抄録
ビデオ観察ツールCAVScene1)を用いた参与観察では,観察者が観察中に「遊び」として捉えた出来事を,映像
クリップとして切り出して記録することができる。本研究では,始まりと終わりが定義しづらい子どもたちの仲
間との間で生じる「遊び」という現象について,クリップの切り出しという観察者のツール操作を手がかりにす
ることで,その様相を明らかにした。1・2 歳児の仲間との遊びを観察したデータを二次的資料として用い,観察
者のツール操作によって生み出されたクリップの長さに着目した分析を行った。その結果,1・2 歳児の遊びが創
発的に展開する様子が見えてきた。「同じ場所で持続した遊び」では,遊びのテーマを全員が共有していない中で
外部からもたらされる変化を楽しみながら遊びが続いていくことが示唆された。「同じ人と持続した遊び」では,
遊びの停滞を含みつつも,身体表現などによって互いに意思を伝え合い,遊びが続く様子が捉えられた。特に1
歳児で多く撮られていた短いクリップでは,突発的な協同が生じている様子や,仲間の遊びに魅了されるように
じっと見ている子どもの姿を捉えていた。本研究は,CAVScene という新しいビデオ観察ツールを用いたメディ
アの拡張によって可視化された,クリップの切り出しという観察時のツール操作の痕跡を手がかりに,1・2 歳児
の仲間との遊びの具体的な様相を明らかにした。