抄録
本稿では,精神疾患をもつ人々とかかわり,支援するとはどういうことかを,精神科病棟の看護師の「ケアし,ケアされる」経験に注目して記述することにより探究する。そして,「ケアし,ケアされる」経験をした看護師の側から患者を捉えなおすことを目指す。精神科病棟の看護師に対して非構成的面接を実施し,インタビュー・データを現象学的に分析した。看護師たちは,言葉にしたり,意識したりすることが困難な患者たちの思いや意向を模索しながら,入院中だけではなく,退院後までも彼らを気遣い続けていた。そこでは,看護師たちはケアを通して,患者へ関心を向け,共感して,理解を深めていた。他方で,それらのケアの是非や効果は分かりづらく,長期の間,ケアは更新されながら,対象や場所を広げ継続される中で,看護師の「ケアされる」経験が生じていた。以上のことから,精神疾患をもつ人々とかかわり支援するとは,様々な状況においてかかわりを継続していくことで,彼らへの理解をすすめていくことであった。そこで看護師は「ケアされる」経験だけでなく,癒やしやエネルギー,勇気を与えられたり,新たな役割を発見したりする機会を得ていた。そうした「ケアし,ケアされる」経験を通じて,看護師は患者たちの本来の資質も見出し,彼らを妄想や暴言暴力があり,理解することが困難な人たちというよりも,一人の人として捉えなおしていた。