第四紀研究
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総説
水の安定同位体比による古気温推定の研究
—極域氷床コアからの数千年スケールの気候変動の復元—
植村 立
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2007 年 46 巻 2 号 p. 147-164

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抄録

最終氷期において,グリーンランドと南極で数千年周期の気候変動の位相が異なっていたことが,氷床コアなどの解析によって明らかになった.このような変動のメカニズムを理解するためには,過去の気候を正確に復元する必要がある.極域氷床コアから過去の気温変動を推定するには,掘削点における降水の安定同位体比を気温に校正する必要があり,それには現在の観測による地域的な両者の相関関係が用いられてきた.ところが,掘削孔内温度の解析や気泡空気の同位体分析といった新しい手法により,グリーンランド内陸においては,従来の手法が実際の気温変動を約半分に推定することがわかってきた.この過小評価の有力な原因は,降雪量の季節変動パターンの変化である.また,降水の同位体比は,水蒸気が蒸発した海域の表面水温の影響も受ける.近年,極域氷床コアのd-excess(水の水素と酸素安定同位体比を組み合わせた指標)を用いて,水蒸気が蒸発した海域の古環境復元が行われている.この水蒸気の起源海域の変動を考慮すると,水同位体比の変動から推定される気温変動の波形が変化する可能性がある.

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© 2007 日本第四紀学会
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