質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
滞日中国人のライフストーリーから見る自我アイデンティティの交渉と構築
なぜ永住権を目指して働き続けるのか
中井 好男
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2017 年 16 巻 1 号 p. 116-134

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抄録
滞日外国人の中で最も多いのが中国出身者であり,現在も増加傾向にある。彼らの多くは,留学を経て就労するというパターンで滞日を続けている。本研究では,留学を経て就労している一人の滞日中国人のライフストーリーを用い,日本という異文化との接触によって個人に生じる内的な問題をアイデンティティに着目して考察した。得られたライフストーリーからは,中国社会のマスター・ナラティヴに影響を受けて構築された,現在の主体性につながる自我アイデンティティが見出された。そして,日本や中国社会との交渉を通じて,留学に見出していた「成功」の意味が変容していく過程を読み取ることができた。また,アイデンティティの交渉においては,様々な文化資本や日本におけるコミュニティからのエンパワーメントの存在が関連していることに加え,永住権をキーワードとするリプリゼンタティブ・エスニシティが問題点を回避するための妥協点として維持されていることも明らかになった。さらに,アイデンティティの交渉と構築の過程で,リプリゼンタティブ・エスニシティの変容や属するコミュニティによって異なるモデル・ストーリーからの影響も見られた。
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© 2017 日本質的心理学会
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