質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
認知症高齢者はどのように同じ話を繰り返すのか
ループする物語の事例研究
田中 元基
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2014 年 13 巻 1 号 p. 84-98

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抄録
本研究は,認知症高齢者が同じ物語を連続して繰り返して話す,ループする物語が,認知症高齢者と聞き手との相互行為を通じ,どのように行われるかを検討した。1 人の認知症高齢者が語るループする物語に着目し,1 つの物語が終結し再び開始されるまでの接続部分の特徴を分析した。物語の話し手である認知症高齢者と聞き手との相互行為の分析から,ループする物語の持つ 2 つの特徴が明らかとなった。第 1 の特徴として,物語の開始とも終結ともとれる形式をもったシークエンスの重なりが接続部分に存在することが見いだされた。この開始シークエンスと終結シークエンスの形式的特徴が類似していたため,終結部分の開始部分への転換が可能となると考えられた。第 2 の特徴として,聞き手と話し手の役割を維持するような関わりが行われていることが見いだされた。話し手の語りに対し,聞き手は物語の終結後に期待される発話を行わないことで,話し手が継続して語ることを促したり,話し手が物語を更に語ることを要請する発話を行っていた。以上の特徴から,ループする物語は話し手と聞き手の共同的な相互行為によって立ち現れる現象であると考えられた。
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© 2014 日本質的心理学会
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