抄録
人が人としてこの世界に「存る」ということを,小児がんの子どもたちの生きる姿から考える。一般的に,人が人として「存る」とは,個人が「生きる」ことと同じであるととらえられているが,医療人類学では,人が人として「存る」ということを,それぞれの文化の医療の制度や,医療の実践とのかかわりのなかで,より広くとらえていく。小児がん医療には,医師・看護師・セラピストからなる多職種のチームが,子どもの病気からの快復を支えている。子どもたち自身も快復を目指し,体力をつけ,治療に向き合っていく。他方で,治療の手立てがなくなり,自分に与えられた時間を生きていく子どももいる。人間の文化としての小児がんの医療制度やケアは,人が人として「存る/生きる」ということの何に光をあてるのだろうか。ヘルス・エスノグラフィの資料をもとに,この問いについて考え,子どもの生命(いのち)の多様なあり方を尊重する社会づくりに向けて,「存ることの公平性」という概念を提唱する。