産業保健法学会誌
Online ISSN : 2758-2574
Print ISSN : 2758-2566
2 巻, 1 号
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大会長講演
  • 黒木 宣夫
    2023 年 2 巻 1 号 p. 2-9
    発行日: 2023/06/28
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    精神疾患を伴う労働災害に対する労災補償状況は、毎年報告されているが、2021年度は2,346件(前年度比295件増)、実際に労災認定された件数も、2019年度509、2020年度608、2021年度629で認定率は24.7%~26.8%を呈しており、深刻な状況が続いている。「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が発出されたのは、1991年9月であり、それ以前は、「心因性精神障害の業務上認定に際する留意事項(労働省)」で運用されていた。「心因性精神障害の業務上認定に際する留意事項(労働省)」により労災認定された精神障害事例、ならびに労災認定の判断指針発出に至った背景を報告する。2011年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」が公表されたが、労災認定の判断指針に比べ、さらに心理的負荷が明確化された。判断指針、認定基準に関連する訴訟事例を紹介する。また、2019年12月現在、労働災害の認定基準について検討会が開催され、2020年5月(基発0529第1号)「パワーハラスメント」という出来事が「対人関係」から独立した出来事として新設(類型化)された。今後の労災認定の動向と課題について言及する。
特別講演
  • ―比較法的観点からみた評価と今後の課題―
    山本 陽大
    2023 年 2 巻 1 号 p. 10-22
    発行日: 2023/06/28
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    日本では、2020年3月の労災保険法改正により、副業・兼業を行う労働者が労働災害に遭った場合における保険給付の算定に当たり、全ての就業先から得られた賃金を合算して保険給付を行うこと(賃金合算)、および、副業・兼業を行う労働者が脳・心臓疾患や精神障害に罹患した場合に、全ての就労先における負荷を合算して労災認定を行うこと(負荷合算)が、それぞれ可能となった。本稿では、このような法改正の意義と今後の課題を、ドイツ・フランス・アメリカにおける労災保険制度との比較を通じて明らかにする。
教育講演2
メインシンポジウム テレワーク定着化にむけた健康管理・労務管理上の課題と法
シンポジウム1
  • 〜法務と医療実務の視点から〜
    神山 昭男, 小島 健一, 三柴 丈典, 菅 裕彦, 小山 文彦, 高野 知樹, 佐々木 達也
    2023 年 2 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    コロナ禍対策としてリモート勤務を実施している事業所が増加したが、メンタルヘルス対策の観点からはリモート勤務と出社勤務を組み合わせたハイブリッド勤務が望ましいとの見解が医師側から述べられた。また、メンタルヘルス不調者の中で、病気が理由で出社は困難だが、リモート勤務は可能である事例の復職方法をめぐって討議した。①当該事業所でリモート勤務を実施している場合には、まずリモート勤務から就業を再開することが選択肢となりうる、②リモート勤務が当該雇用契約における本来業務である場合に、リモート勤務への復職の適性評価と支援方法を構築することは有意義である、③さらに、リモート勤務で本来業務が遂行可能になる事例では、リモート勤務への復職が合理的配慮の点からも妥当である、など限定的ながらも肯定的な意見が多くを占めた。
  • ~産業精神保健の視点から~
    小山 文彦
    2023 年 2 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    コロナ禍における在宅勤務者には、“ワーク・ライフ・ミックス”ともいえる日常が訪れた。コミュニケーションの希薄化や生活リズムの破綻、長時間労働化などが、メンタルヘルスに影響する要因として問題視されてきた。また、メンタルヘルス不調による休業者がリモート勤務で復職する場合や、その疾病性に応じた在宅・リモート勤務適用の可否について判断する際には、事例性や疾病性などの視点を含む多軸的評価が必要であろう。
  • ~法務の立場から~
    佐々木 達也
