長野県中部松本盆地の南縁部には,梨ノ木礫層と呼ばれる陸成堆積物が分布している.梨ノ木礫層は盆地内部を埋積した最初の堆積物とされ,その堆積年代は松本盆地の形成過程を検討する上で注目されてきたが,確定していなかった.そこで,梨ノ木礫層と同礫層を整合に覆う梨ノ木ローム層中に挟在する10層のテフラを記載し,年代の明らかな古期御岳火山テフラとの対比を検討した.その結果,10層のテフラのうちには古期御岳火山テフラと明確に対比できるものがあり,梨ノ木礫層の堆積は約0.78Maには始まり,約0.64Maまでには終了したことが示された.
さらに,テフラ対比により梨ノ木礫層は,上総層群・国本層上部~長南層もしくは笠森層基底部に対比され,MIS 19~17もしくは16の堆積物であることが明らかになった.これにより,梨ノ木礫層は単一の氷期-間氷期サイクル間の堆積物ではないことが示され,松本盆地と飛騨山脈の地形コントラストの顕在化により形成された堆積物と推定された.