抄録
本論考は、奈良県天川村洞川で開催された地域協創型芸術祭「九鬼祭」を事例に、地域の伝承と現代アートの融合による新たな文化創造の可能性を探る。オリジナル・ストーリー「九鬼物語」を核とし、アーティストが運営主体となって地域住民との協働を通じ「物語を生きる」という独自のアプローチを社会実装した。本祭はコミュニティ・エンゲージメントの実践でもあり、伝統的な鬼の伝承を現代的に再解釈し、アーティストと地域住民が共に創り上げる過程で、文化的アイデンティティの再構築や持続可能な文化的エコシステムの形成が図られた。本論考では、芸術祭が地域社会の変容と文化創造の触媒として機能すること、そして、地域住民との協働による協創型地域振興の可能性を論述する。