抄録
本分科会が検討するのは、メルロ=ポンティやドゥルーズとガタリなどによって展開されてきた現象学的な議論に傾斜した文化理論の萌芽的可能性である。このような視座は、パプアニューギニアのボサビ高地における音楽、環境、情動の相互作用についてフィールドワークを行ったフェルドによって、「音響認識論acoustemology」として理論化が試みられた。本分科会ではフェルドの議論を換骨奪胎するというよりは、その示唆するところに従って、新たに「リ/ゾナンス」re-sonanceという概念を設定して、フィールドにおける議論へとつなげていく。Resonanceの原義は「再び鳴るresound」というラテン語である。つまり、resonanceとは2回性を帯びた現象を指すと同時に、そこには聴取に関する認識論的領野が開けていることも意味している。そこで、resonanceのもつre-という接頭辞を強調して、これを「リ/ゾナンス」と呼ぶことにした。言い換えれば、リ/ゾナンスとは、音楽のようなものにおける反復的なもの、のことである。そして、音楽人類学の目的は、民族誌という現地の人との共同作業を通じて、これをケーススタディとしてリ/ゾナンスについて概念化することにある。