抄録
本研究は,日本の性犯罪者が性犯罪に至る過程を具体的に明らかにすることを目的とした。そのために,保護観察付執行猶予の判決を受け,または仮釈放された33人の保護観察中の性犯罪者が,性犯罪に関する専門的処遇プログラムにおいて記入したワークシートの自由記載と発言の内容を,グラウンデッド・セオリーの方法を参考にして,質的に分析した。分析の結果,15のカテゴリからなるモデルが見いだされた。そのモデルには,性犯罪者の生活上のつまずきや認知的要因といった,性犯罪に至る鍵となる要因が含まれていた。本研究の結果,このつまずきが重大なライフイベントであることが少なくなく,複数のつまずきが重なることが希ではないことが見いだされた。さらに,本研究の結果から,つまずきから,つまずきへの対処,不安定な心理状態,つまずきへのネガティブな捉え方のサイクルが誘発され,その後の認知的要因に結びついていることが明らかとなった。加えて,本研究の結果を踏まえ,性犯罪者のアセスメントと処遇の実践上の示唆について論じた。