質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
自閉症当事者の自伝が自閉症者家族の子ども理解に及ぼす影響
イアン・ハッキングによる「相互作用」理論に基づいた母親の語りの分析
渡邉 文春
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2019 年 19 巻 1 号 p. 126-140

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抄録
本稿の目的は,自閉症概念の変遷を踏まえ,自閉症当事者の自伝が,自閉症者家族の子ども理解にどのような影 響を及ぼすのかについて,ハッキングの「相互作用」理論を用いて母親の語りの分析を行い,考察し,明らかに することである。ハッキングの「相互作用」とは,概念と人々との相互作用を意味する。専門家によって分類さ れた「人間の種類」が,分類された人々の自己認識や行動様式に変化をもたらす。さらに分類された人々の反応が, 「人間の種類」と相互作用することによって,概念自体を書き換える可能性が生まれる。そして人を分類する概念 や人間の種類が形づくられる基盤となる社会的な状況を,「マトリックス」と定義している。当初,母親 M さん に見えていた自閉症の構図は,健常者のモデル像と我が子の発達を比較することで構築されていた。つまり健常 者をゴールとする同化主義的なマトリックスである。しかし,母親 M さんが当事者の自伝を読むことを通して得 られた視点は,これまでの理解を覆し,母親 M さんの同化主義的な視点と自閉症当事者の考え方が異なっている と分かった。自閉症者家族は,往々にして同化主義的なマトリックスに巻き込まれて,種々の困難に突き当たる。 ところが,自閉症当事者の自伝を読むことで得られた視点によって,新しいマトリックスの中に入り込むことが できる。その結果,自閉症当事者の特徴を当事者に近い視点から理解することができるようになる。
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© 2019 日本質的心理学会
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