産業保健法学会誌
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最新号
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大会長講演
  • ~多様化する健康課題と産業保健の課題をどう解決するか現場から考える~
    吉田 肇
    2025 年4 巻1 号 p. 2-10
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    現在、産業保健が抱える課題は、多様化し複雑化しているが( 例えば、メンタルヘルス不調者の増加、労働力人口の高齢化、女性の就業率が増加等々)、中小企業における産業保健の取組みは極めて不十分な現状である。現状を変えるために、現場の医療職、法律職は、まずは自らできるところから始めたい(例えば、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策、職場環境改善へのコミット、障害と仕事の両立支援及び合理的配慮と労務管理の切り分け、長時間労働による健康障害防止)。その際、地産保等、既存の組織のサービスをより活用するとともに、当学会のネットワークも活用したい。また、担い手を確保するために、産業医、保健師等の役割分担・位置づけの見直し(リソースの再分配)も、検討する必要がある。
教育講演
  • 佐々木 孝治
    2025 年4 巻1 号 p. 11-16
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    労働者の健康の保持増進を図るため、労働を取り巻く環境の変化を捉え、産業保健の体制や仕組みを踏まえ、適確に対応していく必要がある。環境の変化に伴い、産業保健に係る課題が複雑化していく中、関係者間の役割分担が必要となる。ここでは、最近のトピックスとして、メンタルヘルス対策、治療と仕事の両立支援、化学物質管理、一般健康診断の見直し等を採り上げる。今後も産業保健に求められる役割や期待は大きい。
模擬裁判
  • 倉重 公太朗, 水谷 明男, 川村 孝, 江夏 大輝, 宋 裕姫, 町田 悠生子, 岡本 昭夫
    2025 年4 巻1 号 p. 18-25
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    本模擬裁判は、発達障害が疑われて適応障害に至った従業員に対して発せられた会社からの休職命令とそれに対する従業員からの復職要求の取扱いを検討した事例である。「休職事由は消滅したか」「労働者の回復努力や会社側の解雇回避努力が十分であったか」などについて、労働者側及び会社側の弁護士や医師らが各々の立場から議論した。今回の議論を通じて、「白黒をつけざるを得ない」紛争や裁判に至る前に産業保健法学の分野でできることが多くあり、そのためには、労務の専門家や産業保健の専門職との連携、さらには多職種間の協力が不可欠であることが再確認された。
セミナー
メインシンポジウム 中小企業の産業保健と法~現状と展望・解決策の模索~
  • ~現状と展望・解決策の模索~
    吉田 肇, 錦戸 典子
    2025 年4 巻1 号 p. 35-39
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    現在、職場ではメンタルヘルス、高齢労働者の増加等、多様な健康課題が生じているが、中小企業においては、産業保健活動が低調な現状にある。その現状を解決するための方策として、産保センター、地産保等の既存の制度の一層の利用をうながす、更に団体経由産業保健活動推進助成金制度を活用し、地域のかかりつけ医が地域の小規模事業場を支援する、産業医や産業保健看護職の連携を強化する、企業の講習指示制度を強化する、受注者の人員体制や安全衛生への取組みを評価する認証制度を導入する等様々なアイデアが提案された。厚労省は、第14次労働災害防止計画の中でも小規模事業場対策を位置づけて取り組んでいるが、上記提案も参考にしながら、着実に取組みを進めることが求められる。
  • ~労働衛生行政の立場から~
    大村 倫久
    2025 年4 巻1 号 p. 40-44
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    我が国では、少子高齢化が加速して、人口が減少するという推計がある。また、働き方の見直しが進められている。今後、社会・経済を維持する上で、事業場では、これまで以上に、職場における労働者の安全と健康を確保するための取組みを強化していくことが求められている。厚生労働省は、現在、労働安全衛生法に基づき、労働者の健康確保対策を積極的に推進している。
