質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
説明・解釈から調整・共生へ
対話的相互理解実践にむけた自閉症をめぐる現象学・当事者視点の理論的検討
山本 登志哉渡辺 忠温大内 雅登
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2023 年 22 巻 1 号 p. 62-82

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抄録
発達障がい者と定型発達者の共生を如何に実現していくか,という問題を,主にASD(Autism Spectrum Disorder:自閉症スペクトラム障がい)をめぐる困難とその理解に関連した先行研究を取り上げながら理論的に検討した。その際,ASD 者を「不完全な定型発達者」と見なすのではなく,「定型発達者とは異なる特性をもって生きる主体」と考える立場から,ASD 者と非ASD 者の間に発生しやすい困難を,「異なる特性を持つ主体間のディスコミュニケーションが顕在化した状態」と考える視点を採用した。そのズレの調整のために,非ASD者とは異なる「ASD 当事者の視点」に注目することの重要性を指摘し,関連する理論・実践として,村上靖彦による「自閉症の現象学」や熊谷晋一郎や綾屋紗月らによる「当事者研究」を参照した。そのうえで,早くから浜田寿美男によって注目されてきた,対人コミュニケーションの一般的基礎としての「能動=受動」の図地一体構造に関わる現象に両研究が共通して注目している点を確認し,社会的相互行為の一般構造として「能動=受動」の多重の媒介構造を図式化したEMS(Expanded Mediational Structure:拡張された媒介構造)概念を用いつつ,非ASD者による一方的な説明・解釈ではなく,対話的相互理解に基づく関係調整が必要であることについて考察を行った。
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© 2023 日本質的心理学会
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