    2023 年 2 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    本稿では、メンタルヘルス不調者のリモート勤務での復職に係る法的問題を検討した。裁判例の分析を通じて、労働者がリモート勤務での復職を申し出ている場合には、労使双方の事情を考慮して復職可能性を判断すべきであり、事業所規模や労働者が従事している職務、リモート勤務を導入していない場合には導入コストなどが復職の可否を判断する際の考慮要素となるとの結論に至った。また、リモート勤務での職務に見合った労働条件への調整も法的に可能であると考える。
シンポジウム2 精神障害者の雇用促進と法―合理的配慮を中心に―
  • 長谷川 珠子
    2023 年 2 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    2013年の障害者雇用促進法の改正により、障害者差別禁止と合理的配慮提供義務が導入された。改正促進法の施行に合わせ指針等が示されたものの、差別禁止や合理的配慮の法的な解釈は十分に定まっていない。そこで、本稿では、合理的配慮の提供義務規定等が法的にどのように解釈され、使用者、医師、支援者等がどのような対応を求められているのかを示すことを目的として、障害者に関する雇用分野の裁判例(懲戒処分、解雇、復職)を解説する。
  • 境 浩史
    2023 年 2 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    2021(令和3)年の厚生労働省の統計によると、民間企業の障害者雇用数は18年連続で過去最高を更新し着実に進展している。民間企業が障害者雇用促進法改正に積極的に対応した結果、障害者雇用数の増加につながっている。障害者雇用促進法が2013(平成25)年に改正され、民間企業においても合理的配慮が法的義務化された。合理的配慮は、当事者から提供者である企業への申し入れを基本に相互の合意形成により提供されるが、実際には当事者または企業の認識が十分でないために合意形成が成り立たないこともある。また、精神障害者への配慮には個別性が非常に高く、前例がそのまま適用するとは限らないなど課題が多くある。人事担当者の立場から、精神障害者の雇用促進と法―合理的配慮を中心に考察する。
  • 高野 知樹
    2023 年 2 巻 1 号 p. 79-82
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    精神科臨床医が合理的配慮を適正に認識できているかというと、そうではないのが現実ではないだろうか。主治医として(非合理的な)意見を述べると、時には「疾病利得」のように解釈され、かえって患者の職場での居心地を悪化させ、病状の再燃のリスクを高めてしまう場合もある。本人の適性を見極めて、能力をさらに発揮し生産性が高まる可能性を探る姿勢や意識が、これからの精神科臨床医に必要ではないかと考える。
  • 永野 仁美
    2023 年 2 巻 1 号 p. 83-88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    本稿は、精神障害者の雇用促進に関わる法制度について解説を行うものである。障害者雇用促進法における精神障害者の定義、雇用義務制度における精神障害者の位置づけ、精神障害者に対する合理的配慮の提供等について、基本事項を紹介する。
  • 田村 綾子
    2023 年 2 巻 1 号 p. 89-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    日本における精神障害者の就労支援は、職業リハビリテーションや障害者の就労支援事業など、主に訓練として実施されてきた。精神障害者が雇用の対象として認識されて以降の歴史は浅く、障害者差別解消法における合理的配慮に関する知見は集積の途上である。本稿では、精神障害者に対する合理的配慮のあり方について、権利擁護や生活支援を担う精神保健福祉士の立場から当事者の視点を交えて考察する(日本産業保健法学会第2回学術大会のシンポジウムでの発表内容に一部加筆した)。
シンポジウム3 職場における遺伝情報の取扱いと対応の実際~遺伝性腫瘍の仮想事例からの接近~
  • 丸山 総一郎
    2023 年 2 巻 1 号 p. 96-100
