中小企業会計研究
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書面添付制度の歴史的経緯とその役割
―税理士による税務に関する保証業務―
小川 晃司
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 2020 巻 6 号 p. 2-13

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抄録

 わが国では,書面添付制度が「税理士による税務に関する保証業務」であるという認識が一般化されていない。そこで,本稿では,1956 年に創設された書面添付制度の7 年前,「税務官公署に対し提出する財務諸表等について証明を行うことを業とした税務公証士を資格者として加える」提案がなされていた事実を踏まえ,書面添付制度の「歴史的経緯」を概観し,当該制度が「税理士による税務申告書の信頼性を高める税務に関する保証業務」である,という考察を行った。

 書面添付制度は,税理士が,税理士法第1 条に定める「納税義務の適正な実現を図る」ため,税理士が自らの「資格を賭して」行うものであり,当該業務によって税務申告書の信頼性が高められる。

 保証業務は情報の責任者が,独立した第三者にその情報の信頼性を担保してもらい,情報利用者の信頼を得るために行うものである。

 ①先行研究によれば,書面添付制度は,税務に関する保証業務という点で「世界でわが国だけに存在する画期的な制度」であり,その位置付けは,「一種の証明行為,監査と同類の性格」,「税務申告書に添付された監査証明書」,「税務監査証明業務」とする有力な見解がある。

 ②書面添付制度創設までの経緯において,国税庁が「税理士は税務書類の監査証明業務が出来る」とする試案を大蔵省側と交渉している。

 ③税理士には税理士法によって実質的独立性の堅持が求められる。

 ④情報利用者(税務官公署)が書面添付制度による税務申告書の信頼性に高い評価を与えていることについて,実績データから証明できる。

 ⑤保証業務はその様々な属性から「保証の内容がグラデーションをなして」おり,税務に関する保証業務もその1つと考えられる。

 以上の考察から,書面添付制度は,保証業務の趣旨と合致し,当該制度は「税理士による税務に関する保証業務」であるとの結論を得た。

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