2023 年 10 巻 p. 19-32
米国の高校における金融教育の義務化が進んできている。しかし、その時期と程度は州によって大幅に異なる。2023年8月時点で、16州が独立したパーソナルファイナンス科目を、14州がパーソナルファイナンスを他の科目に組み込んで提供することを高校の卒業要件としている。両者を合わせてパーソナルファイナンスを高校の卒業要件としている州は、2016年の17州から30州に増加したことになる。他方、3つの州とワシントンD.C.では、パーソナルファイナンスは教育基準に含められていない。このように州によって義務化の時期や質が大きく異なることが金融教育の義務化の効果に関する研究の機会を与えてくれた。これらの研究によれば、高校での金融教育の義務化は、おおむね金融リテラシーや金融行動に正の影響を与えている。高校での金融教育の義務化は、退職貯蓄には影響を及ぼさなかったが、金融リテラシーを高め、貯蓄を増加させ、クレジットスコアを改善し、延滞率を減少させ、ペイデーローンのような代替的金融サービスの利用を減少させ、低金利の学生ローンの申請・採用を増加させ、両親が大学卒でない学生および低所得の親を持つ学生の学生ローンの返済率を増加させ、主観的なファイナンシャル・ウェルビーイングを高めたが、高校の卒業率を悪化させることはなかった。しかし、一部の研究では、金融教育の義務化と金融行動との間に有意な関係を発見できていない。また、これらの研究は、金融教育の義務化の定義、調査時期、調査対象、分析方法など、リサーチデザインに大きな違いがあり、一般化することは困難である。