抄録
職場における健康情報の取得、利用、保護については、健康情報自体の機微性に加え、安全配慮義務との関係等、非常に多くの課題がある。また、医療技術、情報技術の進歩の結果、産業保健の現場に波及しうる新たな課題についても、関心を寄せていかなければならない。現状では、事業者が積極的に労働者の遺伝子検査情報を取得することは想定しがたいものの、遺伝情報の概念には、遺伝子検査の結果に加え、遺伝性疾患を示唆する所見や家族歴も含まれる可能性があり、これらの機微性の高い健康情報を職場で取り扱う場面も想定される。職場における遺伝情報に基づく差別、不利益取扱いの懸念や、逆に労働者の健康増進に資する活用を期待する向きもあり、多くの法的課題が存在している。本シンポジウムでは、健康情報の文脈で遺伝情報を取り上げ、その特有の課題とともに普遍的な課題への接続を考慮しつつ議論を進めることになった。そのため、近い将来に職場で現実的となりうる、遺伝性腫瘍に関する仮想事例を素材とし、情報の取り扱いと対応を中心に、行政、産業保健、法学、遺伝カウンセリング、倫理等の観点からの課題の整理を行い、発表と指定発言に続き総合討論が行われた。本シンポジウムを通して、各演者の専門性や立場から現況報告や問題点が指摘され、今後の課題が共有された。