質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
断乳をめぐる母親の内的経験
断乳時期の決定に関与した要因に着目して
坂上 裕子
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 2 巻 1 号 p. 124-138

詳細
抄録

断乳の時期に関しては栄養学,歯学,心理学など様々な見地からの議論がなされてきたが,当事者である母親の視点はこれまで軽視されてきた。そこで本研究では,2 歳児の母親23 名に半構造化面接を行い,断乳時期の決定に関与した要因に着目しながら,断乳を巡る母親の内的経験を把捉することを試みた。母親の言及内容をカテゴリー化した結果,断乳の決定に関与した要因は,それがどの立場から哺乳・断乳を捉えた発言であるかによって,母親の個人的視点(授乳に伴う乳房の痛みや物理的制約),子どもの健康管理者としての視点(栄養管理や歯の健康管理),社会的視点(身近な他者の意見など),子どもの視点(哺乳が子どもにとって持つ意味や乳房を求めることへの共感など)の4 つの視点に関連した考えに整理できた。断乳の決定に関与した要因は,断乳を試みた時期によって異なっていた。早い時期(18 ヵ月齢以前)に断乳が完了した母子では,主に栄養管理(離乳食の進行状況など)という観点から断乳が行われており,これらの母親は断乳に伴う心理的葛藤を訴えることはほとんどなかった。一方,遅い時期(19 ヵ月齢以降)に断乳を試みた母子や,哺乳を継続していた母子では,多くの母親が乳房を求める子どもの視点と,他の視点間の葛藤を訴えていた。哺乳を継続していた母親は,子どもとの間で断乳に対する共通理解と合意を形成することによって,断乳を巡る葛藤に折り合いをつけているように考えられた。

著者関連情報
© 2003 日本質的心理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top