抄録
本研究は移行対象とのかかわりにおける青年期女性 10 名の語りをグラウンデッド・セオリー・アプローチを用
いて質的に分析することで,量的研究では焦点づけて議論されていなかった移行対象の心理的役割を検討したもの
である。分析の結果,移行対象の心理的役割は幼少期から青年期へと変遷をたどることが示唆された。その変遷は,
「移行対象によって自己感を強め個体化を促すプロセス」として一つの中心となるカテゴリーに集約された。移行
対象は,従来の移行対象研究で論じられてきた母親の代わりとしての心理的役割だけではなく,「情動調整の手段」
や「唯一無二の存在」として扱われることを通して所有者の「自己効力感の獲得」に寄与し,「自己感の強化」に
貢献することが示唆された。また,青年期においては子どもから大人への自立を促す役割を担うことが示唆され,
移行対象は必ずしも手放されて文化的活動へ拡散していかなければならないものではなく,発達段階に応じた心理
的役割が存在することが明らかとなった。