第四紀研究
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パキスタン北部アトック盆地に分布する後期更新世レス・古土壌堆積物の粒度組成とその古気候解析
ディン ニザム吉田 充夫
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1997 年 36 巻 1 号 p. 43-53

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抄録

アトック盆地ハロ川流域に分布する後期更新世のレス・古土壌堆積物(約130~16ka)の層序を検討し,篩い法および遠心分離沈殿法による粒度分析を行い,これらの結果から古気候解析を行った.本レス・古土壌堆積物は7層準に古土壌を挾む(上位よりPS-1~PS-7と命名)厚いレス堆積物より構成されている.粒度組成の特徴は,レスと古土壌で明瞭な差異を呈し,レスは一般に淘汰度が良く,unimodal,leptokurtic,negatively-skewedの組成を示すのに対し,古土壌は淘汰度がやや不良で,顕著なbimodal組成の傾向を示す.また,レスは相対的に細粒でシルト質成分に富むのに対し,古土壌は砂質成分に富む組成を示す.ハロ川のレス・古土壌堆積物の粒度組成(モード,Median粒径,シルト成分含有量,砂質成分含有量)の層序変化を検討したところ,PS-4古土壌層を境にして下部レス層と上部レス層に大局的に区分できることが明らかになった.下部レス層は砂質成分に富み,Median粒径が不規則に変化し,比較的粗粒であるのに対し,上部レス層はシルト質成分に富み,Median粒径が相対的に安定し,細粒である.また,モード組成の変化に注目すると,各古土壌層を境にしてレス堆積物の粒度組成に周期的な上方細粒化の傾向が認められる(図6).
下部レス層から上部レス層への粒度組成変化,特にシルト含有量の変化とMedian粒径の変化は,後期更新世における本地方の内陸性気候の変化を示している可能性がある.すなわち,レスを形成した南アジア・モンスーン気候の変化がレスの粒度組成に反映していると考えることができる.中国黄土高原でのモデルを援用するならば,下部レス層の時代は夏季モンスーンが卓越していたのに対し,上部レス層の時代は冬季モンスーンが支配的であったと解釈される.この下部から上部への気候の変化は,北部パキスタンにおける最終間氷期から最終氷期への移行を示すものかもしれない.

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