2023 年 10 巻 p. 33-46
1943年4月1日、太平洋戦争時において日本国家の軍需資金の需要に応えるという目的で、三井銀行と第一銀行、ならびに三菱銀行による第百銀行の合併が決定された。当時の新聞記事は、どの資料でも「それぞれの銀行は『自発的意思』に基づいて合併を進めた」という論調であった。しかしながら、これらの銀行の合併の組み合わせを比較すると、中でも第百銀行の立場は著しく不利であるため、第百銀行が自発的に合併を決定したとは考えにくい。
そこで、我々は先ず銀行の合併が決着した直後の新聞記事や経済誌を整理した。次に、戦後に明らかになった銀行合併に関する資料を収集し、戦時下で発表された合併に関する内容との差異を比較分析した。
その結果、三井銀行と第一銀行との合併と異なり、第百銀行が積極的に三菱銀行との合併談を進めた形跡を確認できなかった。つまり、合併の当事者でなく第三者が合併構想の中心となり、少なくとも第百銀行側の経営陣は蚊帳の外に置かれていた可能性が示唆される。