抄録
従来の質問紙による研究において高齢者の死の意味づけと宗教性の間には単純な相関が示されてきたが,その質的な側面,すなわち意味の豊かさや宗教との複雑な関係性は十分に把捉されてきたとは言い難い。本研究は老年期にある浄土真宗僧侶が,宗教教義の提供する聖なる物語をどのように引用することで死の意味づけを構築しているのかを,ライフストーリーのテーマと意味の源泉から明らかにしようとするものである。10 名の老年期にある浄土真宗僧侶を対象として,インタビューガイドを用いた半構造化インタビューを実施した。結果,ライフストーリーのテーマから「教義ストーリー」,「私ストーリー」,そして「双義ストーリー」の 3 つの類型が見出された。また意味の源泉として浄土真宗との教育的関わり,家族との死別体験,門徒や友人との関わり,重篤な病や事故の経験,そして自己の死の意味づけの 5 つが同定され,それらと類型との関係性が明らかとなった。さらに本研究で得られた結果を,物語構造や生成継承性との関連において検討した。