  • -より現実的な対応に向けて-
    神村 裕子
    2025 年4 巻1 号 p. 45-49
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    労働者数50人未満の小規模事業場では全労働者の約6割が属するにもかかわらず産業保健体制が不十分であり外部からの支援は必須である。人口減少に直面する地方部では産業医など専門人材も不足している中で、産業保健総合支援センターや地域産業保健センターがその地域で活動する多様な人材・組織をつなぐ拠点となり、地域の実情に沿った展開をしようとしている。
  • ~法律学の立場から~
    三柴 丈典
    2025 年4 巻1 号 p. 50-54
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    中小企業では、労災発生率が高いので、本来、規制を強化すべきだが、様々な資源が乏しいので、むしろ規制は緩和されてきた。労災保険特別会計を用いた技術的、財政的支援などが講じられてきたが、あまり奏功していない。経験豊かな労災防止指導員による指導助言制度も、安全衛生に積極的に取り組む企業の税金を優遇する制度も奏功せず、廃止された。企業の積極的な取り組み状況を行政が公表するあんぜんプロジェクトも、十分な数の参加企業を獲得できていない。よって、考えられる対策として、第1に、労災や健康障害を発生させた企業の安全衛生担当者への講習指示制度の強化拡充、第2に、仕事の注文者に受注者の人員体制や安全衛生への取り組みを評価させる仕組みと、それを支援するための認証制度の導入、第3に、AI による安全衛生情報の提供システムの整備、第4に、ベンチャー事業に対しては、ヒト、カネ、事務所、取引先などの経営資源づくりを支援すると共に、健康管理や安全衛生管理を行わせる施策などが挙げられる。いずれにせよ、中小企業では、経営の安定が安全衛生に直結するので、経営支援と安全衛生政策をセットで進める必要がある。
  • ~産業保健師の立場から~
    錦戸 典子
    2025 年4 巻1 号 p. 55-59
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    産業保健師としての実践を経て、中小企業の産業保健の推進方策を研究する立場から、専属産業医のいない中小企業でこそ、多職種チーム連携が重要と考えている。中でも、産業保健看護職は企業や従業員に身近な支援者であり、心身両面にわたる支援の幅広さと産業医を初めとする多職種をつなぐコーディネーション機能を持つことから、産業保健看護職を最前線に置いた新たな支援モデルの構築・推進と社会基盤づくりが喫緊の課題と考えられる。
シンポジウム1 大都市と地方都市/大企業と中小企業における労働環境の格差と産業保健の課題
シンポジウム2 働き方改革:産業医・産業保健機能の強化の現状と課題
シンポジウム3 これからの労働時間法制のあり方と健康確保―労働のオンとオフの境界線
シンポジウム4
シンポジウム5
  • 佐藤 乃理子, 日比 友美子, 後藤 みずえ, 増田 陳彦, 渡邊 徹, 江口 尚
    2025 年4 巻1 号 p. 114-117
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    産業保健法学会第4回学術大会で行われたシンポジウム「テレワークの産業保健法上の課題」についてまとめた。今回、人事、産業医、産業保健師、弁護士がシンポジストとして登壇し、それぞれが考えるテレワークを推進する上での課題を提起した。また、後半部分は、具体的事例を提示し、会場も交え、対応策・課題について検討した。今回のシンポジウムは「新しい働き方」を考える上で、非常に有意義な機会であったと考える。
シンポジウム6
  • 秋山 陽子, 竹野 佑喜, 宇佐川 邦子, 佐々木 毅, 鎌田 耕一
    2025 年4 巻1 号 p. 119-123
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    副業・兼業は、労働者の収入増加とキャリア形成に寄与し、人手不足解消の手段として有効である。しかし、法定上限を超える労働は過労死のリスクがあるため、労働時間の通算管理を維持する必要がある。一方で、割増賃金制度における通算管理は困難であり、健康管理を前提に通算管理の廃止が提案される。労働安全衛生法の規定に基づき、副業従事者の労働時間が一定の基準を超えた場合、本業事業者が健康確保措置を講じる義務を負うべきであると考えられる。シンポジウムでは、多角的な議論を通じて労働時間管理と健康対策の重要性が強調された。
