抄録
本研究は,健常児との交流という状況において軽度知的障害児が自己を捉える枠組みを分析することによって,
軽度知的障害児のアイデンティティの特徴を明らかにすることを目的とする。一つの知的障害特別支援学校高等
部と一つの高等学校の間で行われた2 回の交流を対象とし,エスノグラフィーによって以下の三つのデータを収
集した。第一は,交流の様子のビデオ記録である。第二は,交流中の参加者の会話音声の記録である。第三は,2
名の知的障害のある協力者に対する交流後の再生刺激法インタビューである。これらのデータをもとに2 名の協
力者の経験をアイデンティティに注目して記述的現象学的アプローチを用いて分析した。結果として,第一に,
軽度知的障害児の交流経験が,個人的な出来事と関連づけられて語られることが示された。第二に,軽度知的障
害児は自己を障害児としてではなく他者と交流する一個人と捉えていることが示された。第三に,軽度知的障害
児は現在の自己を過去と未来と関連づけ,発達的に捉えていたことが明らかにされた。