浅間火山において約2.4万年前に発生した大規模山体崩壊を起源とする堆積物は, 岩屑なだれとして全域にもたらされたと考えられている.
浅間火山からの距離が異なる中之条盆地から関東平野北西部に至る3露頭において, 岩屑なだれ堆積物とその下位層であるイベント前の河床堆積物をそれぞれ系統的に採取し, 蛍光X線分析によってそれらの化学組成を調べた.
岩屑なだれ堆積物のSiO2濃度は, 浅間火山からの距離に関わらず低く, 給源とされる黒斑山の岩石の組成と調和的である. 一方, イベント前の河床堆積物は, SiO2濃度が高く, 岩屑なだれ堆積物とは明瞭に異なる. 最下部を除いて, 岩屑なだれブロックと岩屑なだれマトリクスとの組成の差異は, ともに認めがたい. 一方, 岩屑なだれ堆積物の最下部の試料は, イベント前の河床堆積物に類似した組成を有す. これらのことから, 最下部を除く岩屑なだれの大部分は, おもに給源火山体の岩石からなる「プラグ」部に相当すると解釈される. また, 岩屑なだれ堆積物の最下部では, 岩屑なだれの流下に伴って強いせん断応力が働き, 岩屑なだれ堆積物と河床堆積物とが顕著に混合する状態が生じていたと考えられる. すなわち, 岩屑なだれ基底部には, 「層流境界層」が形成されていたと解釈される.
以上により, 浅間火山における大規模山体崩壊によって生じた土砂は, 大局的には90km以上の距離にわたり, プラグフローとしての性質を保持した高速の岩屑なだれであったと考えられる.