シンポジウム7
  • 小島 健一, 島津 美由紀, 金塚 たかし, 福島 南, 伊藤 克之, 岩谷 泰志
    2025 年4 巻1 号 p. 125-130
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    障害者差別の禁止と合理的配慮の義務化がされた背景には、疾病・障害の有無にかかわらず個人が尊重される共生社会の実現があるといえる。しかしながら、職場では当事者が働くためのニーズに応じた配慮が提供されていないことも少なくなく、その背景には、当事者と職場の間に理解のギャップが存在することがうかがわれる。これを改善するためには、当事者と職場側が互いの理解を深め、丁寧な対話を重ねることが重要と考えられる。本シンポジウムでは、精神・発達障害に焦点を絞り、当事者を支援する弁護士、様々な立場の就労支援者や医師から知見と経験が共有され、解決の糸口が模索された。
シンポジウム8
  • 菰口 高志, 矢内 美雪, 竹内 正司, 石﨑 由希子, 古屋 佑子
    2025 年4 巻1 号 p. 132-136
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    本稿は、日本産業保健法学会第4回学術大会にて開催したシンポジウム「治療と仕事の両立支援の課題と法」に関し、座長・演者がその成果を簡潔に報告するものである。身体疾患と精神疾患の2例を通じて、現場の課題を挙げた上で、法学の観点からは「配慮」の法的基盤とその範囲、健康情報の取扱いを論じ、医学の観点からは医療制度における両立支援の位置づけ、就業配慮に関する医学的意見の実務上の役割・課題を論じる。
シンポジウム9 新しい化学物質管理と事業者責任
連携学会シンポジウム1(日本産業精神保健学会) シャープNECディスプレイソリューションズ事件をめぐって
連携学会シンポジウム2(日本産業ストレス学会)
連携学会シンポジウム3(日本職業・災害医学会) 医師の働き方改革と法―研修医過労死事案をめぐって
  • 吉川 徹
    2025 年4 巻1 号 p. 186-192
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    過去11年(2010-2020)の日本の医師の過労死・過労自殺に関する労災認定事案57件(労災認定された脳・心臓疾患26件、精神障害・自殺31件)の実態と、医師の労働環境見直しに大きく影響を与えた関連裁判事例を紹介し、持続性ある医療制度改革のため導入された時間外労働の上限規制を含む医師の働き方改革で注目すべき点と医療機関における産業保健への期待を報告した。若手医師、とりわけ研修医における精神障害や自殺の労災認定事例が増加しており、結果としての長時間労働を含む過重労働を生じさせた勤務医の過酷な労働実態がある。1990年代以降、医師の労働者性や病院の安全配慮義務を問う訴訟が相次いだ。労働環境への社会的関心と2024年4月施行の時間外労働上限規制は、こうした医師の健康問題に対応する制度的転換点であると同時に、医療機関における産業保健体制を再構築する重要な契機となった。現場の実態に即した支援体制の整備と見直しが必要である。
  • 藤川 葵
    2025 年4 巻1 号 p. 193-199
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    2024年施行の医師の働き方改革関連制度は、我が国の医師の過重労働の諸課題に対応するものとして期待されている。多職種連携やタスク・シフト/シェアの推進が解決策の一つとして存在している。医師の働き方改革の成果を上げるためには、地域医療構想や医師偏在対策等の政策的アプローチを含め、医師の負担軽減が医療の質向上に繋がることを国民にも理解してもらい改革を推進していく必要がある。
連携学会シンポジウム4(全国社会保険労務士会連合会)
  • -職場のハラスメントによるメンタルヘルス不調-
    森本 英樹, 熊井 弘子, 秋山 陽子, 森 克義, 井上 一弘, 淀川 亮
    2025 年4 巻1 号 p. 201-208
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    この仮想事例は介護事業所のスタッフ間で発生した職場のハラスメントに端を発する。この事例にはハラスメントの予防、産業保健職不在事業所におけるメンタルヘルス不調者への対応、ハラスメント調査やハラスメント行為者懲戒処分の適切さ等の複数論点が含まれている。被害者はメンタルヘルス不調で休職、労災申請、訴訟も準備、まだ復職に至っていない。行為者は懲戒解雇後に労働審判を申し立てている。このような事例に社会保険労務士がどのように関われば予防、適切な事後措置、産業保健への連携ができるのか。労災申請、労働審判、民事訴訟にも触れながら、法的根拠に基づく対応を検討した。
