抄録
医療技術の急進する社会状況の中で,意思確認が困難な高齢者への人工的水分・栄養補給法の一つである胃瘻は,
延命医療の文脈で語られることが多い。胃瘻は,手術の負担が少なくきわめて効果的な栄養法であるため,様々
な疾患に大きな福音をもたらしてきた。しかし,造設の対象が「高齢」で「意思確認が困難」となると,議論は
とたんに胃瘻導入の是非が問われるものとなり,本人・家族の日常の姿が見えないのが現状である。そこで本研
究は,摂食困難となった高齢者への胃瘻造設を選択し在宅で介護する家族の実態を明らかにすることを目的とし,①胃瘻を知った経緯,②胃瘻造設決定プロセス,③胃瘻の解釈の変容の3 つのカテゴリーを考察した。データはフィールドワークとインフォーマルインタビュー,半構造化インタビューによって収集し,エスノグラフィを記述した。その結果,①では,知る側の経験と知る状況の相互作用によって胃瘻の意味が解釈されていること,②では,予めの胃瘻の知識と,予めの心算が容態急変時の対応に有効であること,③では,「医療的処置」から「介護の道具」に胃瘻の意味をずらして活用することよって,家族は穏やかな日常生活を取り戻していることが明らかになった。