抄録
本発表では、中国・マカオ社会における、中国大陸出身「外労」の事例から、マイノリティについて考察する。マカオにおける「外労(オィロゥ)」とは、マカオの「外地労工(オィディロゥゴン)」(外部からの労働者)のことである。公式には「外地僱員(オィディグーユィン)」と呼ばれている。「外労」という語は、マカオ社会現行の「一国二制度」によって生まれた呼び方であり、異なる社会制度、雇用制度の生んだものである。しかし、フィリピンやベトナムからの「外労」がそのままマカオに居住するのに対して、中国大陸出身の「外労」はマカオに隣接する中国大陸の珠海市(ジューハイシー)に居住する人が多い。一国二制度によって中国大陸からマカオに行くには「関閘(グァンザゥ)」(ボーダーゲート)を通る必要があるため、平日は毎日10万人以上の「外労」が珠海市とマカオのボーダーを跨いでいる。このように、珠海市とマカオを跨ぐ中国大陸出身の「外労」は、両社会の「制度を往復する」人たちであると言える。発表者はマカオ社会の視座に立ち「外労」をマイノリティと定義する。本発表は、就労空間と生活空間が分断されつつも、それらを労働者が自身の中で統合しているという点に注目しつつ、「制度を往復する」中国大陸出身の「外労」の生についての考察を行う。