2025年7月10日に開催された「AI時代の労働安全衛生(OHS)政策に関する国際オンライン会議」では、日本、欧州連合、英国、ドイツの政策担当者や支援者・研究者・実務家が、人工知能(AI)が職場の安全と健康にもたらすチャンスとリスク、そして規制上の課題について、情報交換し、討議した。主催は日本産業保健法学会(JAOHL)、共催は労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)であり、厚生労働科学研究費(25JA1004)の支援を得て実施した。各国の対応策や事例の報告、学際的ディスカッションを構成要素とした。
EU-OSHAは、欧州におけるデジタル化・AI活用の調査結果と事例を示した上で、安全性向上のチャンスに加え、業務強度の増大や自律性の喪失といった心理社会的リスク、関連するEU法制度の枠組みを示した。英国HSEは、各業種やリスク要因(機械、化学物質など)別のリスク管理の規制体系に、AI特有のリスク(予測誤り、データ偏り、ブラックボックス化、アップデート起因の性能変動等)を組み込むことによる、リスクに応じた「イノベーション促進的」アプローチ(規制の行きすぎを抑制するアプローチ)や、ホライズン・スキャニング(「何が起きつつあるか」を早期に察知し、規制・基準・運用を前倒しで整える作業)、標準化の進展を紹介した。ドイツのBAU BG(建設業労災保険組合)は、建設業における災害予防政策でのAIの実装例として、監督官向けワークリスト・アプリ(現場担当者に、「赴くべき現場と実施する手順」を優先度付きで示す業務アプリ)やAIを活用した点検記録システムを示し、スケーラビリティ(ユーザー数・データ量・対象現場・機能が増えても、性能や信頼性とコスト効率を保って運用を拡張できる性質)と人間中心設計の重要性を強調した。
日本からは、厚生労働省が機械安全規制へのAIや自律的なシステムの汲み入れや、労働基準監督行政におけるデジタル変革(AIの活用)の状況を報告した。JNIOSHは、破面解析、斜面崩壊予測、人間工学的リスク評価、災害報告書の自然言語処理などのAI応用研究を紹介した。さらに、企画責任者の三柴より、日本で実施した意識調査の結果として、AI親和性が高い者ほどリスク探知等におけるAIの信頼性を疑う傾向があることや、AIの透明性や説明責任を求める声が強いこと、リスクの捉え方に独自の文化的傾向が窺われること、AIの問題による災害が生じた場合に責任を負うべき者として、プログラム設計者、データ入力者、利用現場の管理者らが挙げられたこと等が示され、共同規制、国際標準の整合、リスク・コミュニケーション、そしてリスク創出者への責任配分といった法政策提案がなされた。
総括討議では、透明性、対応原則の現場での実効的執行、感情応答型AIが労働者心理に与える潜在的影響(認知の歪みの強化など)など新たな論点が取り上げられた。各国に共通して、リスクの質量に応じた「過度でない比例的な規制」と国際協調の組み合わせこそが、労働者のウェルビーイングを守りつつ、AIによるOHS成果の向上を実現する鍵であることが確認された。
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