抄録
日本のフリースクールは,不登校の子どもにとっての居場所として位置付けられてきた。先行研究では,フリー
スクールを近代学校制度に対する批判から生まれ,それが有する問題点を乗り越えようとするものとして肯定的
に捉えてきた。しかし,多くのフリースクールは 10 年ほどで閉じられてしまう。そこで,本稿はフリースクール
の活動を休止した事例の分析を通して,フリースクールと称される実践の構造的問題について検討することを目
的とする。フリースクールを 10 年以上運営し,その後活動を休止した 2 名の設立者の語りを複線径路等至性モデ
リング(TEM)を用いて分析した。その結果,フリースクールにおいては目の前の子どもの現実や社会状況に向
き合うことと大人が掲げる理念を貫くことが常にせめぎ合いを続けながら実践が展開されるという構造的な問題
が存在しており,それゆえ設立者が掲げる理念がフリースクールの設立運営にプラスに作用する反面,理念と現
実とのずれにより,理念が実現できる新たな実践を求めて活動の休止へと作用する場合もあるという理念の両義
性が明らかになった。