2012 年 8 巻 1 号 p. 101-108
受験者の処遇を左右するハイ・ステイクスな試験では,試験問題の内容の秘匿は何にも増して重要である。本研究では,リスニングテストの試験問題の内容を知ることになる話し手が,誰であるかを秘匿することを目的の一つとして,音声信号処理技術を適用し,リスニングテストの音声の声質変換を試みた。変換された合成音声を用いて実験用リスニングテストを作成して検証実験を行った。実験ではオリジナルの話者と比べて,大柄な話者が想起される低ピッチ声質条件と,小柄な話者が思い起こされる高ピッチ声質条件の,2系統の実験条件を設定した。実験の結果,変換合成音声を用いたテストの成績と,原音声でのテスト成績の間に有意な差は見られなかった。変換された音声の品質改善の余地はあるものの,話者の秘匿をはじめとした多様な用途に,変換合成音声を活用することができる可能性が示唆された。