抄録
本研究では,乳幼児期の子どもの育ちの場のひとつとして自主保育を取り上げた。自主保育とは親たちが交代で乳幼児を預かり合う保育活動のことである。自主保育グループで働いていた保育者にインタビューを行い,彼女の語りから,彼女がどのように自主保育をとらえていたのかを明らかにし,自主保育という子どもの育ちの場の可能性について考察した。彼女の語り方に着目したところ,「OB の存在」「比較」という視点を見出した。OB は活動を続けていく上で参照する対象であり,参照することで日々の活動の意味を確認していることが考えられた。比較の語りには,「否定的参照」「既存の保育との比較」があった。大人目線の関わりを否定したり,既存の保育との比較を行うことによって,自主保育という実践の存在意義を確認していることが考えられた。そこから彼女のとらえた自主保育という育ちの場の特徴を,多様性,役割のない関係性,見守る姿勢の三点から考察し,その特徴を現役世代のみならず OB を含めた異世代で共有・実践する自主保育という共同体の独自性を指摘した。