パーソナルファイナンス研究
Online ISSN : 2189-9258
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招待論文
  • 堂下 浩
    2023 年 10 巻 p. 3-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    2006年12月に自民党と公明党の連立政権下で政府は貸金業法を改正した。この法律は他の先進国には例を見ない過剰な規制をノンバンク市場にもたらした。法改正により、上限金利は年29.2%から年15~20%に引き下げられ(上限金利の引き下げ)、また審査時に源泉徴収票等の提出を義務付け、個人年収の3分の1を超える貸付けを原則禁止した(総量規制の導入)。

    06年法改正の審議プロセスは感情論が先行する一方で、実証データに基づいた科学的検証は蔑ろにされるという、あまりにも拙速なものであった。事実、法改正直後から信用力の劣る利用者層、特に零細事業主は深刻な貸し渋りに直面した。このため、貸金業法の実効性に対して疑問を呈した内閣府の規制改革会議は08年6月から金融庁に聞き取りを行うなど調査を開始した。この作業は同会議にて積極的に進められたものの、政権が自公連立から民主党に交代した後、規制改革会議の調査は停止に追い込まれた。結果として、民主党政権下の政府は貸金業法を10年6月に完全施行した。

    しかしながら、法律が完全施行された直後から、大阪府や国会の主要な党派は利用者の立場から貸金業法の抜本的見直しに着手しようと取り組む動向が見られるようになった。そこで、本稿は貸金業法が完全施行された10年6月から、民主党が自民党と公明党の勢力に大敗した12年12月の総選挙までの期間において、貸金業法の改正に向けた大阪府と国会の主要政党による取り組みについて調査する。なお残念であるが、こうした貸金業法を改正する勢いはその 後の自公政権下で徐々に消滅している。

  • ─ 海外文献のレビュー─
    坂野 友昭
    2023 年 10 巻 p. 19-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    米国の高校における金融教育の義務化が進んできている。しかし、その時期と程度は州によって大幅に異なる。2023年8月時点で、16州が独立したパーソナルファイナンス科目を、14州がパーソナルファイナンスを他の科目に組み込んで提供することを高校の卒業要件としている。両者を合わせてパーソナルファイナンスを高校の卒業要件としている州は、2016年の17州から30州に増加したことになる。他方、3つの州とワシントンD.C.では、パーソナルファイナンスは教育基準に含められていない。このように州によって義務化の時期や質が大きく異なることが金融教育の義務化の効果に関する研究の機会を与えてくれた。これらの研究によれば、高校での金融教育の義務化は、おおむね金融リテラシーや金融行動に正の影響を与えている。高校での金融教育の義務化は、退職貯蓄には影響を及ぼさなかったが、金融リテラシーを高め、貯蓄を増加させ、クレジットスコアを改善し、延滞率を減少させ、ペイデーローンのような代替的金融サービスの利用を減少させ、低金利の学生ローンの申請・採用を増加させ、両親が大学卒でない学生および低所得の親を持つ学生の学生ローンの返済率を増加させ、主観的なファイナンシャル・ウェルビーイングを高めたが、高校の卒業率を悪化させることはなかった。しかし、一部の研究では、金融教育の義務化と金融行動との間に有意な関係を発見できていない。また、これらの研究は、金融教育の義務化の定義、調査時期、調査対象、分析方法など、リサーチデザインに大きな違いがあり、一般化することは困難である。

査読付論文
  • ─ 合併談から紐解かれる第百銀行に着目した考察─
    伊藤 幸郎, 堂下 浩
    2023 年 10 巻 p. 33-46
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    1943年4月1日、太平洋戦争時において日本国家の軍需資金の需要に応えるという目的で、三井銀行と第一銀行、ならびに三菱銀行による第百銀行の合併が決定された。当時の新聞記事は、どの資料でも「それぞれの銀行は『自発的意思』に基づいて合併を進めた」という論調であった。しかしながら、これらの銀行の合併の組み合わせを比較すると、中でも第百銀行の立場は著しく不利であるため、第百銀行が自発的に合併を決定したとは考えにくい。

    そこで、我々は先ず銀行の合併が決着した直後の新聞記事や経済誌を整理した。次に、戦後に明らかになった銀行合併に関する資料を収集し、戦時下で発表された合併に関する内容との差異を比較分析した。

    その結果、三井銀行と第一銀行との合併と異なり、第百銀行が積極的に三菱銀行との合併談を進めた形跡を確認できなかった。つまり、合併の当事者でなく第三者が合併構想の中心となり、少なくとも第百銀行側の経営陣は蚊帳の外に置かれていた可能性が示唆される。

