質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
集中治療室看護師の何気ない行為の成り立ち
意思疎通困難な患者を“感じている人”として捉え直す
田代 幸子
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2019 年 19 巻 1 号 p. 158-174

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抄録

本研究は,集中治療室看護師が意思疎通困難な患者に対して行う何気ない行為の成り立ちを,看護実践場面の参 与観察とインタビューから現象学を手掛かりに記述するものである。看護師の何気ない行為は,身体という共通 の地盤と,時間的な厚みをもつ経験を手掛かりに,認識や判断の手前で看護師の知覚に直に浮かび上がる直接的 な経験に促され応答するという仕方で実践されていた。また,看護師は患者を意思疎通困難な状態にありながら も “感じている人” として見てとり,その見方に促され主客が分離した枠組みとは異なるケアを成り立たせてい た。そのような何気ない行為は,常に医学的な見方の背後にありそれを支えるものであった。他方で患者が語ら ないことは,看護師に問いかけながら行為するという対話的なあり様を促し,患者との関係の可能性を開いてい た。また,苦痛を示す患者の姿は,日々傍らに立つ看護師に「嫌なもの」として沈殿し,看護のあり方を促した。

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© 2019 日本質的心理学会
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