抄録
本発表の目的は、独立後南スーダンのヌエル(Nuer)社会における政治秩序を構成する要素を明らかにするとともに、ヌエルの人々の国家と秩序をめぐる想像力について考察することにある。特に、植民地期以降の国家権力の台頭とともに展開してきた紙(waragak)という媒体の力に着目し、人々が住民投票の際、紙のさきに見出していた神/クウォス(kuɔth)と自己の関係性について論じる。本発表では、ヌエル社会における「正当・真正性thuɔk」や「権利cuong」、そして「帰属/家ciℇng」の概念を足掛かりとしながら、外来の権力装置と在来の権威、神話と現代、複数の秩序の様式が複雑に絡み合う中で人々に経験される国家の姿を捉えることを試みる。秩序をめぐるさまざまな想像力と、それに対するヌエルの人びとの実践や語りを取り上げることで、(想像上の)秩序の断続的な模倣と国家の(再)概念化の中で創出される新たな秩序の様式を描き出す。