災害情報
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特集 東京電力福島第一原子力発電所事故から5年―放射線災害と情報―
損害賠償と情報―放射線被曝と賠償に関する論点
除本 理史
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2016 年 14 巻 p. 50-55

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抄録

本稿では、福島原発災害における損害賠償と情報の問題を取り扱う。まず第1節では、この問題をめぐるいくつかの論点――①福島原発の津波対策をめぐる責任と情報公開、②事故当初の避難に関する情報伝達と初期被曝の慰謝料、③放射線被曝のリスクとその認知に関連する被害の賠償、④損害賠償の和解解決に関する情報の共有、を概観する。本稿ではこのうち③、とくに「自主避難者」への賠償についてみていく。第2節では、原発事故賠償の仕組みと、「自主避難者」賠償の経緯および到達点について説明する。そこでは、避難指示区域外(政府指示の目安は年間20mSv)の住民が低線量被曝に対して抱く恐怖・不安の合理性について、議論が曖昧なまま残されていることを指摘する。第3節ではこの論点について、①「予防原則」、②市民のリスク認知、という2つの角度から論じる。また、最近出された「自主避難者」訴訟の京都地裁判決を取り上げ、「欠如モデル」や年間20mSv基準の問題点などを検討する。

現在、事故被害者の集団訴訟が全国に広がっている。これは、東京電力と国に対して損害賠償を求める訴訟だが、それだけでなく「被曝を避ける権利」の確立をめざす狙いもある。低線量被曝のリスクをめぐって、司法は、政府・東京電力と住民との双方向的なリスクコミュニケーションの場として機能しうる。今後の司法判断のゆくえが注目される。

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© 2016 日本災害情報学会
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