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    職場における健康情報の取得、利用、保護については、健康情報自体の機微性に加え、安全配慮義務との関係等、非常に多くの課題がある。また、医療技術、情報技術の進歩の結果、産業保健の現場に波及しうる新たな課題についても、関心を寄せていかなければならない。現状では、事業者が積極的に労働者の遺伝子検査情報を取得することは想定しがたいものの、遺伝情報の概念には、遺伝子検査の結果に加え、遺伝性疾患を示唆する所見や家族歴も含まれる可能性があり、これらの機微性の高い健康情報を職場で取り扱う場面も想定される。職場における遺伝情報に基づく差別、不利益取扱いの懸念や、逆に労働者の健康増進に資する活用を期待する向きもあり、多くの法的課題が存在している。本シンポジウムでは、健康情報の文脈で遺伝情報を取り上げ、その特有の課題とともに普遍的な課題への接続を考慮しつつ議論を進めることになった。そのため、近い将来に職場で現実的となりうる、遺伝性腫瘍に関する仮想事例を素材とし、情報の取り扱いと対応を中心に、行政、産業保健、法学、遺伝カウンセリング、倫理等の観点からの課題の整理を行い、発表と指定発言に続き総合討論が行われた。本シンポジウムを通して、各演者の専門性や立場から現況報告や問題点が指摘され、今後の課題が共有された。
  • 泉 陽子
    2023 年 2 巻 1 号 p. 101-107
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    ゲノム科学の進歩を背景に、個別化医療の研究・開発から実装が活発である。科学の発展の恩恵享受と個人の権利保護の両立には、社会の各分野において遺伝情報取扱のルール形成が必要となり、職域についてもゲノム科学、産業保健、法学の学際的な検討を要する。現状認識の共有と、遺伝性腫瘍素因を有する労働者に関する仮想事例選定の背景を示す。
  • 立道 昌幸
    2023 年 2 巻 1 号 p. 108-111
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    職場における遺伝情報の取り扱いについて、産業医の実務レベルの視点から検討した。現時点では、遺伝情報すなわち「○○遺伝子に変異があり生涯に○%で疾病罹患する」という情報が職場に伝えられた場合、職場を構成する人物間で認知・理解度がさまざまであり、最悪偏見差別の対象となる。それ故に遺伝子情報の問題は、遺伝専門家との連携に基づいた産業医による「情報の加工」すなわち「翻訳作業」が不可欠であり、その翻訳結果が職場にて「納得感」が得られるかどうかに帰着すると考えられた。
  • 菰口 高志
    2023 年 2 巻 1 号 p. 112-120
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    遺伝情報の解析に関する技術革新と遺伝子検査の普及に伴い、近い将来、遺伝情報の取扱いが職場で問題になることが想定される。本稿は、遺伝性腫瘍の仮想事例を題材に、(1)個人情報保護法及び労働法の視点から、遺伝情報の取得と社内共有・使用に関する法的ルールと実務的視座を確認するとともに、(2)遺伝情報に基づく安全配慮義務の特徴、(3)遺伝情報を考慮した人事上の措置の限界について、試論を提示するものである。
  • 大根田 絹子
    2023 年 2 巻 1 号 p. 121-125
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer;HBOC)は、BRCA1 または BRCA2 遺伝子の病的バリアントが原因で、乳がん、卵巣がんなどに罹患しやすくなる疾患である。東北メディカル・メガバンク計画では、病的バリアントを保有しているコホート参加者に個人の遺伝情報を伝えて医療機関に紹介し、個別化医療を推進する先駆的な取り組みを行っている。
  • ―社会的・倫理的観点から―
    李 怡然
    2023 年 2 巻 1 号 p. 126-130
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    個人の遺伝情報に基づく取扱いは特に保険や雇用領域での懸念が大きく、例えば米国では遺伝情報差別禁止法(GINA)が成立し、遺伝性腫瘍の未発症者が解雇されたことを不当だとした告訴例がある。日本では法規制がない中、がん患者や家族らからは不利益を防ぐ法律の要望も強く、基本理念を盛り込んだ立法化を後押しする動きもある。諸外国のアプローチの限界や課題点も踏まえながら、取るべき方策を具体的に検討すべき時にある。
シンポジウム4 新興感染症対策と法
シンポジウム5 建設アスベスト訴訟を振り返る
社労士会連携シンポジウム 健康で安心して働ける職場をつくる就業規則
  • 石倉 正仁, 矢内 美雪, 森本 英樹, 高野 美代恵, 小島 健一
    2023 年 2 巻 1 号 p. 179-186
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    人的資源や、人的資本という考え方が広まる中、従業員を労働力として捉えるだけではなく企業を構成する貴重な経営資源として捉えることが重要になってきている。従業員を人的資本として、投資の対象となるものとして鑑みたとき、対話を重視した従業員のウェルビーイングの実現を目指す労務管理が必要不可欠となる。そのような観点から、今回の社労士会連携シンポジウムでは、「健康で安心して働ける職場をつくる就業規則」をテーマに議論を行った。
