2024 年 2024 巻 10 号 p. 95-108
わが国では中小企業における統合報告導入はなかなか進んでいない。そのような中,実際に導入した際にどのような効果があるかを探求することが本研究の目的である。統合報告書作成に従業員を主体的に関わらせた場合における,従業員の成長や意識の変化,また,それによる組織の変化の有無を明らかにする。統合報告書を作成する数少ない中小企業である能勢鋼材株式会社を調査対象とし,統合報告書作成の過程を観察した。その結果,従業員に生じる意識や行動の変化,および組織内に生じる変化の有無とその変化の特性は,Stubbs and Higgins(2014)と比較し,「移行」にとどまらず「浸透」の兆しが見られることが明らかになった。統合報告導入の初期である2014 年頃には見られなかった組織文化の変容が,時間の経過により統合報告書についての理解の深まりとともに見られるようになった。