第四紀研究
Online ISSN : 1881-8129
Print ISSN : 0418-2642
ISSN-L : 0418-2642
長野県野尻湖層産「ヒメネズミ」切歯化石の分類の再検討
河村 善也野尻湖哺乳類グループ
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 33 巻 1 号 p. 31-35

詳細
抄録

野尻湖層からこれまでに産出したとされる8種類の哺乳類のうち, ヒメネズミと同定された化石は保存の悪い下顎切歯1点のみである. この標本は解歯目の下顎切歯の特徴をもつが, ヒメネズミと同定することには大きな疑問がある. そこで, この標本を詳しく観察して計測を行なうとともに, 現在の本州で普通に見られ, 同じ地域の後期更新世の化石産地からも多産する4種の齧歯類 (スミスネズミ, ハタネズミ, アカネズミ, ヒメネズミ) の現生標本の下顎切歯とこの標本を比較した. その結果, この標本はヒメネズミの下顎切歯と比べて, 曲率半径や幅が著しく大きく, 断面の形態も異なっていることが明らかになった. また, この標本は上記の4種の中ではハタネズミの下顎切歯に最もよく似ていることがわかった. しかし, 齧歯目にはこれら4種以外にも, きわめて多くの現生種や化石種が知られており, それらの大部分の種では切歯の形態の特徴がほとんどわかっていないので, 今回の標本の分類学的位置は齧歯目としか同定できない. 以上のことは, この標本を従来のようにヒメネズミと同定することが誤りであることを示しており, 野尻湖層産の哺乳類のリストからは, ヒメネズミを削除すべきである.

著者関連情報
© 日本第四紀学会
前の記事 次の記事
feedback
Top