北海道南西部の森町濁川周辺に分布する最終氷期末期(約12,000yrs BP)の濁川テフラに埋積された材化石群集および花粉化石から,植生を復元した.濁川テフラ内やその直下から得られた炭化材・材化石は,いずれもモミ属が最も多く,次いでトウヒ属,カバノキ属,カラマツ属,バラ属が産出した.これまでの大型植物化石の研究から,モミ属はトドマツ,カラマツ属はグイマツであると思われる.樹木花粉組成は,主としてモミ属・トウヒ属・カバノキ属からなり,ほかにマツ属,ハンノキ属,クマシデ属,ニレ属を伴う.主要花粉の組成は,材化石の組成とほぼ一致する結果が得られた.また,草本花粉・胞子の組成はシダ植物の胞子が多く,ヨモギ属やイネ科,カヤツリグサ科の花粉などを伴う.材化石および花粉化石から復元される濁川盆地周辺の植生は,森林においてはモミ属が卓越し,トウヒ属・カバノキ属を混じえ,ハンノキ属・バラ属を伴っている.また,林床や森林周縁においてはシダ植物が優占し,ヨモギ属やイネ科,カヤツリグサ科の草本が生育していたと推定される.最終氷期末期の濁川周辺のトドマツが卓越する植生は,最終氷期最寒冷期より温暖な気候条件を反映したものであると考えられる.