連携学会シンポジウム2(日本産業ストレス学会)
  • 大塚 泰正, 吉田 肇
    2023 年 2 巻 1 号 p. 188-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    本シンポジウムでは裁判所が過重負荷ないし違法と認定した/しなかったストレス要因のうちcontroversial なもの(議論の余地があるもの)をピックアップし、多職種でその内容について討議し、問題解決のための方策について論じるシリーズの第2回である。今回は、国・三田労基署長(日本電気)事件(東京高等裁判所 令和元年(行コ)312号令和2年10月21日)を取り上げ、精神障害に関する認定基準と裁判所による因果関係の判断、および、精神科医および産業医の立場から、発表が行われた。
  • ~国・三田労基署長(日本電気)事件 東京高裁令和2年10月21日判決(確定)~
    吉田 肇
    2023 年 2 巻 1 号 p. 194-198
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    現在「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付け基発1226第1号)の改正が検討されているが、本件判決は検討作業において論点となっている対象疾病の増悪事案について、「認定基準」を修正して業務起因性を認めた高裁判決である。「特別の出来事」がない場合であっても業務起因性を認めた理由、その射程について検討するとともに、産業保健の視点からも検討する。
連携学会シンポジウム3(日本職業・災害医学会)両立支援と法
模擬裁判
  • 倉重 公太朗, 黒澤 一, 森口 次郎, 向井 蘭, 江口 尚, 岡田 俊宏, 鎌田 直樹
    2023 年 2 巻 1 号 p. 213-220
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    この模擬裁判のセッションでは、オンライン面談の是非、会社及び対応の妥当性、労働者自身のリハビリ勤務に対する非協力などにつき、労働者側弁護士、主治医、会社側弁護士、産業医、総括コメンテーター(産業医)それぞれの立場から討議がなされた。議論を通じ、法学と医学それぞれの立場の違いから、事案に対する見方や考え方の違いがあることが浮かび上がり、また「より良い産業保健対応」という目的の観点からは、立場の相違なく、むしろ普段の実務においても、法律職と医療職がより協同することが「より良い産業保健対応」につながるという実感を共有し得るセッションとなった。
判例紹介/判例研究
  • 林 剛司
    2023 年 2 巻 1 号 p. 222-234
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    1審被告Y1社に主任研究員として雇用されている1審原告Xが、Y1社における“月100時間超の残業が年4回に及ぶ過重労働”の後にうつ病になったところ、平成26年1月に労災認定を受けた後、XがY1社に安全配慮義務違反があると主張して、損害賠償を求めるとともに、Y1社の労務管理の不備およびX の直属の上司であるY2の嫌がらせ等が不法行為に当たるとして、慰謝料を求めた事案である。1審では、Xの疾病の業務起因性を認め、Y1社らの不法行為については、不当な減給と退職強要の事実を認め、そのうちY1社らが安全配慮義務違反に問われるのは、退職を迫った点のみであるとした北海道二十一世紀総合研究所ほか事件(札幌高裁 令元.12.19判決)を取り上げ、解説する。
労働行政の動向
  • 樋口 政純
    2023 年 2 巻 1 号 p. 236-244
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー
    中小事業者等も含め、事業場の規模、雇用形態や年齢等によらず、どのような働き方においても、労働者の安全と健康が確保されていることを前提として、多様な形態で働く一人一人が潜在力を十分に発揮できる社会を実現する必要がある。2023年度を初年度として、5年間にわたり国、事業者、労働者等の関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めた「第14次労働災害防止計画」が策定された。本稿では、本計画の概要について紹介する。
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