連携学会シンポジウム6(日本プライマリ・ケア連合学会)
  • ~運転業務従事者を焦点に~
    安藤 明美, 渡邊 徹, 渋谷 純輝, 富田 さつき, 竹村 和也
    2025 年4 巻1 号 p. 210-216
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    ドライバーが健康問題を最初に相談する先となり得るプライマリ・ケア医が、様々な課題を抱えるトラック運送業界における就業可否判定において職域産業医とどのように連携できるのか模索した。各論点では企業側および労働者側の弁護士がそれぞれ当事者の思いを代弁し、症状や診断があいまいな要素を持ち唯一無二の対応が存在しない睡眠時無呼吸症候群が疑われる際の就業可否判断についてイメージが持てるような討論を展開した。
特別企画1
  • ~行為規範としての復職支援プログラムを考える~
    小島 健一, 秋山 陽子, 神田橋 宏治, 前園 健司, 森 悠太, 平島 奈津子, 吉野 美保
    2025 年4 巻1 号 p. 218-225
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    「職場は働く場所である」という労働契約の大原則を重視し、休職者に「原職復帰」を求める“高尾メソッド”は、本来、労使間の「対話」を尽くして運用されるものである。本セッションでは、産業医の立場からの質問を受けて、高尾メソッドを助言・指導している弁護士と社労士、最近導入に関与した精神科医、長年運用している人事担当が、本当の高尾メソッドの運用とその意義について発表し、会場からの質問や意見を交えて討議した。
特別企画2
  • ~産業医以外の職種を焦点に~
    立道 昌幸, 三柴 丈典, 高橋 明彦, 錦見 端, 後藤 健二, 松尾 玲奈, 三瓶 真理子
    2025 年4 巻1 号 p. 227-236
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    現在、労働安全衛生には多くの資格が紐付いているが、産業医や一定の背景を持つ限られた資格者以外、殆ど豊かに暮らせるだけの収入を得られていない。そこで、労働安全衛生業務を積極的に行っている、労働安全・衛生コンサルタント、オキュペイショナル・ハイジニスト、社会保険労務士、保健師、心理職の方々に、①成功・失敗経験、②個人的・政策的な課題、③同じく克服策、④自身の保有する資格の意義や、それが安全衛生業務上不可欠か、について報告して頂いた。結論的に、職種によっては、罰則の強化など、法政策の支援を得る必要があるが、自律的なリスク管理を重視する法政策の展開により、専門家の活用が進むとの意見や、基本的には、自身の職種の特性(差別化要素)を的確に認識することを前提に、支援先企業のニーズを的確に捉え、それを深掘りするような自助努力が必要との意見も見られた。また、職種間、職域地域間の連携の必要性も指摘された。
特別企画3
特別企画4
特別企画5 自然災害と産業保健法
  • 鎌田 耕一, 五⼗嵐 侑, 河合 塁
    2025 年4 巻1 号 p. 257-259
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    第一報告は、自然災害の発生時、復旧・復興時における被害の実態を、能登半島地震を例にしながら、紹介した。そのうえで、自然災害による被害の防止・軽減のために、産業保健スタッフの果たすべき役割、自然災害発生時、復旧・復興の各段階に応じて明らかにした。第二報告は、労働裁判例を素材にして、自然災害による被害の防止・軽減のための法的対策(例えば、安全配慮義務)を挙げたうえで、災害の予見可能性の立証において課題があることを解説した。さらに、自然災害による被害に対する補償の問題を考える場合、自然災害と精神疾患発生の因果関係の立証に課題があることを報告した。
  • 河合 塁
    2025 年4 巻1 号 p. 260-263
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    自然災害発生時には、労働者は様々な安全・健康リスクに晒される。本報告では、健康被害の事前の防止措置や安全配慮義務のあり方を報告し、特に発災前における防止措置の重要性や限界、そして労働者の主体的な権利としての就労拒否権ないし退避権の構成を提唱した。また事後の労働災害補償につき、適用自体は緩和の傾向にあるが、特に自然災害と精神疾患との因果関係の立証が困難であること、また、直接被災はしていない、復旧・復興作業に従事する者の補償の困難性を指摘した。
