抄録
発達障害が疑われる従業員に対する対応については、産業保健の観点からは、主治医には情報収集における限界があり、産業医との情報共有、連携が重要であること、産業医には、疾病性の判断を就業上の合理的配慮に生かしながら労働者を仕事に適合させるべく、対話を促進し仲介者的な機能を果たすことが求められる。また、試し出勤の実施も有用である。法律的な観点からは、本判決は、休職事由ではない発達障害が疑われる症状を理由に自然退職とすることは解雇権濫用法理の潜脱に当たるとしているが、休職制度の趣旨等を踏まえれば、本件は(復職後)解雇権濫用法理が適用される能力不足に基づく解雇、行為態様に基づく解雇として対応すべきと思われる。但し、本件のように疾病と背景にある特性の区別が容易ではない事例では、復職要件に関する就業規則の規定のあり方が検討されてよいとする意見もあり、今後の検討を要する。