児童生徒への最適な支援とその力量を高めることが重要であると考える.

2. 看護への示唆

「児童の権利に関する条約」は1989年に第44回国連総会において採択され,1994年に日本は批准を行った(文部科学省,1998).この条約は世界的な観点から児童の人権の尊重,保護の促進を目指している.小児看護に携わる看護者(日本看護協会,2007)は子どもを権利の主体者として尊重し,最善の利益を保障するために看護者一人ひとりが子どもの存在を一人のかけがえのない人として尊重する姿勢が重要となる.児童生徒が自身の疾病や治療を理解し,より良い健康行動へと変容するためには発達段階や理解力に応じ,必要に応じて通訳者や日本語教員等との連携によって言語における支援の充実を図り適切な説明を行い,児童生徒の理解や納得を得ることが最善の利益を保障するうえで必要となると考える.

3. 研究の限界

本研究は,外国人が数10年に渡って在住しているA県の一部の地域に在籍している小中学校の養護教諭を対象としている.対象地域は保健,教育,行政機関等の教育支援の仕組みが構築されている経緯がある.小中学校においても通訳者や日本語教員が常勤であることも多く,学校内外の関係者からの支援を受けられやすい環境にある.通訳者や日本語教員は,教職員とも親和性が高い関係にあり,在日外国人の知識不足や医療の複雑性,生活文化の違い,人間関係から生じる困難に対し様々な工夫や努力で対処してきている可能性がある(田中・柳澤,2013).

また,養護教諭の健康支援は,養護教諭の力量や多文化共生への認識によって,児童生徒への支援内容や支援方法においても偏りがあることが否めない.支援事例は個別に継続して支援した事例について調査しており,支援の効果がすべての事例にみられたとはいえない.とりわけ,虐待の疑いや登校しぶりの支援事例では,保護者の状況が児童生徒の生活習慣や就学に影響し,母国と日本では教育に関する法律や制度が異なり,就学の義務がないことも影響して(武井ら,2022),支援上困難を要していた.また,外国で生まれ育った人(日本で生まれた在日2世ではない)や日本語能力等については,調査時点で検討していない.したがって,本研究の支援プロセスがすべての事例に適応できるとは言い難い.

Ⅴ. 結論

児童生徒の健康課題解決に向けた養護教諭による支援プロセスは「健康課題の発生」から始まり,言葉と文化の違いを補い健康課題を明確化することを通して,国は違っても子供は同じという認識のもとに保護者を巻き込み支援することによって「健康管理を評価する」段階に変化するものであった.

健康課題の解決に向け,学校内外の関係者や保護者と連携して言葉と文化の違いを補い合い配慮工夫して支援する必要性が示された.

付記:本論文の一部は日本学校保健学会第67回学術集会にて発表した.

謝辞:ご協力いただきました養護教諭の皆様,関係者の皆様にこころより感謝申し上げます.本研究は2020年度群馬パース大学特定研究費(特20-1)の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TNは研究の着想,デザイン,データ収集,分析の実施および原稿作成;IKは分析の実施,研究プロセス全体への助言;AUとKUは原稿作成への助言;YSは研究プロセス全体および原稿への示唆;すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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