質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
伝統芸能の教授関係から捉える実践を通じた専門的技能の伝承
京舞篠塚流における稽古での「こだわり」に焦点を当てて
竹内 一真やまだ ようこ
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2014 年 13 巻 1 号 p. 215-237

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抄録
本稿では実践を通じて技能が伝えられる伝統芸能の稽古に着目し,伝承者が学習者との教授関係の中でどのようにこだわりを持ちながら自らの技能や知識を伝えているのかを明らかにした。京都市左京区で伝わる京舞篠塚流を対象として伝承者である篠塚瑞穂氏が学習者に関わる稽古の場面を中心に参与観察を行い,瑞穂氏が稽古のなかでどのように伝えているのかということに関するデータを集積し,分析を行った。分析では,こだわりを有する指導を対照的に捉えるためのカテゴリーである「特にこだわりが示されない指導」,そして,こだわりを有した指導からは「すでに教えたことがある重要な技能に対するこだわり」「技能を深めさせるためのこだわり」「技能の意義理解を促すためのこだわり」という 3 つのこだわり方の計 4 つのカテゴリーを抽出した。さらにそれら 4 つのカテゴリーの特徴を捉える 5 つの分析の観点が示された。これらの結果から,こだわりの役割として「強化」「深化」「誘導」といったものがあり,さらに伝承者が伝えたいと考える技能は学習者とのケアリング関係に基づいて伝わっていくことが示された。最後に伝承者と学習者の関係をナラティヴ・アプローチの観点から共同体に伝わる技能が世代を超えて伝わっていくプロセスを示し,伝承者を先行世代と後続世代を結ぶ媒介者という観点から考察を行った。
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© 2014 日本質的心理学会
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