質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
掃除ロボットに同行するフィールド観察研究
動く人工物から探索する人間の周囲に広がる意味
松本 光太郎
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2022 年 21 巻 1 号 p. 51-70

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抄録
人工物は通常自ら移動できず,人間が必要であった。動く人工物である掃除ロボットは,人間の身体から離れ, 人間を必要としなくなったように見えるが,一方で年式等が違わなければ機能や内的能力は変わらず,同じ環境 では概ね同じ動きをする。そのため,掃除ロボットの動きの違いは取り囲む環境に依存していて,掃除ロボット の動きを知ることは間接的に環境を設えた人間を知ることになる。また,掃除ロボットは単純な機能しか持たず 時間とともに変動する状況には対応できないが,すでに多くの家庭で使用されている。本研究では,動く掃除ロ ボットから人間の周囲に広がる意味を探索するために,掃除ロボットを使用している家庭を訪問して,掃除ロ ボットによる掃除に同行して観察することを通して,掃除ロボットの動き,環境との接触,人間の行為を採集し た。事例の整理・分析から,(1)ロボットが物に接触すること,特に軽い物や可動物,そして自然物である人間 に接触し,新たな環境ができること,(2)ロボットの環境は物理的環境のみで成り立ち,人間の環境は物理的環 境と心理的環境で成り立っていること,ロボットの物理的環境との接触は人間の配慮で成り立っていること,(3) 人間による配慮は,人間と家の系にロボットが加わった人間-ロボット-家の系において生まれていることを明 らかにした。ロボットの観察を通して人間を理解する方法の可能性も示した。
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© 2022 日本質的心理学会
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