本研究は,本人の強い願いで退院した重症心不全患者が,穏やかな自宅療養を継続できている事例を「ケアの意味を見つめる事例研究」を用いて省察し,その看護の実践を明らかにした事例研究である.
実践は,3つの【大見出し】と20の小見出しで表された.看護師は,退院直後から生命の危機,家族の意向のズレで療養方針が決まらない危機,妻の介護危機といった困難を捉えたが,どんなふうになっても最期まで支えると腹をくくる決意をした上で,A氏の人生の輝きを掬すくい出しながら,自宅療養継続という目的地への道のりを俯瞰し危機の手前で手を打ち【A氏が望む自宅療養過程全体の受け皿で居続ける】ようにした.
そして,それを基盤に,家族の意向のズレに対しては,家族の中にスッと入り込み,出しゃばらず,ここぞというタイミングで家族の本音を聞くチャレンジをして,家族一人ひとりの思いを置き去りにせず繋ぎ【妻を中心に家族をだんだん引き寄せ繋げて丸くまとめ(る)】,家族全員の自宅療養継続への納得を得た.退院当初不安が強かった妻には,いざという時に駆け付けるという安心を保障し,頑張りすぎないように伝えて介護破綻を予防した上で,妻が主体的にできることをキャッチし段階的に増やしていった.また,本人をよく知る専門家として妻をリスペクトし横並びで知恵を出し合い【A氏にぴったりなケアを妻と二人で日々創り出していく】ことを重ねた.これらにより穏やかな自宅療養の継続が実現したと考える.