第四紀研究
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飯山盆地周辺山地における最終氷期以降の植生変遷
関口 千穂
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2001 年 40 巻 1 号 p. 1-17

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抄録

飯山盆地周辺山地における森林植生の変遷を明らかにするために,北ドブ湿原(標高1,550m),茶屋池湿原(標高1,100m),沼の原湿原(標高830m)においてボーリング調査を行い,得られた湿原堆積物について14C年代測定,テフラの同定,花粉分析を行った.笹ヶ峰(標高1,280m)では,露頭から採取した泥炭層の花粉分析を行った.湿原堆積物中には,多数の示標テフラが認められ,北ドブ湿原と沼の原湿原の堆積物は最終氷期の約18,000~17,000yrs BP以降,茶屋池湿原のそれは御岳潟町テフラ(On-Kt)が介在することから,最終氷期前半にさかのぼる堆積物であることが明らかになった.
湿原堆積物と笹ヶ峰で採取した泥炭層の花粉分析結果から,飯山盆地周辺山地ではIB-I帯からIB-VI帯までの6地域花粉帯が設定される.本地域の植生変遷をこれらの地域花粉帯ごとにまとめると,IB-I帯:最終氷期前半の温帯性針葉樹と落葉広葉樹の混生する疎林期(約93,000~74,000yrs BP),IB-II帯:AT降下前の亜寒帯性針葉樹と落葉広葉樹の混生する疎林期(約26,000~25,000yrs BP),IB-III帯:最終氷期後半の亜寒帯性針葉樹とカバノキ属が混生する森林期(約18,000~14,000yrs BP),IB-IV帯:晩氷期のカバノキ属優占の落葉広葉樹林期(約14,000~10,000yrs BP),IB-V帯:後氷期の最温暖期を含むブナの優占する落葉広葉樹林期(約10,000~4,000yrs BP),IB-VI帯:ブナ優占の落葉広葉樹林が卓越するが,針葉樹林も生育地を拡大する時期(約4,000yrs BP以降)となる.
飯山盆地周辺山地における約10,000yrs BP以降のブナの優占する落葉広葉樹林の発達は,ブナ林が急速に成立・拡大したことを示唆し,このブナ林の発達は,晩氷期以降に本地域が多雪地となったことに強く関連していると考えられる.

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