2010 年 49 巻 5 号 p. 299-308
新第三紀から第四紀への植物相と植生の変遷に基づいた,中部ヨーロッパと中部日本の新第三紀・第四紀境界の研究史をレビューし,酸素同位体比曲線が示す新第三紀から第四紀への気候変化との関連で,植生・植物相の変化の様相が変わる時期を検討した.中部ヨーロッパ,日本とも氷期・間氷期サイクルの様式が変わり,氷期がより寒冷になる時期に,植生や植物相の変化がおきている.中部ヨーロッパでは,第四紀の氷期の特徴となる植生変化が第四紀初頭のPraetiglianに起きている.近畿地方では,約3.3~2.6 Ma, 約1.2~0.9 Ma, 0.5 Ma~20 kaに第三紀に繁栄した植物群の絶滅が集中し,1.7 Maには第四紀の氷期を特徴づける大型植物化石群が出現した.中部日本周辺の鮮新・更新世の植物群の絶滅は,気候の寒冷・乾燥化だけではなく,海水準変動や地形の変化も関連していると考えられた.