抄録
この研究は, ストレスを伴う処置や検査を受ける患者を想定し, 約1時間30分の安静臥床を強いられる健康な女子学生にクラシック音楽を聴かせることが, ストレスの緩和に効果があるかどうかを, 心理学的指標 (STAI, POMS), 生理学的指標(心拍R-R変動), およびストレスの指標とされている生化学的指標 (血中アドレナリン濃度) を用いることによって, 検証, 評価することを目的として行った実験的研究である. 対象者は, 本研究の参加に同意したもので, 標準の聴力を有する平均年齢23.25±0.68歳の女子大学生及び女子大学院生20名であった. 前後にそれぞれ15分のインターバルを置き, 実験群 (N=10) は1時間の音楽を聞きながら安静臥床を, 対照群 (N=10) は音楽のない状態で安静臥床を強い, 実験群と対照群の各指標を比較した. 心理学的指標では, POMSの「抑うつ-落ち込み」項目,「疲労」項目,「混乱」項目において, ウィルコクソン符号付順位和検定で統計的有意差を認めた. 生化学的指標では, 血液中アドレナリン濃度に関して, 対応のあるt検定で統計的有意差を認めなかったが, 繰り返しのある二元配置分散分析で交互作用 (相殺作用) を認めた. その他の指標に関しては, 統計的有意差を認めなかった. この研究から, 心理学的指標および生化学的指標において, 対照群よりも実験群のストレス反応が有意に軽減したことを示す結果を得た. これらのことは, 臨床における患者のストレス緩和に対して, クラシック音楽の簡便な利用方法としての可能性を示唆するものである.