  • ─利用者の意見分析を通じて─
    岡本 力信, 川本 義海, 上村 祥代, 竹本 拓治
    2023 年 10 巻 p. 47-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    この研究の目的は、高速道路の商業施設(以下「SAPA」とする。)を対象として、そこに寄せられた利用者の声の分析を通じ、SAPAに接続する路線状況によるニーズの違い、またCOVID-19蔓延によるニーズの変化を明らかにし、それに沿って利用者の購買意欲に働きかけるようなSAPAの整備・サービス方針を提言することで、SAPA運営者の財務的な意思決定に寄与する事である。

    この目的に対し、仮説H1「SAPAへのニーズには路線毎に異なる」、仮説H2「SAPAが接続する路線の交通量も利用者のニーズに違いをもたらす」及び仮説H3「COVID-19蔓延前後でSAPAのニーズには変化がある」を設定し、その検証及びそれに基づく提言を行った。

    検証に用いるデータは、中日本高速道路㈱に対し2018年度から2020年度に寄せられた「お客さまの声」を用いた。分析に当たっては、頻出語を6つのカテゴリーに分類、これを基としてカイ2乗分析により路線別及び重交通区間及び非重交通区間別での傾向を分析した。

    路線別分析については、まず2018年度及び2019年度において、新東名高速道路等「駐車場」への関心が高かった一方で、同様に東西を繋ぐ東名高速道路では「食事」への関心が高いという違いが見られた。それら路線が2020年度になると「清潔」への関心が高まるなどの変化が見られ、仮説H1及び仮説H3を検証するものとなった。

    交通量別については、重交通区間と非重交通区間の区分において、前者は「施設設備(機能)」に、後者は「接客」に関心が高いといった特徴が見られた。次いで双方の区間の年度ごとの変化を確認すると、年度を経るごとに重交通区間では「施設設備(機能)」に代わり「清潔」への関心が、非重交通区間でも「接客」から「施設設備(機能)」へと関心が推移していた。この結果は仮説H2については検証するものとなったが、仮説H3を検証するものではなかった。

    これらの結果から、区域単位でのSAPAの差別化を進めるべく、ニーズに特徴のある路線、区間にある複数のSAPAを1つのグループとして取り扱い、それに即した設備投資、費用配分を行うことで、利用促進を図ることを提言とした。

  • ─PROMISE 金融経済教育セミナーを事例として─
    佐藤 亜美, 寺尾 隆, 本田 知央, 竹本 拓治
    2023 年 10 巻 p. 63-77
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、日本の高等学校で2022年4月から必修化された金融教育について取り上げる。2022年は日本の金融教育にとって大きな転換点であった。金融教育の必修化に加え、金融教育の重要性が高まるであろう成年年齢の引き下げ、そして岸田内閣が推進する資産倍増計画である。また足下では、政府の検討分科会において、2024年に新たな金融教育推進機構を立ち上げ、個人の資産形成を中立的に助言する専門資格を創設する事が報道されている。

    このような金融教育の機運の高まりの中、政府、業界団体だけでなく金融機関を中心とした民間部門においても積極的に金融リテラシー教育を推進する企業が増加している。ただ一方で、過去に世界又はアジア諸国と比較調査されたデータによると、日本の金融リテラシーの水準は、相対的に低位に留まっている。

    こうした日本の現状を踏まえ、日本の金融教育のあり方を問題意識とし、SMBCコンシューマーファイナンス株式会社(以下、CF社)は2011年よりCSR(企業の社会的責任)活動の一環として、「PROMISE 金融経済教育セミナー」を実施している。本研究では、「PROMISE 金融経済教育セミナー」受講者を分析対象とし、先行研究・事例と比較し論じていく。

    大藪・奥田(2014)は、金融教育の重要性を示しているものの、学校教育において授業時間数が限られている点を金融教育の課題として指摘している。また、殿垣(2023)によると、国民性が金融リテラシーの獲得に与える影響が強いとされる一方、日本は保守的な国民性であるため、個の主張がしやすい教育形態を作ることが重要であると示している。さらに竹本(2017)は、金融教育には知識教育からPBL的な教育といった段階的・体系的な遷移が必要であると提言している。

    分析手法として、「PROMISE 金融経済教育セミナー」を実際に受講した高校生、専門学校生に対して行ったアンケートを検証した。アンケート結果からは、「PROMISE 金融経済教育セミナー」は受講者の金融リテラシー向上に対し一定の効果が見られることがわかったものの、一方で限界も見えてきた。

    そこで研究では「PROMISE 金融経済教育セミナー」の今後の方向性を提言、延いては日本の金融教育プログラムの確立に向けた助言となることを目的とする。

English Summary
編集後記
奥付
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