寄稿
  • 三柴 丈典
    2025 年4 巻1 号 p. 265-280
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    本稿は、Industry 4.0(I4.0)の技術革新が労働安全衛生(OHS)に与える影響と、それに適応する規制の在り方について文献レビューを基に考察している。I4.0では、AI を用いた自律的なロボットなどが導入され、作業の効率化とリスク低減が期待される一方で、新たなリスク(特に心理社会的リスク)や規制の課題も浮上している。I4.0 においては、規制が技術の進化に追随できず、従来のルールでは不十分である。そのため、プログラマーや製造者にリスク管理の責任を委ね、共同規制の仕組みを構築する必要がある。更に、ウェアラブル技術による健康モニタリングや、ビッグデータの活用によるリスク予測、プライバシー保護を伴うデータ管理の適正化(単なる強化ではない)が求められる。結論として、OHS 規制は予防的かつ柔軟であるべきであり、技術開発を阻害しない規制と共に、新技術の利点を最大限活用するためのガイドラインやセーフティネットの整備が不可欠とされる。リスクの予見及び管理が可能な者(広義のリスク創出者)に管理責任を課す原則の採用や徹底も必要である。これにより、設計者や製造者、プラットフォームや(部分的には)仕事の注文者らにリスク防止の責任を課すことができる。これには、受注者が安全かつ持続的に仕事を遂行できるかを確認する責任も含まれる。特に心理社会的リスクには、人と組織の相性や能力の適合性を重視したアプローチが重要である。
  • 久宗 周二, 岩浅 巧, 荒川 梨津子, 黒田 洋平, 川井 洋一
    2025 年4 巻1 号 p. 281-293
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    国の働き方改革の政策に併せて、産業医の導入をはじめ船員の健康管理をするための政策が導入された。各専門家の立場から、1. 船員における健康問題と過労死、2. 船員が多い宮城県石巻における船員の健康について、3. 船員法の改正による船員向け産業医の現状、4. 船員向け産業医の実情、5. 中小船社向けプログラム「笠岡モデル」の提案を解説する。
  • 葬儀業全国調査の概況から考察する感染対策や安置施設環境の自律的整備
    武藤 剛, 猪口 剛, 石橋 桜子, 大森 由紀, 弘田 量二, 橋本 晴男, 鈴木 規道, 鍵 直樹, 横山 和仁, 小島 健一
    2025 年4 巻1 号 p. 294-302
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    この半世紀わが国の年死亡数は一貫して上昇し、今後もさらに増加することが見込まれている。死者に対する弔いの形態は、地域や住民の文化、民俗性に極めて依存するものであるが、死亡数の増加に伴い、わが国の葬儀業の規模や従事人数が今後も増大傾向であると考えられる。多死社会の到来とともに、御遺体を取扱い、御遺族と接する業務に従事する労働者数は増えると予想される。届け出承認制度がない葬儀業の現状の労働安全衛生に関して、感染対策や、安置施設の冷蔵庫不足、ドライアイス取扱いや換気意識に関する課題が指摘される。重量物搬送、化学物質曝露、メンタルヘルス対策等とあわせ、厚労省研究班が実施した全国調査概況から示唆される労働衛生上の様々な葬儀業特有の課題を抽出し、特に感染対策と室内環境対策を中心とした基準ガイドライン作成にむけた方向性を提示する。
  • 横山 和仁
    2025 年4 巻1 号 p. 303-307
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/13
    ジャーナル フリー
    葬祭業の労働者は健康と安全に対する多くのリスクを有している。本稿では、葬祭業における日米の労働安全衛生施策を概観した。いずれの国も葬祭業を特定の対象とする法律はないが、米国では、葬祭ディレクターなどの教育・免許制度が確立し、併せて、州や民間機関によるOSHA順守の取り組みが進められている。わが国でも葬祭業労働者をエセンシャル・ワーカーとして認知し、その労働安全衛生施策を実現することが課題である。
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